第弐の噂「ロッカーのイズミさん」④
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
時計の館で、緊急の捜査会議が始まった。
「まず、今回我々は昨夜発生した沢田征爾の事件、そして1週間前に起きた瀬戸不動産の社長令嬢で不動産屋を経営していた瀬戸織恵が自宅の部屋で死亡した変死事件を、ロッカーのイズミさんと言う怪異が引き起こした特別事案として捜査を行うように、国家公安委員会から正式な命令が下った」
桜花がホワイトボードに関係者の顔写真を貼り付けて、事件の概要について書きあげていく。
「今回の事件の被害者の瀬戸織恵、そして昨晩小野塚自然公園で発見された沢田征爾。この二人は口の中に大量の汚水を流し込まれて溺死させられて死んでいる点と、密室の中で部屋中がびしょぬれになっている状態で発見されている。そして、彼らが死ぬ直前に何をしていたか調べてみた結果、ある共通点を発見した」
「共通点?」
「ああ、この二人は死ぬ前に亀の杜学園のプールに入っていく姿を学校に残っていた学生たちが目撃をしていた。警備員に尋ねて確認をしたら、入校書には二人の名前が書かれてあった」
「・・・ボスは霧江と一緒に、亀の杜学園に向かっていたのですか?」
「ああ。貴様たちと捜査会議を行う時に手ぶらでは来れんからな」
今日は朝から霧江を連れ出して、一回も0係の部屋に戻ってこなかった桜花と霧江は実は亀の杜学園に向かって一仕事をしていたようだ。
「ああ、お前たちにはロッカーのイズミさんに関する情報を調べてもらっている間に、こっちは事件の背景や気になることがあったものでな」
「気になることって・・・?」
明良が尋ねると、先ほどまで顔をうつむいたまま一言も話さなかった霧江の口が開いた。
「・・・瀬戸織恵、そして沢田征爾。この二人、あたし、知っているんだ。この二人、あたしと同じ高校の同級生だったんだよ」
「ああ、コイツからその話を聞いた時には私も驚いたがな。しかも、霧江とは同じクラスメートだったらしい。亀の杜学園の特進クラスだったそうだ」
「特進クラス!?」
そこで、珍しく英美里が驚いたように声を上げた。
「ちょ、どうしたんですか、英美里?その特進クラスって、何ですか?」
「亀の杜学園の特進クラスって言えば英才教育の特別学級で、全校生徒の中から学年20位以内の選ばれた生徒しか入れない超エリートコースなのよ!?まさか霧江があたしの後輩だったなんて思わなかったわ」
「・・・まあ、あたしは万年20位の特進クラスで一番のおちこぼれだったんだけどね。その当時、特進クラスではそういったおちこぼれが足を引っ張っているって言いだした子がいて、あたし、ちょっとした嫌がらせを受けていたことがあるの」
その嫌がらせの内容は教科書を隠されたり、筆記用具を捨てられたり、陰口を叩かれたりされるものだったが、徐々にその内容がエスカレートしていき、階段を下りている途中で突然背中を突き飛ばされたり、机やいすに落書きをされたり傷つけられたりすることまで起きるようになっていったという。
「・・・そのいじめを取り仕切っていたのが、特進クラスの委員長をしていた瀬戸と、沢田、そして潮という子がいて、特進クラスの生徒たちはみんな彼女たちに目をつけられないように気を配っていたわ。彼女たちに目をつけられたら最後、特に瀬戸は蛇のように残忍な性格で、手下の沢田と潮を使ってじわじわと獲物を甚振ることが好きなヤツだったわ」
霧江の瞳に憎悪の色が宿る。
わずかだが身体が震えて、それを必死で抑え込んでいるようにも見える霧江の様子から、瀬戸たちのいじめがどれだけ霧江を苦しめてきたのか、明良は戦慄する。
「・・・そんなあたしをかばって助けてくれたのが、同じクラスの池田君と泉美だったわ」
「・・・その泉美っていう人が、まさか、噂になっているロッカーのイズミさんのことですか?」
「・・・おそらくね。池田君が選抜大会の最中に突然亡くなった時のことや、池田君の彼女で女子水泳部の部長をしていたイズミさんっていう子のことは間違いなくあたしの友達だった清瀬泉美のことだと思う。6年前に起きたあの悪夢のような出来事とほとんどそっくりの内容だったから」
霧江の言葉に明良たちが息を飲んだ。
ロッカーのイズミさんと呼ばれている怪異が、霧江の親友だった女子生徒『清瀬泉美』の霊である可能性がある。そして、ロッカーのイズミさんの噂で語られている事件の内容が、6年前に起きた事件と似ている個所がいくつもあるため、彼女たちの死から生まれた噂である可能性が極めて高くなった。
「・・・そして、今度の事件の被害者の二人は、霧江を虐めていたのを邪魔されて、今度は池田と清瀬をターゲットにして執拗に嫌がらせを行っていたらしい。だから、掲示板で書かれてたうわさ話が全て事実を基に作られたものだとしたら、池田が選抜大会の最中に突然溺れて亡くなったのも、ただの事故とは思えないな」
掲示板にはI君という男子生徒は違法薬物を盛られて、そのせいで選抜中に発作を起こして亡くなったと書かれてあった。これも事実だとしたら、6年前の事故は実は殺人と言うことになる。
「まさか、今度の事件は6年前に亡くなった清瀬泉美さんがロッカーのイズミさんという怪異となって、池田さんに何かを仕掛けた瀬戸と沢田に復讐をしたということですか?」
「・・・信じたくないけど、もしロッカーのイズミさんが本当に泉美だったら、もし今度の事件が6年前の復讐だとしたら、もうこれ以上誰かを手にかけるのは止めなくちゃいけないと思った。でも、桜花さんがあたしを引き留めて話を聞いてくれて、0係のみんなに相談をして見ようってことになったの。あたし、もし桜花さんがあの時止めてくれなかったら一人で突っ走っていたと思う」
「そしたら巽の愚痴や刑事部が追っている今の事件とかで、色々と情報が入ってきたからな。そこへ、正式な特命が下りた。これで我々も捜査を行うことが出来るというわけさ。何せ調べようにも、あの亀の杜学園の運営は警視庁や警察庁にも太いパイプでつながっているから、迂闊に手が出せないからな。学園で起きた不祥事もこれまで何件マスコミにかん口令が敷かれて、はじめからなかったこととして処理されてきたことか。明良、貴様もそれは分かっているだろう?」
桜花が尋ねると、明良も真剣な面持ちで頷いた。
亀の杜学園という言葉が出てきたとき、明良の表情には明らかに戸惑いや怒りといった感情の変化が見受けられていたのを、桜花は見逃さなかった。
「ボス、それはどういうことですか?」
「明良がここに飛ばされる原因になった元凶、2か月前に起きた連続通り魔殺人事件の犯人だった学生もこの学校に通っていたそうだ」
「ええっ!?」
「明良が捜査を行って、彼らが犯人である証拠をいくつも掴んだのだが、その証拠をことごとくもみ消された上に明良たちは捜査本部から突然外された。それは、犯人グループのリーダーの生徒の父親が民自党の次期総裁と期待されているほどの大物政治家で大事な選挙を控えている時期に息子が逮捕されてスキャンダルになることを恐れて、上層部に圧力をかけたからだったのさ」
「覚えていますよ、2か月前のあの事件の裏ではそんなことがあったんですね」
「それで、まさかここに南雲さんが飛ばされてきたのって・・・」
「お察しのとおり、コイツは捜査本部から外されても命令を無視して捜査を強行した結果、犯人を見事捕まえて父親の政治家を失脚させて、日本中を騒がせたというわけさ。それで上層部からの度重なる命令無視で一時は懲戒免職になりかけたんだが、上の計らいでここに飛ばされる羽目になったんだと」
「あの時は大騒ぎだったねえ。しかし、まさか民自党の次期総裁ともいえる相手に楯突くなんて無茶もいいところだねえ」
「明良君、無茶し過ぎだでな。消されたりでもしたらどうするところだったのさ」
「消されるって、そんな、ドラマじゃないんですから・・・」
由香や茜も、明良が0係に飛ばされてきた経緯までは知らなかったらしく、あきれ果てたような顔になった。
「まあ、話に戻るが、とにかく6年前に起きた事件の真実を突き止める班と、そして、ロッカーのイズミさんが出るという亀の杜学園のプールを調べる班の二つに分かれようと思っている。英美里は6年前に起きた池田という生徒が事故死した事件と清瀬が亡くなった事件に関する情報を集めてほしい。その情報を参考に生活安全課や刑事課に資料の請求を牡丹、貴様に頼みたい」
「了解しました。ボス」
「どうせヒマだから、この後早速知らべてみますよ」
「そして、明良と霧江は明日から亀の杜学園のプールに向かって捜査を行ってほしい。ただし、深入りだけはするな。もし怪異の存在を確認したら、報告だけにとどめておけ。今回の怪異の説得は5人全員で行う」
「分かりました」
「あっきー、よろしくね」
「全員十分に気をつけておくように。今度の相手はもう二人も手にかけている。ロッカーの噂を知らずに開けてしまった生徒が狙われる可能性もある。ロッカー及び男子更衣室、プールには絶対に誰も近づけないように学園には私が手配をして置くから、貴様たちも気をつけて捜査にかかってくれたまえ」
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