第弐の噂「ロッカーのイズミさん」③
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
『ロッカーのイズミさん』について検索をしていたら、心霊現象やオカルト関係の話題が中心となっている掲示板で引っかかった。
掲示板で見た情報をまとめると、ロッカーのイズミさんというのは、都内にあるK高校で語り継がれている水泳部の女子部員の幽霊のことを指しているようだ。
6年前、都内のK高校の水泳部にI君という生徒がいた。彼は泳ぎがすごく上手で、水泳の大会で何度も優勝するなどその実力はかなりのものだった。I君には幼なじみで恋人のKさんという水泳部の女子部員がおり、美男美女で仲のいい二人はお似合いの恋人同士だったという。
しかし、その人気を妬んだ水泳部の部員たちの何人かがI君に嫌がらせをするようになった。I君のロッカーの中にゴミを投げ込んだり、水着を切り刻んだり、落書きをされるなど嫌がらせは日に日にエスカレートをしていった。水泳部の顧問に相談をしても、悪ふざけだと言ってまともに取り合ってもらえなかった。
そんなある日、とうとう事件が起きた。
全国大会の出場権をかけて、市内で行われた水泳大会の決勝戦で競技中に突然I君が溺れてしまい、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ。さらに解剖の結果、彼は亡くなる前に違法な薬物を大量に摂取していたことが判明し、その副作用で心臓が発作を起こしたことが死因だと判明した。そんな時、I君が普段から違法な薬物を摂取して、超人的な活躍ぶりをしていたという情報が掲示板や噂で流れ出した。
世間やマスコミ、学園は今度の事件はI君が違法薬物を常用していたことによる事故であるという噂が飛び交い、彼の栄光は一転してバッシングを受けるようになった。しかし、彼女のKさんだけはその噂が嘘であることを信じていた。そして独自で彼の無実を証明するために調べていたが、I君が亡くなった1週間後に今度はKさんがK高校のプールで亡くなっているのが発見された。プールサイドには彼女のスマホがあり、そこには遺書のようなメッセージが書かれていたことと、睡眠薬を大量に飲んでプールに飛び込み自殺を図ったとみられ、この事件は自殺で処理された。
それ以来、K高校のプールでは奇妙な事件が起こるようになった。毎年夏になると、午後4時44分44秒にプールの水がまるで血のように赤く染まり出したり、誰もいないはずのプールから何かが飛び込むような水音が聞こえたり、掃除したはずのプールサイドや部室にびしょぬれの足跡がつくようになったという目撃証言が出てくるようになった。
そして、I君が使用していたロッカーを落書きしたり、傷つけたり、壊そうとすると、プールの中から亡くなったKさんこと”キヨセ・イズミ”さんの霊が現れて、襲い掛かってくるという噂が流れた。彼女はロッカーを汚した人間にこう聞いてくるという。
ーお前が、やったのか?-
そこで頷いたり、逃げたり、返答に答えないと彼女に呪われてしまう。呪われたら、1週間以内に大量の汚水を口の中に流し込まれて溺死させられてしまうという。呪いから逃れるには「I君を殺したのは〇〇〇です」と他人に呪いを擦り付けさせなければならない。
「・・・嫌になる話ですね」
「不幸の手紙と同じケースの怪談ですね。こういったうわさ話は被害者が出ていないという時点で全くのデタラメと言うことになるのですが、今度は本当に被害者が出ています。汚水を流し込まれて溺死させられたという同じような方法で殺害された被害者たちについても、詳しく調べてみた方がよさそうですね」
「この”キヨセ・イズミ”だけど、6年前に亀の杜学園のプールで自殺を図った女子水泳部の部長だった生徒と同じ名前なんだけど、もしかして、その噂ってこの事件がきっかけで生まれたってことかしら?」
英美里のパソコンの画面には、6年前に亀の杜学園で女子生徒が変死体で発見されたという小さな記事が表示されていた。
「ちょうどその事件が起こる数日前に、全国大会の出場校を決めるための大会が開催されていて、大会の最中に亀の杜学園水泳部の『池田圭祐』という生徒が心臓発作を起こしてプールで溺れてしまったの。病院に運ばれたときにはもう手の施しようがなかったらしいわ。その事件のすぐ後に起きたから、この事件が池田圭祐の彼女だったっていう”キヨセ・イズミ”が亡くなった事件とみて間違いないと思う」
「今度の噂の発端は、6年前に起きたこの事故で間違いなさそうですね」
全国大会の選抜大会の最中に突然心臓発作で亡くなった、池田圭祐。
池田圭祐が薬物を使っていたという疑惑を必死で否定していた、彼女の”キヨセ・イズミ”の死。
そしてその彼女をモデルとしている怪異『ロッカーのイズミさん』。
全ての鍵は6年前に起きたこの事件にあると明良たちは確信した。
その時、明良たちのスマホに一斉にメッセージが届いた。開くと、それは桜花からだった。
内容は『業務終了後、全員純喫茶『時計の館』に集合』とのことだった。
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一方で刑事部でも動きがあった。
「獅子島さん!!ありました!!」
沢田征爾の自宅でもある高級マンションの一室で、家宅捜査をしていると鷲尾が興奮した様子で手に分厚い紙の束を持ってきた。獅子島が受け取って、厳つい表情がさらに凶悪度が増すような、眉間に深くしわを刻んで目視する。
「間違いないわね。亀の杜学園の全校生徒や全教員の個人情報のリストだわ。巽ちゃんが掴んでいた情報は間違いなかったみたいね」
「沢田は名簿屋をやっていたってことか?」
名簿屋とは、氏名・住所・電話番号のような個人を特定できる個人情報をリストにして販売する業者を指しており、沢田はこれらの情報を何らかの形で不正に手に入れて、その情報を反社会的勢力の組織や半グレグループに売り飛ばしていることが分かったのだ。沢田が入手したリストを用いて、詐欺、恐喝などの犯罪に利用されていることを生活安全課の巽課長は突き止めていたのだ。
「亀の杜学園と言えば芸能人や役人、官僚の子供が通っている名門校だからね。そこに通う学生で金が合って社会的地位のある家を狙うのに、このリストはまさに金の生る木っていうヤツね」
「玄武会はこれで荒稼ぎをしていたらしいッス」
「ふざけた真似をしてくれやがって。それで、その沢田が今、どうしてお得意様の反社会的勢力から命を狙われなけりゃいけなくなったんだ?」
青鮫が部屋の中を見回すと、部屋の中はまるで嵐でも吹き荒れたような惨状となっていた。障子やふすまの扉は強引に外されて床に無造作に捨てられており、窓ガラスは割られてほとんど枠だけになっており、あっちこっちにものが散らばっていた。
土足で押し入ったのか、床には無数の足跡がついていた。よほど部屋を荒らした相手はいらだっていたのか、床には曲がったゴルフクラブが落ちており、そこらじゅうをゴルフクラブで力いっぱい殴りつけたような箇所があった。机の上のノートパソコンは原形をとどめないほどに破壊されており、ハードディスクを無理矢理引き抜かれていた。
さらに沢田のスマホが地面に落ちていた。
液晶画面にはひびが入っているが、電源を押すと辛うじてまだ起動できる状態になっていた。獅子島はスマホを鑑識課員に手渡すと、会話を再開する。
「一番可能性が高いのは玄武会の河内組らしいわよ。元々は沢田から名簿を買い取っていたんだけど、沢田が金に目がくらんで河内組と敵対している組に河内組の情報を漏らしたらしくてね、それで3日前に河内組が駅前のクラブで飲んでいるところに鉄砲玉が押し入って、銃撃戦になったの。それで河内組の若い衆が何人も犠牲になった事件、知っているでしょう?」
「ああ、それなら知っている。つまり、金欲しさに組を裏切って情報を流した沢田にけじめをとらせるために、河内組が沢田を血眼になって探し回っているってわけか」
「かなりまずい状況らしいッスよ。河内組の若頭も銃撃で亡くなっているから、組長の河内恭介はどんな手段を使ってでも沢田を見つけ出すように、組員たちに発破をかけているらしいッス」
「玄武会の狂犬ねぇ。何をやるか分からない凶暴なヤツよ。その上頭の回転も異常に速いときている。そうなると、沢田があんな形で死んでいたのは河内たちが関わっている可能性があるわねえ」
「口の中に汚水を流し込んで溺死させるなんて、そんな猟奇的なやり方、確かにまともなヤツがやることは思えないっスね。そこらへんから当たってみましょうか?」
「そうだな」
その後、刑事部は沢田征爾の事件を玄武会による報復の可能性が高いということで、関係者に当たって事件の早期解決を図るため、捜査を開始した。
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心霊スポット紹介② 私立亀の杜学園・プール
玄冬町にある、芸能人や役人、官僚の子供が多く通う都内でも有数の名門校。しかし、6年前には水泳部のエースと期待されていた男子部員が薬物に手を出し、全国大会の選抜の最中に発作を起こして溺死したり、水泳部の女子部員がプールで自殺するなどの事件が起きてからは入学者が年々減りつつあり、生徒の中には非行に手を出したり、不登校やいじめ、セクハラなどの事件が度々起きるようになり、運営部が多額の金を積んで警察関係や報道にかん口令を敷くなど、黒いうわさが絶えないようになった。プールでは誰もいないプールで誰かが飛び込む音が聞こえたり、使われていないプールサイドや部室に濡れた足跡がついていたり、亡くなった男子部員が使っていたロッカーを使おうとしたり、落書きや傷をつけたりすると、女子部員の幽霊が現れて呪われてしまうという噂も広まっている。