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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第弐の噂「ロッカーのイズミさん」
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第弐の噂「ロッカーのイズミさん」②

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 事情聴取が終わり、無事釈放された。


「・・・娑婆の空気は美味しいね」


「馬鹿な事言ってンじゃねえよ」


 小野塚市警察署の屋上。

 青鮫と明良はベンチに並んで座り、ブラックコーヒーを飲んでいた。事情聴取が終わり、0係の部屋に戻ろうとしていた明良を青鮫が呼び止めて、屋上に連れてきたのだ。


「海雪さん、久しぶりだね。どうして警察官になったこと、教えてくれなかったんだよ」


「連絡しようとしたさ。でもよ、あんな別れ方をしておいて今更どんな顔をして会いに行けんだよ」


 ほろ苦いブラックコーヒーを流し込むように飲み干して、雲一つなく晴れ渡った青空を見上げて思いをはせるように、青鮫が深くため息をついた。


「それにしても、国家公務員試験に受かってキャリア組で入庁したって聞いていたのに、そのキャリアをたった2年足らずでパーにしやがったばかりか、よりによって左遷先があの0係とはさすがにねえだろうが」


「まあ、色々とあってね」


「聞いてるよ。お前、かなり無茶やらかしたって。全く、総裁選で次期総裁がほぼ確定と言われていた政治家のバカ息子がやらかした事件を解決するために、上からの命令をことごとく無視して突き進むとはな。学生時代からそういう無茶をやるところは全く変わってねえんだから。私がカンニングの濡れ衣を着せられて退学になりかけていた時、校長室にまで怒鳴り込んで、冤罪を着せた犯人を突き出してきて必死に無実を訴えてさ。そこまでやったらお前まで学校にいづらくなるだろって突っ込みたかったけどな」


「・・・ごめん、でも、どうしても引けなかったから。被害を受けて苦しんでいる人がいるのに、上から突然有無を言わせずいきなり捜査本部を解散させられたり、僕たちの班が事件の捜査から外されたりして、どうしても納得できなかったから・・・」


「・・・まあ、お前らしいけどな。でも、組織において上からの命令は絶対で、命令に従えないヤツは組織にはいらない。組織の結束を乱したことについては、お前は警察官としてやったことは失格かもしれねえ。・・・でも、私はお前は人間としては間違ったことはしてねえと思ってる」


 それは半年前に都内で発生していた、集団で帰宅中のサラリーマンや学生をターゲットにして、暴行を加えて金銭を奪う連続通り魔事件・・・通称「ヤタガラス事件」と呼ばれる事件だった。都内の大学に通う大学生たちが遊ぶ金欲しさに覆面強盗を起こした。彼らはヤタガラスをシンボルとするスカジャンを着込んでいるのが特徴で、被害者は3か月の間に10人にも上った。


 死者が1名、長期入院が3名、意識不明で今も集中治療室で治療を受けているのが1名。それだけの被害者が出ているにも関わらず、警察はヤタガラスのメンバーの特定が出来ないばかりか、捜査が後手後手に回って、マスコミからも被害者たちからも警察は非難されていた。でも、それは警察の上層部が捜査情報において犯人の手掛かりに繋がるものを極秘裏に握りつぶしていたことが原因だった。


 その時、捜査線上にはある容疑者が挙がっていた。でもその人物は民自党の次期総裁選で注目を浴びている大物政治家の息子だった。あとから知った話だが、その政治家は息子たちが通り魔グループで、彼らが人の命まで奪っていたことまで気づいていたのに、彼らを自首させようとしなかったばかりか、次期総裁の椅子を守るために警察庁の上層部たちに相談を持ち掛けて、金や天下り先のあっせんなどで優遇させる代わりに、彼らを見逃すように頼み込んできた。そしてそれを上層部は金や次期総裁に恩を売っておこうとして、その案を飲んでしまったのだ。


 しかし、それを全部ぶち壊しにしたのが明良であった。

 彼らが犯人であることを証明する有力な証拠を調べ上げてきて、バカ息子を含めた犯人グループは全員海外に留学する手前で逮捕して、政治家と警察の上層部の癒着まで全部調べ上げて明らかにしまったせいで、政治家は失脚された上に逮捕されて、政界も世間も大騒ぎになった。それで明良には、度重なる命令無視や職務規定違反ということで、当初は懲戒免職が決まっていた。しかし、国家公安委員会のある人物が明良が持つ不思議な能力、超触覚に目につけたことで、0係に左遷されてきて現在に至る。


「まあキャリア組になって妙に天狗になっていたり、0係に飛ばされて腐っていたら一発ぶん殴ってやろうかとは思っていたけど、どうやらその心配はなかったみたいだな」


「まあ、一時は落ち込んだけどさ、この部署でしか出来ないこともあるって言うことが分かったっていうかね。え、海雪さん、僕のことを心配してくれていたの?」


「えっ!・・・あー、もう、やっぱりその能天気な面に一発ぶち込んでやりたくなってきたわ」


 呆気にとられた顏をしたかと思うと、顔を真っ赤にして拳を握りしめてきた青鮫に、明良は困惑する。その時、青鮫のポケットの中のスマホが鳴った。スマホを取り出して画面を見ると、それは上司の獅子島からだった。何か事件の捜査で動きがあったらしい。


「・・・えっと、それじゃ、今から仕事に戻ります。引き留めてしまって失礼しました、南雲警部補」


「え?あの、その、急に敬語って?」


「巡査部長が警部補にタメ口をたたくなどあってはなりません。公私ともにけじめをつけるのが私の流儀です。あと、0係は絶対に我々刑事部が取り扱っている事件の捜査には絶対に首を突っ込まないでください。特にあのバカサイや偉そうな警視殿には首に縄をつけてでも勝手に行動をしないように、監視のほど、しっかりとよろしくお願いいたします」


 仕事になると、プライベートの気さくで少々乱暴で荒っぽいが親しみやすい話し方をしていた青鮫が丁寧な敬語を交えてまるで別人のように振る舞い、明良はぽかんと口を開いたまま、ただ頷くしか出来なかった。


 そして屋上から出て行こうとした時、青鮫が足を止めた。


「あと警部補殿、これは0係に流しても別に構わない情報だと思うので、これだけはご報告いたします。被害者の沢田ですが、亡くなる数日前に高校の同級生たち数人にチャットでメッセージを送っていました。その中のメッセージに、彼は”ロッカーのイズミさん”と名乗る何者かに命を狙われていると怯えていたようです。調べてみたところ、その”ロッカーのイズミさん”というのは、彼が昔通っていた私立亀の杜(かめのもり)学園で有名になっている悪霊らしいです。ま、まあ、そんなもの、この世にいるわけないんですけどね!!」


 悪霊。


 青鮫はどこか顔色が悪く、青ざめている様子でそんな言葉を口にすると足早に走り去っていった。青鮫の背中を見送ると、明良は思い当たる節があった。


「海雪さん、そういえばお化けとかオカルトとか全然ダメだった」


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 0係の部署に戻り、青鮫から受けた報告を伝えると桜花が「なるほどな」と意味ありげに答えた。


「そのチャットで話していた人物について、巽が捜査資料を見せてくれたのだがな、どうもその高校の同級生の人間が、実は今回亡くなった沢田と同じような死に方をしていることが判明したのだ」


「そうだったんですか!?もしかして、彼らも同じようにロッカーのイズミさんとかいう怪異の話に見立てたように亡くなっていたのですか?」


「ああ、沢田と高校時代に同じ水泳部だった人間がもう一人、沢田と同じように口から大量に汚水を流し込まれて溺死させられた状態で発見されている。この二人に共通しているのは、全員がそれぞれ密室の中で亡くなっていた。そしてその水からはわずかだが塩素の成分が検出されたらしい。おそらく彼らが無理矢理流し込まれたのはプールで使われていた水に近いものであることが鑑識が突き止めたそうだ」


 元水泳部の部員たちが、プールで使われていた塩素入りの汚水を流し込まれて溺死させられた。

 そして彼らが怯えていた”ロッカーのイズミさん”という怪異の存在。まだ断定はないが、これらの断片が何かで繋がっているように明良は思えてならなかった。


「・・・それでな、今さっき上から事件の捜査の特命が下った。それがまさに、このロッカーのイズミさんに関する事件の解決および怪異の消滅もしくは成仏の依頼だったのさ。それで、貴様には今回牡丹と組んで行動をしてもらいたい」


「分かりました。あれ、そういえば葛西さんはどこにいるんですか?」


 明良が部屋を見回すが、そこには相棒の霧江の姿がなかった。


「・・・ああ、霧江か。霧江は今回私と一緒に組んで行動をすることになった。だがその前に、私は霧江から少々話を聞きたいことがあってな。アイツは話せるようになったら取調室の一つを準備しているからそこで二人きりで話し合うことになっている。それについては後で報告をするよ」


 桜花はどこか疲れた様子でため息をつくと、部屋を出て行った。

 霧江に一体何があったのか、明良の胸には不安が宿っていた。



この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!


登場人物紹介

『刑事部三羽ガラス』:小野塚市警察署刑事部に所属している獅子島陸巡査部長、青鮫海雪巡査部長、鷲尾天真巡査の3人組。事あるごとに捜査権がないのに、現場にしゃしゃり出てくる0係の存在を好ましく思っておらず、現場で顔を合わせるたびに衝突する。しかし、利害が一致すれば時々捜査情報を提供したり、しぶしぶだが0係に協力をしてくれる時もある。刑事としての実力は優秀だが、0係が絡んでくるとそのとばっちりを受けたり、不運に見舞われたりするため、傍から見たらポンコツな行動が目立ってしまうなど不憫な役が回ってくる。

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