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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第弐の噂「ロッカーのイズミさん」
18/57

第弐の噂「ロッカーのイズミさん」①

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 小野塚市、朱夏町にある市民の憩いの場として利用されている公園『小野塚自然公園』。


 夜になると、正門と裏門が閉じられて、灯りもなく不気味な静けさと雰囲気に満ちた闇が広がっているため、ウィーチューバーの間では「トイレで流した赤ん坊の霊の泣き声が聞こえてくる」、「雑木林の中で自殺した男性の霊が首を吊った状態で現れる」という噂がいくつも飛び交っており、心霊スポットとして囁かれている。


 そんなある日の深夜だった。

 公園の駐車場の入り口前には黄色と黒の立ち入り禁止のロープが張られ、制服を着込んだ警察官たちが何事かと覗き込んでくる野次馬を追い払っていた。その奥にある駐車場の公衆トイレはただならない空気が漂っていた。紺色の制服を着込んだ鑑識課員が公衆トイレや駐車場の中をくまなく見まわし、カメラのフラッシュを何度も焚いている。刑事たちの怒号にも似た指示が飛び交い、騒然としていた。


「被害者はここのトイレの3番目の個室の中ですでに死亡している状態で発見されました。鑑識さんの話によると、被害者の死因はどうやら溺死の可能性が高いとのことです」


 小野塚市警察署刑事課に今年配属されたばかりの新人刑事、鷲尾わしお天真てんま巡査が直属の先輩である青鮫あおざめ海雪みゆき巡査部長、そして鷲尾と青鮫をまとめ上げるリーダー的存在の獅子島ししじまりく巡査部長に報告した。


 獅子島は黒髪をオールバックにまとめ上げ、深夜でも外さないサングラスと毎日同じ色の黒色のスーツと黒色のシャツ、赤色のネクタイを着用する変わり者で、厳つい顔つきと屈強な鍛え抜かれた身体つき、大柄で長身の体躯を持っていることから、初対面では刑事というよりは極道と間違えられることが多いといった強面の人物だ。そんな獅子島が現場となった個室のトイレを見つめて、ため息をついた。


「あんな場所で溺死ねえ・・・。近くの池で溺死させて、わざわざトイレの個室に遺体を放置したっていうの?一体何のために?」


「現場の中は汚水で天井も壁も床もびしょぬれになっていたそうです。遺体は汚水をかなり飲み込んでいて、身体がまるで風船のようにパンパンに膨らんでいる状態で発見されたそうです。それと、犯人の首の右側には刃物か何かで切り付けたような跡がありました。その傷口から凶器の特定、犯人の手掛かりになりそうなものがないか、調べてもらっています」


 鷲尾に案内されて、青鮫と獅子島は事件現場となった男子トイレの中に足を踏み込んだ。室内に入った途端、鼻を衝く強烈な匂いが漂っており、思わず顔をしかめる。そして、マスクで匂いを何とか防ぎながら遺体が発見された3番目の個室を覗き込むと、個室の中はまるで大量の汚水を流し込まれたかのように天井に至るまでずぶ濡れになっていた。個室のドアの下にある隙間から流れ出た汚水で、男子トイレ全体の床がずぶ濡れになっており、藻が床の至る所にへばりつき、小さな魚たちが身体をはねさせていた。


「・・・殺しで間違いなさそうだな」


 そう呟いたのは、黒髪のロングヘアーを紐で縛り上げて、端正な顔立ちに切れ長で負けん気の強そうな瞳、腕まくりをしたテーラードジャケットとスラッとした長い脚に吸い付くように着こなしているパンツが特徴的な3人組の紅一点、青鮫だった。


「それで第一発見者は?」


「この公園のすぐ近くに住んでいる住人で、仕事から帰る途中で公園の方から変な匂いがしたので、気になって覗いてみたら、そこで遺体を発見したそうです」


「とりあえず話を聞いてみましょう。どこにいるのかしら?」


「あちらのベンチに座っています」


 トイレを出て、鷲尾に案内されたベンチにはスーツを着込んだ小柄な女性・・・いや、中性的な顔立ちと黒髪を後ろで縛っている髪型のせいか、一見すると美少女が男装をしているのかと思えてしまうほどの目がくりくりとしている男性が緊張した面持ちで座っていた。


「彼です。えっと、すみません。小野塚市警察署刑事課の鷲尾です。少し、遺体を発見した時の状況についてお話を伺いたいのですが・・・」


 鷲尾が訪ねて、その人物が顔を上げた瞬間。


「・・・え?」


「・・・あれ?」


「・・・嘘でしょ?」


 鷲尾を除いた第一発見者を見て、獅子島、青鮫が思わず凍り付いた。特に青鮫に至っては、普段は冷静な彼女にしては目を丸くして、開いた口が塞がらないといったように驚愕の表情を浮かべていた。


「・・・マジかよ?明良!?」


「・・・驚いたわね。まさか、貴方が第一発見者だなんてね。南雲警部補殿」


「ええ!?け、け、警部補って、この人も警察官なんスか!?」


「どうして職業を聞いてねえんだ、このバカ!!」


 ゴン、と青鮫が鷲尾の脳天に拳骨を叩き落すと、鷲尾が両手で脳天を抑えながらその場にしゃがみこんだ。


「・・・え、み、海雪さん!?」


 その人物とは、小野塚市警察署生活安全課特別捜査班0係の室員であり、1か月前に警視庁を追われて警視庁の追い出し部屋やオカルト捜査班と呼ばれている僻地に飛ばされてきた異例の元キャリア組、南雲明良警部補であった。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「明良が殺人事件の第一発見者で、刑事課の3バカトリオに事情聴取を受けているだとぉ!?」


 翌朝、特別捜査班0係の部屋で生活安全課の課長、巽真理課長から事情を聴かされた0係の室長の北崎桜花は思わず声を上げてしまった。巽課長は持ち込んでいるマグカップでコーヒーサーバーからコーヒーを勝手に注いで淹れたてのコーヒーを飲みながら、ソファに座り込んで話し出す。


「そう、私も今朝がた聞いて目玉が飛び出るかと思ったわよ。まあ、一応遺体の第一発見者が南雲ちゃんだったから、どんな状況だったのか、色々と事情を聴かれているだけみたい」


「こんな僻地に飛ばされてエリート人生を離脱させられて、今度は殺人事件の遺体の第一発見者になるなんて・・・どこまで運に見放されているんですか、あの人は」


「確かに、かなりあり得ないレベルでついてないよね」


 中条英美里と葛西霧江も思わず頭を抱えた。一体どうしたらここまで次から次へと不運に巻き込まれてしまうのだろうか。まあ、救いと言えば本人がこの部署に飛ばされてきて、時折仕事がないことを嘆くことはあっても、辞めようとする意志は感じられないことぐらいだろう。めったに仕事が来ない部署だが、雑用だろうと小間使いだろうと、自分に出来ることを全力で探して取り組んでいくほどに真面目で、警察官という仕事に誇りと情熱を持っているところは0係の班員の誰もが認めている。


「おい、それで明良はどうなっているんだ?」


「簡単な事情聴取で終わるって言っていたから、もうそろそろこっちに来るんじゃないかしら。刑事部も犯人に目星がついたらしくて、今、捜査に向かったっていう話だから」


「よかった・・・」


 それを聞いて、桜花たちは胸をなでおろした。


「それで、亡くなった被害者の『沢田さわだ征爾せいじ』は半グレの一員だったそうですね」


「・・・沢田、征爾?」


 国東牡丹が紅茶を淹れたカップを配って回りながら、巽課長に話しかける。そして、彼女の話に出てきた人物の名前を聞いた瞬間、霧江の表情が固まった。


「そう、しかもここ最近巷を騒がせている”ホワイトクロウ”の幹部でさ。都内で若者相手に違法薬物を売りさばいたり、美人局に恐喝にひったくりとやりたい放題やっていたらしいんだけど、この間とうとうケツ持ちのヤクザの情報を敵対している組に売ったせいで、若頭と組員が狙撃される事件を引き起こしちまった」


「河内組って、玄武会の直属の組ですか?」


その事件は都内の繁華街で起きた事件だった。

玄武会の河内組の若頭と組員数名が飲んでいたところを、敵対する組の鉄砲玉が押し入って狙撃するという事件が発生したのだ。この事件で若頭と組員3名が狙撃されて命を落とし、鉄砲玉たちは駆けつけた警察官たちに取り押さえられて、銃刀法違反と殺人未遂の現行犯として逮捕されたのだ。


「半グレがケツ持ちを裏切って情報を売り飛ばしたってことは、もしかして河内組が報復で小沢を手にかけたってことですか?」


「まあ、その可能性は高いね。河内組にしてみれば飼い犬に手を噛まれたようなもんだからね」


「あ、あの!!その、自然公園で見つかった被害者って、その、顔写真とかありますか!?」


 突然霧江が食い気味で巽課長に尋ねてきた。かなり興奮した様子で身を乗り出してきた霧江に、巽課長は飲んでいたコーヒーを思わず噴き出しそうになったがそれを何とか堪えた。


「え?あ、いや、その、被害者の指紋を調べたら、過去に傷害で前科があるから、データベースを見ればわかると思うけど・・・」


「コイツのこと?」


 英美里がパソコンのモニター画面を開いて霧江に見せると、彼女がパソコンの画面に映し出された沢田の写真を見て、驚きのあまりに口を半開きのままで驚愕した。


「・・・間違いない、コイツ、アタシ知ってる・・・!」


 霧江の目がどんどん険しいものに変わっていき、ギリリと歯を食いしばり、握りしめていた拳が震えだしていた。明らかに忌むべき因縁が絡んでいる相手であることが、いつもの霧江らしからぬ怒りを孕んだ反応に、班員たちが思わず息を飲んだ。

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