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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第壱の噂「人喰い駅」
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第壱の噂「人喰い駅」⑯

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 へその緒が入った箱が放つ光を浴びて、抵抗をしていた怪異の動きが急に止まった。そして、ゆっくりと明良の手からへその緒が入った箱を取り上げて、ふたを開けて中に入っているへその緒をまじまじと見つめる。


 やがて、彼女の瞳から透明な涙が目じりに膨らんで、頬を伝って流れ落ちた。


 ー・・・これ・・・あの子の・・・?-


「・・・子供は無事保護しました」


 ー・・・本当に・・・?-


「・・・貴方のことを助けることが出来なくて、警察官として、心からお詫びを申し上げます。貴方がこんなことになる前に、見つけ出していればここまで苦しむことはなかったでしょう。・・・本当に、申し訳ございませんでした・・・!」


 明良は深く頭を下げて謝罪の言葉を口にした。相手が怪異だろうと、霊だろうと、明良は警察官として彼女がこんなことになるまで見つけることが出来なかったこと、彼女が巻き込まれていた事件に気づけなかったことを真剣に謝罪をした。背筋を正して、腰を折り曲げて深く頭を下げる。それだけしかできない、それで彼女の気が済むとは思えない。それでも、明良はそうせずにはいられなかった。


 ー・・・ああ・・・あの子が・・・無事だった・・・!ー


 心底安心したかのようにつぶやくと、地下だというのに彼女の頭上からまぶしい光が降り注ぎ、彼女の身体が光に包み込まれていく。皮膚の表面に亀裂が入り、ボロボロと土くれがこぼれ落ちるように剥がれていき、彼女の姿が生前の美しい顔立ちをした女性の姿へと変わっていく。


 ー・・・本当に・・・ありがとうございます・・・!-


 彼女は深く頭を下げると、最後に顔を上げた。そこには我が子の無事を知って、ずっと背負い続けていた重いものから解放されて、穏やかな笑みがあった。やがて、彼女の姿が光の中に消えていくようにうっすらと姿が薄れていき、光が晴れるとそこにはもう彼女の姿はなかった。


 暗闇を照らす幻想的なまでに美しい光の粒子が天井に向かって上って、そのまま消えていく。

 明良はそれを見送った後に、安堵するかのようにため息をついた。彼女が怨みや悲しみから解放されてたことだけが明良にとっては救いだった。


 その時だった。


 ゴゴゴ・・・と地鳴りの音が響いてきたかと思いきや、地面が揺れ出した。明良はとっさに近くにあった壁に手をついて何とか堪えた。


「・・・地震か!?」


 その時、明良の視界に信じられない光景が飛び込んできた。駅のホームが、奥から広がってきた暗闇に飲み込まれていくのが見えたのだ。まるでブラックホールのようにホームが削られていき、看板や椅子が飲み込まれて消えていく。そして、闇が明良たちに近づくにつれて震えがさらに激しくなっていく。


「ヤバいよ、怪異を成仏させたから、もしかしたら怪異が作り出した世界が崩壊し始めたのかもしれない!!あっきー、急いで脱出しないとあたしたちもお陀仏だよ!!」


「で、ですが、どこに逃げればいいんですか!?」


「とにかくここにいたら危ないよ!!」


 霧江に促されて、明良はその場から一目散に走り出した。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 空間の揺れが徐々に激しくなっていき、何度か足を取られそうになりつつも明良と霧江は長いホームをひたすら走り続けている。こんなに長いホームだっただろうかと疑問に思いつつも、明良たちは足を休める暇もなく重くなっていく足を遮二無二動かして走り続ける。


「こ、こんなにホームって長かったっけ・・?」


 疲労が限界に達し、明良の足取りが遅くなっていく。体力だけが自慢だったが、怪異との戦闘で体力と気力を使い果たし、明良はもう今にも倒れそうなランナーのような状態だった。呼吸をしたくても上手く呼吸が出来ず、窒息して、頭が真っ白になりそうだ。そんな苦しみに耐えながら、重くなっていく足に喝を入れて前に向かって動かし続ける。


「あっきー、こっちで間違いないよ!!この世界が消滅し始めていることで、わずかだけどあたしたちの世界の匂いを嗅ぎつけることが出来たから!!」


 霧江はそう言うと、明良の腕を引っ張って走り出した。明良も霧江の言葉を信じて、再び足に力を宿して力強く床を蹴り飛ばした。


追跡嗅覚(スメル・チェイサー)!!」


 霧江がつぶやくと鼻を鳴らし、何かの匂いをかぎ取り始めた。

 そして彼女がある匂いを嗅ぎつけると、目をカッと開いた。


「あっきー、こっちだよ!!あたしたちのいる世界に繋がる隙間の匂いがする!!」


 追跡嗅覚。

 これが嗅覚が野生動物以上に優れている霧江の能力だった。一度覚えた匂いを絶対に忘れることなく記憶し、その匂いを放つ場所やもの、人物を特定して突き止めることが出来る能力である。さらに霧江はあの世とこの世という世界においても匂いで識別することができ、この世ならざる場所に取り込まれても、彼女の嗅覚を使えば出口を探り当てることが出来るのだ。


 霧江に手を引かれて、明良も走り出す。世界全体の揺れがさらに激しくなり、このままでは闇の飲まれてしまうのも時間の問題だった。明良たちはホームにあった階段を駆け上がっていく。そこで、霧江が明良には振り向かずに大声で話しかけてきた。


「あっきー!!」


「どうかしたんですか、葛西さん!!」


「上からあたしたちの世界に繋がる隙間の匂いが二つ嗅ぎ取ることが出来たんだけど、どっちに行けばいい!?3番ホームにあるあのお社か、駅員室にあった神棚のお社、どっちかを選んで隙間から桜花さんたちに連絡をして、助けを呼ばなくちゃいけないんだけど!!」


 どっちでもいいと思ったが、その時、明良は駅員室に待たせていた塚原の存在を思い出した。彼もこの駅に取り込まれた哀れな被害者である。彼の魂をこの駅から解放させるためには、一緒に脱出した方がいいと思い、明良は叫んだ。


「駅員室です!!そこから脱出をしましょう!!」


「了解!!」


 闇に沈んでいく連絡橋を駆け抜けて、明良と霧江は何とか駅員室のドアを見つけることが出来た。駅員室のドアを開けると、塚原が両手でお札を握りしめながら不安そうに椅子に座っていた。飛び込んできた二人のことを見て、塚原は飛び上がりそうになるほど驚いていた。


「塚原さん!!」


「お、お客様、ご無事でしたか!!」


「早くここから脱出するよ!!」


 塚原の手を取り、駅員室の奥にある神棚の前にたどり着いたとき、明良のスマホの着信音が鳴った。素早くスマホを取ると、画面には「桜花さん」と表示されていた。スピーカーにして電話を取ると、受話口から桜花の怒号に近い声が飛んできた。


『やっと電話に出たか、このアホウ!!何をやっていた!!』


「桜花さん、それどころじゃないって!!何とか怪異を成仏させることは出来たんだけど、そしたら0番ホームが闇に飲み込まれ出して、このままじゃあたしたちマジでヤバいんですけど!!何とかしてよぉ!!」


『分かった。こっちで今から合わせ鏡をして、そっちの世界とこっちを繋げる!!どこに行けばいいんだ!?』


「駅員室の神棚にあるご神鏡で合わせ鏡をしてください!!僕たち、今、駅員室にいるんです!!」


『分かった!!今すぐに駅員室に向かう!!』


 入り口の扉や壁に闇が侵食してきて、ガラガラと音を立てながら闇の中へと飲み込まれ出した。まるで巨大な怪物のように駅員室を飲み込みだした闇がもう目の前まで迫ってきている。


「ひっ・・・!!」


「桜花さん、早くしてよ!!」


 霧江が叫ぶと、ご神鏡がまぶしく光り出して、まるで鏡から道が作られているかのように光のトンネルが明良たちの目の前に広がっていった。光のトンネルの奥の空間には裂け目が出来ていて、そこから真っ白な光が漏れていた。


「あっちだ!!あっちがあたしたちの世界だ!!」


「塚原さん、葛西さん、行きましょう!!この駅から脱出するんです!!」


「は、はい!!」


 明良、霧江、そして塚原が光のトンネルの向こう側を目指して走り出した。後ろから駅員室が完全に飲み込まれていく轟音が響き渡り、トンネル全体が激しく揺れ出す。それでも足を取られまいと必死で走り続けて、裂けめに3人が頭から思い切って飛び込んだ。


「うわああああああっ!!」


「いやああああああっ!!」


「ひゃああああああっ!!」


 3人が飛び込んだ後に、裂け目は閉じられて、すぐさま光を闇が飲み込んでいった。


 光の中に飲み込まれていく中、明良の耳には塚原の言葉が聞こえてきた。




「・・・これでやっと、家に帰れます・・・。やっと・・・家族にもう一度会えます・・・!本当に・・・ありがとうございます・・・!」




 塚原が帽子を外して、礼儀正しく一礼をする。

 そして、顔を上げると涙をボロボロと流しながら笑顔を浮かべて、塚原の姿が光の中へと消えていった。

この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!


怪異プロフィール①「土蜘蛛」

棗塚駅と、廃駅となった小野塚市中央公園前駅を縄張りとしている女性の姿をした怪異。異常なまでに長く伸びた細い腕にはめ込まれた枷を振り回して、相手の頭部に拳をハンマーのように叩きつけて殺害する。また長い間地中にいたせいか視力が低下しているが、その代わり、暗闇の中でもモグラのように異常に発達した嗅覚で相手の居場所や動きを読み取ることが出来る。霊をあの世に送り出すための祠が老朽化によって力を失いかけていたことで、自身が作り出した0番ホームに迷い込んだ人間をあの世に無理矢理送り出してしまう幽霊電車を作り出して、自分と自分の子供の命を奪った相手に復讐を果たそうとしている。身体が土の属性を含むヨドミを吸ったことにより、霊力があってもはじき返してしまうほどの強度の防御力を持つ土の身体となっている。その正体は妊娠4ヶ月を迎えていた妊婦の坂本千尋。15年前に同級生を拉致監禁し、リンチ殺人で命を奪った元少年グループの集団に拉致されて、暴行を受け続けた末に、自分の子供を出産した後に子供を奪われたうえに「子供は殺した」と言われたことで絶望し、出産による出血多量で命を落とした。元少年グループに対する復讐と子供を取り戻したいという思いから怪異へと変貌した。

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