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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第壱の噂「人喰い駅」
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第壱の噂「人喰い駅」⑭

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

「・・・ねえ、あっきー、これって一体どうなっているんだろう?」


「僕にもさっぱり分からないのですが・・・」


 無人の駅員室にあるソファーに座らされた霧江と明良は顔を見合わせて、ぼそぼそと小さな声で話し合っていた。この部屋の中に招き入れてくれた駅員のガイコツは席を外しており、その間、一体全体どうしてこんなことになったのか、二人は駅員に聞こえないように話し合っていた。


 さっきまでホームで幽霊やガイコツたちと一緒に自分たちをあの世行きのオンボロ電車に乗せようとしていたのに、急に手のひらを返したかのように自分たちを助けてくれたことに、疑問が尽きない。もしかしたら、この駅員室が実は罠で、今頃自分たちは駅員室に擬態したオンボロ電車に乗せられてあの世まで連れていかれている状態なのではないかとまで思えてきた。


「お待たせしてしまい、申し訳ございません」


 そう言って戻ってきたとき、駅員の姿はガイコツではなく、青白い肌をしているが生前の人間だった時の姿に戻っていた。駅員は何やら手帳や地図のようなものを持ってきて、テーブルの上に置くと二人に対して深く頭を下げた。


「本当に申し訳ございませんでした。お客様たちには大変ご迷惑をおかけしてしまい、お詫びを申し上げます」


「い、いえ、あの、どうして僕たちを助けてくれたのですか?」


「・・・お客様たちが生きている人間だということが分かったからです。ここはあの世に繋がる駅でございます。亡くなったお客様の霊があの世に向かうための電車を待つ駅なのですが、ごくまれにお客様たちのように生きているのに迷い込んできてしまう方がいらっしゃるのです。私はそういったお客様が間違って電車に乗らないように注意を促していたのですが・・・ここ最近の記憶がないのです。気づいたら私はお客様たちをあの電車に乗せようとしていたことに気づきました。本当に・・・何ということをしようとしていたのでしょうか」


 駅員は自分の名前を塚原つかはらとおると名乗った。


 塚原はホームで明良からハンカチのケースを受け取った時、そのハンカチが自分のものであったこと、自分が死ぬ3日前に妻から誕生日プレゼントでもらった大切なハンカチであったこと、使おうとしていたがあまりにも嬉しくてなかなかケースから開けられずいつ使おうかと楽しみにしていた時のこと、しかし、ホームで酔っぱらい同士の喧嘩を止めようとして、突き飛ばされて線路に投げ出された直後に電車にはねられてしまったこと、そして気づいたら自分がこの駅の0番ホームにたどり着いていたことを話してくれた。


「・・・ずっと忘れていたんです。大切な記憶だったのに、いつの間にか自分が誰だったのか、全てが思い出せなくなってしまっていて、ずっとこの駅で駅員をやっていたのです。でも、貴方からハンカチのケースを差し出されたとき、貴方の手から暖かい不思議な力が流れ込んできて、気が付いたら私は自分が誰だったのか、思い出すことが出来たのです」


「・・・はあ」


「・・・もしかしてさ、えみぽんがさっき言っていたあっきーの力って、こういうことじゃないかな?ものに宿る記憶を読み取ることが出来るだけじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()ってことじゃない?」


「・・・それって、もしかして国東さんの時と同じということですか?」


「・・・まあ、似たようなモンかもね。牡丹さんの場合はカメラとかプロジェクターとかに自分の目で見た情報を映像に変えてみんなに見せることが出来る能力だけど、あっきーの場合はものに宿っている記憶・・・つまり過去の情報を読み取って、それを霊に伝えることが出来るって感じなのかな?」


「・・・つまり、それで塚原さんの記憶が戻って、理性を取り戻したってこと?」


「・・・おそらくね。きっと塚原さんはこのホームに取り込まれていたんだね。でも、あっきーの手に持っていたハンカチのケースに触れた瞬間、ハンカチに宿っていた記憶が塚原さんに流れ込んで元に戻ったってことだと思う」


 そう言ってから、霧江はジャケットのポケットから小さな木の箱を取り出した。


「もしかしたら、アッキーの超触覚の本当の能力に気づいたから、えみぽんはこれをあたしたちに託したんじゃないかな」


 木箱のふたを開けると、そこにはへその緒が入っていた。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 一時間前にさかのぼる。


「巽課長が堤伸幸の事情聴取で、彼が赤ちゃんを産婦人科医院に預けたと供述を聞いて確認をしたところ、赤ちゃんは無事保護されていたことが分かりました。赤ちゃんを馬場から始末を命じられていたけど、彼はひそかに知り合いの産婦人科医院に預けていたそうです」


 英美里から聞いた一報に、明良たちは驚き、そして安堵の表情を浮かべた。


「良かった・・・!」


「でもさあ、それなら最初から自首してくれればいいじゃん」


「・・・確かに、堤は馬場たちが坂本千尋さんを拉致、監禁して暴行を加えて死に至らしめたという事実を知っていました。それをすぐに警察に通報しなかったのは、やはり馬場たちを恐れていたからでしょうね。馬場たちは堤を完全に恐怖で支配していましたから」


「・・・まあ、それでも赤ちゃんを手にかけなかっただけ、まだ抵抗する良心は持っていたというわけか」


「警察に通報したことがバレて馬場たちが何をやらかすか分からない以上、下手には動けなかったんだろうけど、それでも通報をしなかったのは良くないね」


 そう言って、英美里は懐から木箱を取り出した。


「これ、産婦人科医院から巽課長がお借りしてきた赤ちゃんのへその緒。巽課長曰く、これはたぶん0係に預けておいた方がいいような気がすると言って、お貸ししてくださったんです」


「アイツは昔からこういう時に、神がかったヤマ勘が働くからな」


 桜花はそれを霧江に手渡した。


「霧江、お前は明良と一緒に行動するのだろう?もしもの時に、おまえが持っていてくれ」


「牡丹さんじゃなくて、あたしでいいの?」


「ああ、なぜか知らんが、おまえに持たせておいた方がいいような気がしたんだ」


「りょーかいッス」


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「・・・今思えば、あれも桜花さんのヤマ勘ってヤツだったのかね」


「さて、これからどう動きますか?またあのホームに戻るのは危険ですし・・・」


「そうだねえ・・・うん?」


 霧江の鼻が何かを嗅ぎ取った瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれて表情が険しくなった。彼女のただならない様子に明良と塚原は息を飲んだ。


「・・・ヤバい、この部屋の向こう側、もうさっきの場所じゃない。この間あっきーを0番ホームに引きずり込もうとしたヤツが、この部屋の向こう側にいるよ・・・!」


「・・・え!?」


「あっきー、この部屋を出たらどこに繋がっているのかは分からない。でも、あっきーと堤を襲った怪異・・・つまり坂本千尋さんの怪異がすぐそこまで来ているのは間違いないよ。何か対策を準備してから迎え撃たないと、返り討ちにされちゃうかもしれない」


「・・・対策と言うと、このお札ぐらいしか武器はないし・・・」


 どうしたものかと、明良が駅員室の中を見回しているとあるものが目に飛び込んできた。それは『ビンゴ大会景品・3等賞』という紙が貼られた大型のコンテナボックスだった。有名なアウトドア用品メーカーのもので、軽い上に頑丈で、多くの荷物を持ち運びできるということでアウトドア好きの間では人気の品になっていると聞いたことがある。


「・・・このコンテナボックスの蓋、盾代わりに使えないかな?」


「マジで言ってる?」


 明良はコンテナボックスの蓋を外すと、自分の身体の前に盾のようにして身構えた。使い勝手はいい。明良はコンテナボックスの蓋を盾代わりに持っていくことを決めると、他にも何かないか探し回る。そして、同じくビンゴ大会の景品で「4等賞」という紙が貼られている箱を見つけた。かなり大きめの箱だった。包み紙を破って、中身を取り出すとそれはリュックサックのような貯水タンクがついた大型の水鉄砲だった。


「恥ずかしながら、それは私が洒落のつもりで準備したものです。ほら、つい最近バラエティーでもやっていたでしょう?スプラッシュ・バスタァァァッ!!って芸人さんが遊園地でそれでバトルをしたんですが・・・」


 どうやらこの駅員は、生前はなかなか明るい性格だったようだ。生きていた時のことをつい最近と言って、CMの口真似までしてくれた。明良たちは「ああ、確かに」とやんわりと答えると、背中に水鉄砲のタンクを背負って、銃をベルトのホルスターに装備した。


 その時だった。


「ヤバい、もうそろそろここも危ない!!」


 霧江が血の気が引いた顔で叫んだ。扉の隙間から黒い闇がまるでもやのように入り込んで床や壁を侵食していく。霧江はとっさにお札を一枚取り出すと、塚原に差し出した。


「これ、お守り!!いつまでもつか分からないけど、少なくとも事が済むまでの間は貴方をきっと守ってくれるはずだから!!」


「え!?」


「あっきー、行くよ!!」


「はい!!」


 お札を持ったまま立ち尽くしている塚原をしり目に、霧江は意を決して扉を開き、外へと飛び出した。明良もそれに続いて真っ暗な空間の中へと飛び込んでいった。天井も壁も床も見えない、真っ暗な闇の中をひたすら走っていくと、目の前の空間が開けて見えてきた。




この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!



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