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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第壱の噂「人喰い駅」
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第壱の噂「人喰い駅」⑬

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

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 この世には決して存在していない場所に、明良と霧江は立っていた。うっすらと白い霧が漂っており、7月の夜とは思えないほどに肌寒く、照明の今にも消えてしまいそうな点滅する蛍光灯の明かりだけが暗いホームを頼りなさそうに照らしている。生きている人の気配が一切感じられない無人のホームは、ゾッとするほどの静けさに包まれていた。


「・・・ここが、噂で言っていた0番ホーム・・・!」


「あっきー、何があってもあたしから離れちゃダメだからね」


 霧江が真剣な口調で言うと、明良も頷いた。そして霧江が何度かインカムで通信を試みるが、上手くいかなかったみたいで、最後はインカムのスイッチを切ってしまった。


「・・・酷い匂い・・・こんなに死臭まみれの場所になっていたなんて・・・」


 そう言って、霧江はマスクを取り出すと装着した。何の変哲のないマスクだが、それをつけるとさっきまで顔色が真っ青だった霧江の表情が幾分か和らいだような感じになった。


「臭いですか?僕は何も臭いを感じないんですけど・・・」


「ああ、あたしは昔から嗅覚が人よりも鋭いっていうかさあ、霊の存在や気配を、霊が放っている独特の臭いってものを嗅ぎ取ることが出来るのよ。その中でも、この世に恨みや未練を残して死んだ霊が放つ死臭っていう臭いがあるんだけど、これがまた腐った肉の臭いのようなもんでさ、こうして特注のマスクをつけていないと臭いで身動きが取れなくなっちゃうってわけ」


「だ、大丈夫ですか?」


「まあ、何とか対策でこれを持ってきたから大丈夫だよ」


 そう言って取り出したのは、よくドラッグストアなどで見かける消臭剤のスプレーだった。それを霧江自身と、明良に吹きかけるとシトラスの爽やかな香りがした。そして、霧江が消臭剤をジャケットの中に入れると、ゆっくりと歩きながら話を続ける。


「これはただの消臭剤じゃないの。英美里が調合してくれた霊を退ける効果のある霊水をスプレーに加工してくれたものでね。これを吹きかければ、しばらくは力の弱い霊は寄り付かなくなるよ」


「そ、そういうのもあったんですね」


 ホームを見回しながら歩いていく。誰もいない無人のホームに二人の靴音だけが響き渡る。古びた掲示板は行き先の駅が削れて読めなくなっており、所々に亀裂が入りボロボロになっている。新東京線の路線図も色あせて見えにくくなっていた。青白い光を放つ自動販売機には今ではあまり見たことのない古いデザインのジュースが並んでいた。自動販売機には故障の札が貼ってあったが、こんなところのジュースなど買って飲む気分にはさすがになれない。


 電光掲示板に表示されている文章も全て文字化けしていて、何が書かれているのかさっぱり分からない。フェンスの向こう側には駅前商店街がわずかに見えるが、なぜかさっきまでいた自分たちの世界とは遠く離れているように思えてくる。この不気味な静けさがその証拠だ。外からの喧騒や車の音などが一切聞こえてこないのだ。


「・・・あれ?」


 ホームの床に、何かが落ちているのを明良は発見した。それは綺麗なリボンがラッピングされている男物のハンカチが入ったケースだった。まだ未開封のようだった。


「・・・どうしてこんなものがここに?」


 その時だった。


「あっきー、ちょっとこっちに着て!!」


 霧江が明良を呼びつけた。

 霧江の所に行くと、彼女は手に青色のスマホを持っていた。床に落ちていたものらしい。


「スマートフォンですね」


「このスマホの裏にさ、ダサいセンスの名前が書かれたシールが貼ってあったんだけど・・・」


 そこには江戸文字でデザインされた【馬場光彦】という名前のシールが裏に貼ってあった。間違いなく、このスマホは行方不明になっている馬場のものだった。


「ダメだ、バッテリーがゼロだわ。これ、あとで充電して開けば、何か分かるかもしれない」


「そうですね」


 その時だった。


 突然スピーカーからブツリっと音が鳴ったかと思うと、雑音が入り混じっている壊れたメロディが流れ出した。


『・・・まも・・・なく・・・0番線に・・・電車が参り・・・ます。危な・・・すので・・・黄色い線の・・・内側・・・りください・・・』


 それを聞いて、明良は由香が言っていた噂を思い出した。




 ーあの駅にまつわるうわさ話で最も有名なのは”終電後に、時刻表には載っていない新東京線に乗り込むと異世界に連れていかれる”や”終電後に現れる、昼間にはないはずの幻の0番線ホームにやってくる新東京線に乗ると二度と戻ってこれなくなる”という話だったよ。ー




「霧江さん、乗っちゃダメだ。これ、乗ったらあの世に連れて行かれちゃう電車だ」


「・・・うん、乗ったら絶対にヤバそうな感じだもんね」


「・・・間もなく電車が参ります・・・」


 そう言っていると、いつの間にか二人の後ろに誰かが立っていた。振り返ると、そこには青白い顔をした駅員が立っていた。能面のような無表情で、焦点が合っていない虚ろな瞳、そして彼からなぜか生気というものが一切感じられなかった。


「・・・お乗りになられるなら・・・ホームに・・・お並び下さい・・・」


「あっきー、ヤバい!!」


 逃げ出そうと足を踏み出した瞬間、明良と霧江が愕然とした。さっきまでは誰もいなかったはずのホームにはいつの間にか大勢の人間であふれかえっていたからだ。みんな血が通っているとは思えない青白い顔で、地面をじっと見つめながらブツブツと何かをつぶやいていた。


 ー帰りたい。-


 ーここから出して。-


 ー寒い。-


 ー暗い。-


 ー家に帰りたい。-


 地の底から響いてくるようなつぶやきがどんどん大きくなっていき、言うにつれてどんどん青白い肌が薄れていき、やがて骨へと変わっていき、ガイコツとなった姿でブツブツブツブツと「帰りたい」とつぶやきだし、駅のホームに響き渡る。


「・・・間もなく・・・電車が・・・参ります・・・」


 そう言って、駅員が二人の方に手をかける。よく見ると、駅員の顏もガイコツに変わっており、二人の方を掴んでいる手も骨に変わっていた。そして、ものすごい力で二人をホームに並ばせようとしている。やがて、甲高い警笛が鳴ったかと思うと、ライトの光がこっちに向かって飛んできた。それと同時にホームの床が震えだす。


 風を切り、真っ暗な闇の向こう側からヘッドライトの明かりが見えて近づいてきた。それは電車だった。新東京線によく似ているが、青白い光が窓からぼんやりと淡い光を放っていた。電車が少しずつ速度を落としていき、風を切ってホームに流れ込んできて、やがて停車した。電車の車体はもう何十年も前のボディの至る所がさび付いていて古びた感じだった。


 そして、窓にはこっちをじぃっと見つめているように無数のガイコツたちが電車の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれて乗っていた。黒い眼窩で外を恨めしそうに見ている無数のガイコツたちがこっちに視線を向けた。


「・・・このままじゃ、まずい!!」


 明良はとっさに、ポケットからさっき拾ったハンカチのケースを取り出していた。それを見た瞬間、駅員の手の力がわずかに緩んだような気がした。見ると、駅員はそれを見て驚きのあまりに身体を震わせていた。ハンカチのケースを手に取ると、それをまじまじと食い込むように見つめだした。


「・・・どうして・・・これが・・・!?」


「今だ!!」


「逃げよう!!」


 霧江と明良が駅員の手を振り払い、階段を駆け上がっていく。階段を駆け上がって連絡橋の上にたどり着いたかと思いきや、二人の目の前にはさっきの0番線ホームが広がっていた。青白い顔をした幽霊や、ガイコツたちがまるで二人を待ち構えているかのようにこっちを見ていた。


「・・・ちょっと、これ、マジで洒落にならないって・・・!!」


「もう一度戻りましょう!!」


「ダメだよ、これきっと、いくら上に上がっても結局このホームに戻ってきちゃうんだよ!!」


 そうなると、もう逃げ場がどこにもない。

 幽霊とガイコツであふれかえったホーム、そして電車はドアを開き、二人を招き入れるように口を開いていた。大勢の幽霊たちが腕を伸ばして、明良たちに迫ってきている。明良は霧江の前に立ち、守るように立ちはだかる。


「あっきー!?」


「・・・いざとなったら葛西さんは僕を置いて逃げてください。葛西さんは絶対に守ってみせます」


「何を言っているの!?それじゃ、アッキーが危ないじゃない!!」


「このままじゃ二人そろってあの世に連れていかれます。でも、葛西さんだけでも逃げ延びれば、桜花さんたちに事情を伝えることが出来る。そうすれば何とか解決できる方法が見つかるはずです!!」


「・・・後輩が何を生意気なことを言ってるのよ!!あたしは先輩なんだから!!あたしにとっては初めての後輩なんだから、先輩が後輩に守ってもらって逃げるなんて情けないこと、出来るわけないでしょうが!!」


 その時だった。

 幽霊たちをかきわけるようにして、一人のガイコツが二人の腕を掴むとそのまま階段を駆け上がっていく。よく見ると、それはさっきの駅員の制服を着込んだガイコツだった。


「早くこっちに!!」


 そう言って、二人をものすごい力で引っ張っていく。そして、さっきは元のホームに戻ってきたはずが、連絡橋の上にある通路になぜかたどり着いた。そして明良たちは駅員のガイコツに引きずられていくと、ある部屋の前にたどり着いた。


 そこは駅員室だった。


「ここなら、あの幽霊たちも入ってこれないはずです。早く、部屋の中へ!」


 ガイコツはさっきの無機質なものではない、生きている人間のような焦りが混じった感情的な声で話していた。二人は訳の分からないまま、駅員室の中に入った。



この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!


葛西霧江のプロフィール

身長:160㎝

性別:女性

階級:巡査

趣味:ゲーセン巡り、食べ歩き、ぬいぐるみ収集(仕事中にゲーセンに行くなby桜花)

好きなもの:ビデオゲーム全般、たこ焼き、お酒(お酒なら何でも好きだよ!!by霧江)

苦手なもの:トマト、セロリ、ピーマン、遊園地(好き嫌いは良くないですよby牡丹)

特技:ワインエキスパート資格所有

イメージカラー:白色

3サイズ:85:56:86

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