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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第壱の噂「人喰い駅」
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第壱の噂「人喰い駅」⑫

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 夜22時。

 明良たち0係の班員は、棗塚駅前のファーストフード店に集まっていた。窓側の座席から見える棗塚駅前の駅前広場は人気がほとんどなく、すっかり静まり返っている雰囲気だ。駅に入る人間もさっきから数える程度しかいない。この辺りにはオフィスビルがいくつもあるはずなのに、利用する客があまりにも少ない。


「・・・何だかさ、ビルのすぐ近くに駅があるのに、利用するお客さん少なくない?」


「無理ないんじゃない?あれだけ自殺や事故が起きる駅なんて気味が悪くて使いたくないでしょう」


 霧江がシェイクを飲みながらつぶやくと、隣に座っていた英美里がパソコンをいじりながら応えた。


「代わりの祠が来るのは明日のお昼ごろになるそうです。祠を取り換えれば、駅の中に取り込まれた霊たちも霊道が復活して、逝くべき場所に行くことが出来ると思います。桜花さん、これで坂本千尋の霊も成仏すれば事件は解決するのではないでしょうか?」


「いや、それは無理だな。あの時、明良が襲われたときに感じたあの怒りや憎しみ、そして悲しみが入り混じった感じは、いくら供養しても彼女の無念を晴らすことは出来ん。祠をいくつ取り換えても抑えきれるもんではない」


 桜花が両手でシェイクを飲みながら答えた。顔は真面目なのだが、こうして見るとやはり愛くるしい子供のようなそれである。


「そういえば、あっきー、さっきから何か考え事?」


 霧江がずっと黙ったままで何か考え事をしている様子の明良に声をかけた。


「・・・いえ、実はさっき、坂本千尋さんの母子手帳の中を読んでいたのですが、あの手帳には我が子に対する心配や子供のために必ず生き残るという文章が綴られていたんです。彼女は自分の命よりも、自分の子供のことを最後までずっと気にかけていた・・・つまり彼女を成仏させるためには、彼女の子供がカギとなるのではないかと思ったんですが・・・」


「まあ、確かにそれも一つの手かもしれん。しかし、今の坂本千尋がまともに人の話を聞いてくれる状態ではないというのも確かだ。アイツはおそらくだが、自分の手で馬場たちを手にかけたことさえも恐らく分かっていない。怪異と言うのは、死ぬ直前に抱いていた強い未練や無念に異常なまでに執着している。その怨みや怒りが尋常ではないからこそ、怪異へと変貌したのだからな。そして、彼らは未練や無念を晴らすためだけに行動をしている。それに対して、怪異が変貌する理由をより詳しく知らなければならない」


「この場合、馬場たちを手にかけても彼女の怨みは消えない。なぜなら、彼女がずっと気にかけているのは彼女の子供がどうなったのかということなのですから。このままでは、馬場たちのようにあの駅の中に取り込まれた人間は馬場たちと同じ末路を辿ることにもなります」


「でも、それじゃ、どうやって坂本千尋の霊を成仏させるんですか?」


「いろいろな方法はあるけど、一番最善かつシンプルなのはやっぱり正面切って説得させるしかないでしょうね。でも、相手は怪異、私たちの常識がまるで通じない未知の存在です。固定観念は一切捨てて臨まなければ、怪異の怨みに飲み込まれてしまうのがオチでしょう」


「もし坂本千尋の力があまりにも強大なものになっていて、成仏させることが不可能となれば、最悪消滅させるしかないな。だが、それはあまりにも危険すぎる。怪異を消滅させることで、無念や憎悪が強力な呪いとなって我々も無事では済まない。だが、万が一の場合は・・・やむを得ん」


 あくまでも最悪の場合と言ったことを想定して桜花が言うと、パソコンを操作していた英美里の手が止まった。


「・・・それですけど、確かにこれまではそういった怪異の消滅による呪いが降りかかるデメリットがありましたが、今回、南雲さんが0係に入ったこと、南雲さんの目覚めた能力「超触覚」があれば、怪異を消滅させることなく、無念や未練を断ち成仏させるための新しい方程式を割り出すことが出来そうです」


「え?」


 その場にいた全員が英美里の言葉に目を丸くすると、英美里が初めて唇の端をゆっくりと上げて不敵な笑みを浮かべていた。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 夜23時半。

 終電がやってくるまでまだ時間はあるが、その間、何か手掛かりはないか0係は駅構内を探索することにした。深夜の駅のホームには人ひとりおらず、不気味な静けさに包まれていた。明良は霧江と二人で駅のホームの中を探索していた。


「あ、そういえば、これ桜花さんからあっきーに渡しておけって言われてたんだった」


「え?これは一体何ですか?」


 霧江が差し出したのは何やら紙の束が入った封筒だった。開けて中を見ると、そこに入っていたのは何やら字や模様が描かれた短冊のような紙がいくつかに分けられて入っていた。


「それはね、あたしの実家の神社の霊験あらたかなお札なの。ウチの神社って五行思想とかいう教えを信奉していてさ、この街に流れる霊的な力の流れ・・・風水の力をそのお札に取り込んで色々ご利益があるってことで有名なんだわ。桜花さんがあっきーの超触覚でこのお札を使えば、きっと力になるはずだって言っていたよ」


 お札を取り出すと「木」「火」「水」「金」「土」という大きな字と何やら色々な字が書き連なっていた。


「これはどうやって使うんですか?」


「そうだねえ、あたしは例えばこれを霊に投げつけたりして、攻撃もしくは牽制として利用することが多いね。これには霊力を込めることで霊力を爆発的に高めて発動させる、いわばダイナマイトのような感じかなあ」


「なるほど。霊力を込めるっていうのは、さっき、僕が超触覚で霊的な力が宿るものに触れて、力を込めた時のような感じでやるんですか?」


「人それぞれだけど、大体そんな感じで大丈夫だと思うよ」


 お札をまじまじと見つめていると、霧江が明良に真剣な顔で話しかけてきた。


「あっきー、ちょっといいかな?」


「え?はい、何でしょうか」


「さっき、坂本千尋さんの霊を同情するようなことを言ってたけど、あれは良くなと思うから気をつけた方がいいと思うよ。霊っていうのは同情をされると、その人が自分を助けてくれると思い込んで自分と同じ場所に引き込んじゃうことがあるの。だから、同情は絶対にダメ」


 普段の表情とは一変して冷徹な表情になって、霧江は戸惑う明良に話を続ける。


「生前の坂本千尋さんは確かにいい人だったかもしれない。ひどい目に遭って死んでしまって、こんな怪異に変貌してしまって、助けてあげたいって思う気持ちは分かる。でも、もうあれは坂本さんではなくて、人間を襲う怪異という異形の存在なの。心を許してはいけないの。襲い掛かってきたら、倒すか成仏させるか、もう二つに一つしかないの。成仏させてあげられることが、私たちに出来る最善で最良の方法で、それが救いになるのかどうかなんてわからない。それでも、私たちが出来ることはそれだけしか出来ないの」


「・・・分かりました」


「・・・ごめんね。でもね、生きている人間と死んでしまった人間はもう同じ世界にはいないの。この世にはこの世の、あの世にはあの世の決して交わり合うことがない境界線で区切られている。怪異となって、これ以上人間を襲う前に彼女の魂を無念や未練から解放させるか、もしくは強制的に消し去るか、霊と対峙して送り出す方法はそれだけしかないの。それだけは忘れないで」


 甘さは一切捨てて、時として冷酷な判断を下さなければいけない。霧江の瞳には、これまでに彼女自身もそう言った経験を何度も味わってきたが故の強い光が宿っていた。


 この先にいるのは、この世の常識や節理が一切通用しない、怪異と言う悲しき異形なのだ。


「・・・行きましょう」


「うん」


 明良と霧江は入場券を買って、改札を通り抜けた。

 その時だった。


 二人の全身の鳥肌が一斉に立つような異様な寒気に見舞われた。まるで凶暴な獣が棲む住処に入り込んだような気配を感じる。駅の中を見回すと、連絡橋の奥から蛍光灯が消えていき、真っ暗な闇の中に0番ホームの看板が浮かび上がった。そして二人の足がなぜかひとりでに勝手に歩き出した。いや、連絡橋の奥から侵食する闇が足に絡みついて、引っ張っていたのだ。


「葛西さん・・・!」


「どうやら、今度は逃がさないって感じだね」


 明良と霧江は顔を見合わせて頷き合うと、霧江がインカムで連絡を取る。


「こちら霧江、棗塚駅構内で心霊現象が発生しました。至急応援よろしくお願いします。場所は連絡橋・・・」


 そこまで言った時、インカムに耳障りな雑音が入り、霧江は舌打ちをするとインカムを外した。インカムからは砂嵐のような雑音しか聞こえなくなっていた。


「あっきー、覚悟はいい?初仕事がこんなことになって申し訳ないけど、ここから先は命がけでいくよ」


「は、はい!!」


 やがて、二人の姿が闇の中に飲み込まれると、連絡橋は今までと変わらない風景に戻っていた。




この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

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登場人物紹介③

葛西 霧江(24):小野塚市警察署生活安全課特別捜査班0係の係員。服装はライダースジャケットにGパンと言った警察官らしからぬラフな服装を好んでいる。キュートで甘い声が特徴的な甘えん坊かつ純粋無垢で奔放とした性格をしており、同い年であっても階級が3つ上の明良に対して「あっきー」と呼んでいる。身体能力と体力の高さは明良に匹敵するほどの行動派であり、考えるよりも先に身体が動いてしまうタイプだが、神がかったヤマ勘を発動させて事件の解決に大きく貢献することもある。犬よりも鋭敏な嗅覚を持っており、霊の存在や気配、残留思念などを匂いで探知することが出来る。0係のマスコットキャラのような扱いで可愛がられている。

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