第壱の噂「人喰い駅」⑪
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
堤伸幸の証言は次の通りだった。
堤伸幸が馬場光彦、城戸壮一、堂島達也と初めて知り合ったのは中学生の時だった。
当時彼らは学校中にその名が知れ渡っている有名な悪ガキグループであり、中学生の時点ですでに警察の世話に何度もなっているほどのどうしようもない連中だった。傷害、恐喝、万引きなど何度も繰り返しており、警察も手を焼いていた。
そして、堤はそんな彼らに目をつけられてしまい、使いっぱしりのようなことを毎日命令されてやらされていたり、殴られたり蹴られたりと暴力を受けていた。中学を卒業して別の高校に入学をしても彼らは堤を執拗に付きまとい、脅しと暴力で彼を支配し続けていた。
そして、ついに起きてしまったのが馬場たちによる【女子高生拉致監禁致死事件】であった。馬場たちは同級生である女子生徒の一人に好意を抱いていたのだが、交際を断られたことで腹を立て、彼女を無理矢理城戸が一人暮らしをしているアパートに連れ込み、手錠と足かせで動きを封じ、1ヶ月もの間監禁し、暴行を受け続けた結果彼女は死亡した。
堤は、馬場たちに強引に城戸のアパートに連れてこられて、そこで馬場たちが女子高生を死に至らしめた事実を知らされた。そして、馬場たちは堤に命令して、女子高生の遺体を近所の空き地に埋めるように命じてきたのだ。これまでにも馬場たちは堤に飲食物や生活用品などを買ってこさせたり、金がない時には盗んでこいなど脅して、無理矢理いうことを聞かせてきた。
馬場はその事実を利用して、もし警察にこの事を通報したら、監禁事件のことを一切知らされていなかった堤も仲間の一人だったと供述すると言って、堤を脅した。堤が何も知らなかったと言っても、中学生の時から馬場たちに命令されて、万引きなどをさせられてきた堤の言葉など警察は信じないと言い、言葉巧みに堤を丸め込み、馬場は堤にも事件の片棒を担がせることに成功したのである。
その後、長年不仲だった堤の両親が離婚し、堤は母親に引き取られた。しかし、堤の母親は母親よりも女として生きる道を選び、他所に男を作っては家にも帰らずに遊びまわっている奔放な女性であった。堤が馬場たちに虐められていることを相談したくても出来なかったのは、両親が堤に対して親としての愛情を傾けてくれることなどなく、常に自分たちのことしか考えていない自分本位な人間だったからである。
そして、その後すぐ、空き地に埋められていた遺体が発見された。
堤は生きる気力を失い、どうせ死ぬならせめて自分の人生をメチャクチャにした馬場たちも道連れにしようと思い、警察署に駆け込んで自分たちがやったと自供したのだ。
そして現場の捜査と、堤の自供、堤が持ってきた証拠品から馬場たちの犯行が明るみに出て、馬場たちも逮捕されることになった。裁判の結果、馬場たちは懲役15年、堤は懲役3年の実刑判決を受けた。少年刑務所で服役中に母親が病死したと聞かされて、父親は堤を引き取ることを拒否した。少年刑務所を釈放された後は、小野塚市に住む親せきの女性に引き取られて、彼女の夫が経営するリサイクルショップで住み込みで働くことになった。
それから12年が経ち、店主から仕事に真面目に取り組んでいる姿勢を評価されて、店を任されることになった。馬場たちがいつ出所して自分の居場所を突き止めて、報復に来るのではないかという恐怖はあったが、堤は馬場たちに支配されてきた過去を断ち切るべく、新しい人生のやり直しをしようと固く決心し、今まで以上に仕事に全力で取り組もう。そうして、頑張ろうとしていた矢先だった。
出所した馬場が、堤が働いているリサイクルショップを見つけ出して、彼のもとに再び現れたのだった。そして、彼は堤を脅して、廃墟となった小野塚市中央公園前駅に堤を呼びつけた。
そこで、堤は坂本千尋の変わり果てた姿を見せつけられた。坂本千尋の遺体は両手と両足を手錠と手枷で拘束されて、身体の至る所にあざや傷が出来ており、彼女の身体から流れ出た大量の血液の上に身体を横たわった状態だった。それを見た瞬間、堤は15年前のあの悪夢のような光景を思い出した。
15年前、馬場たちが拉致監禁し暴行を3ヶ月もの間行い、死に至らしめたあの時の記憶を。あの時も、そして今も、馬場は自分が殺した遺体を見下ろして、醜悪な笑みを浮かべていた。
「堤によると、馬場は堤にまだへその緒がついたままの赤ちゃんを寄こして、赤ちゃんを始末しろと命令したんだって。今度はリサイクルショップに火をつけるとか、身のまわりの人間がどうなってもいいのかと脅しつけたそうよ」
「ひどい・・・!!」
「・・・それで、堤はその赤ん坊をどうしたのだ。まさか、本当に始末したとか抜かしていないだろうな」
「ああ、それについてはついさっき、生活安全課が赤ちゃんを無事保護したわ。堤は赤ちゃんを知り合いの産婦人科に保護してもらったらしいわ。赤ちゃんがもし見つかったら危険だから、どうか自分が警察に全部説明をするまでは、赤ちゃんを守ってあげてほしいと頼み込んだらしいの。まあ、馬場に知られたら確実に赤ちゃんの命はないからね」
「赤ちゃんは無事だったの!?」
「う、うん、赤ちゃんは命に別状はないし、健康そのものだったわ」
赤ちゃんの身の安全と健康を確保するために、堤は知り合いが務めている産婦人科の先生に赤ちゃんの保護を必死で頼み込んだそうだ。そして今日まで、赤ちゃんは産婦人科の先生たちが世話をしてきたため、無事だったという。
「・・・なるほどな、あの駅で起きていた霊現象と馬場たちが駅で行方不明になった事件、大体読めてきたな」
桜花がホワイトボードにペンを走らせて事件の概要を整理するように書きあげて、写真を貼っていく。そして、巽課長が帰った後に5人はテーブルを囲むように座って捜査会議を始めた。
「まず、噂になっている幽霊電車や駅で起きている超常現象についてだが、その原因は駅のホームに置かれていた祠が長い間放置されていて、力を失いかけていたから起きたと思われる。これについての対策は、私の知り合いの宮大工に頼んで、新しい祠を調達してもらう手続きは取ってある。しかし、この駅で起きている超常現象を利用して、今回行方不明になった馬場、城戸、堂島、そして堤を引き込もうとしていた幽霊がいる。それは・・・坂本千尋と見て間違いはないだろう」
「さっき、霧江にも坂本千尋さんの顔写真を見せたら、線路に引き込まれる時に見た女の幽霊の顏と同じであることが判明しました。そして南雲警部補がおっしゃっていた超触覚で見たという女性も彼女だったということを踏まえて、今度の行方不明事件を引き起こしているのは、坂本千尋さんが怪異となった存在であることは間違いないでしょう」
「原因は馬場たちへの復讐と、奪われた子供を取り戻したい、その一心だけで彼女は怪異となって小野塚市中央公園駅を自分の領域として取り込み、祠を失って霊力が弱まっている棗塚駅まで彼女の瘴気が侵食してきていることで、馬場たちはこの駅で怪異に取り込まれたってことだね」
「ああ、だがそれで、元々霊をあの世に送り出すための霊道が歪んで上手く霊を送りだせなくなり、あの駅に集まってきた幽霊たちは行き場を失って、ずっと新東京線の中をさまよい続けている状態にある。このままでは瘴気が新東京線の全ての駅を侵食して、幽霊であふれかえってしまう。そうなれば、この世とあの世の境目があいまいとなり、霊が人間たちをあの世に引き込むことで、さらに事故や自殺が増加する」
「・・・多分だけど、祠を取り換えるだけじゃ全部浄化をするのは無理ですね。その、坂本千尋だった怪異が恨みと殺意、悲しみの瘴気をまき散らしている以上、あの駅の中の領域を支配しているのは彼女です。つまり、彼女をまず消滅させるか、恨みを晴らして成仏させるか、残された道は二つに一つです」
「・・・で、でも、どうやって彼女のことを止めるんですか?」
明良が尋ねると、桜花が「ふむ」と一呼吸を置いてから答える。
「・・・そうだな、まずは相手の領域に乗り込むしかあるまいて。つまり、例の噂で語られている”時刻表に載っていない終電後にやってくる電車に乗ると二度と帰ってこれなくなる”という噂を我々が実際にやってみるしかないな。それこそが、あの駅の中を支配している坂本千尋の怪異と対峙するための条件だ」
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