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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第壱の噂「人喰い駅」
10/58

第壱の噂「人喰い駅」⑩

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

「・・・なるほどな」


 1時間後、明良は堤を助け出した後に突然気を失って倒れてしまい、ずっと駅の救護室のベッドに寝かされていたことを桜花たちから聞かされた。そして明良は駅員室で、連絡橋で何者かに襲われた時に起きた出来事を全て桜花たちに明かした。


 鎖を掴んだ瞬間、左手が急に熱くなって光り出したこと。

 そして気が付いたら見たことのない【小野塚市中央公園前駅】という駅のホームにいたこと。

 そこで馬場たちが、思い出すだけでも吐き気を催してくるような悪魔の所業をやっていたこと。

 馬場たちに殺された女性が急に目を開けて、自分に襲い掛かってきたこと。


「・・・夢だと思ったんです。でも、なぜか夢の中で拾ったはずのこの母子手帳が僕のポケットに入っていたんです。一体何が起きているのか、僕には全然分からないんです。僕は一体どうなってしまったのか、いくら考えても分からないんです!!」


 明良が頭を抱えて、最後は机に突っ伏してしまった。嗚咽交じりの悲痛な声は、明良が精神的にかなり追い詰められていることが感じ取れた。


「・・・貴様、さっき、あの暗闇から飛び出してきた鎖を左手で掴んだといったな?」


「それがどうかしたんですか!!」


 桜花が尋ねると、明良が投げやりに答えた。すると、桜花が頭を掻きながら、深くため息をついた。


「・・・あの鎖はこの世のものではない。あれで霊が貴様や堤を拘束することは出来ても、貴様がそれを物理的に触れたり、掴んだり、貴様の方から干渉をすることは不可能なはずだ。だが、貴様はあの鎖を握りしめることが出来た」


「・・・そうだったんですか?」


 桜花の真剣な雰囲気に、明良も次第に冷静さを取り戻してきたのか、桜花の言葉に聞き入っていた。


「そして、貴様があの鎖に触れた瞬間、見たことのない場所の映像や声が見えたり聞こえたり、まるでその場にいるかのような体験をした。それについて、私にもいくつか心当たりがある話がある」


「・・・心当たり?」


「まず、貴様が味わった体験というのは過去の映像だ。その証拠に、駅で幽霊として姿を確認した馬場がまだ生きている時の姿が見えたわけだからな。こういった能力の中に【サイコメトリー】という能力がある」


 サイコメトリーとは、物体に秘められた“記憶”を読み取る超能力の一つであり、主にものに触れることで、その能力を発動させるというのが一般的に知られているものである。


「貴様のように夢を通して、ものに宿る残留思念や記憶を読み取る能力については、実際にいるとも言われている。だが貴様のように自分自身がまるで過去の世界に意識だけがさかのぼっただけではなく、その時に拾ったものを現実の世界に持ってこられるという事実はこれまでに聞いたことはない。しかし、もしこれが貴様が持っている能力だとすれば、いや、その能力に目覚めてしまったと考えればある一つの仮説を私が立てることが出来る」


 桜花が明良の手を両手で包み込むように握りしめる。


「貴様には、牡丹の【超視覚】や私の【超聴覚】と同じような能力を持っている。そしてそれは霊的なものを触れたり、物理的に掴んだりすることが出来る。そして、残留思念が宿るものに触れることで、貴様は一時的に記憶の中の世界に意識だけを飛ばして、その世界にあるものを現実に持って帰ることが出来る。貴様のその触覚・・・ものに触れることで発動する能力が非常にすごい効果を持っているということが分かる」


「つまりさ、あっきーはあたしたちと同じような能力で、【超触覚】っていう能力に目覚めたってこと?」


「サイコメトリーの枠を超えていますが、霊的な思念が宿るものや残留思念に触れることで発動するという点では発動条件は同じといったところでしょうか」


「・・・とにかく、南雲さんは今は大人しく休んでいてください。南雲さんから聞いた話とこの母子手帳を使って、堤から話を聞きだしてみます。ああ、堤ですが命に別状はありませんでした。ただ、今日の朝に急に意識が遠くなって、そこから今に至るまでの記憶がないと言っていたから、おそらく霊に干渉されて操られていたようです」


「・・・いえ、僕も一緒に行かせてください。この事件、あの女性が被害者だとしたら彼女は今でもずっと助けを呼び続けているんです。あの真っ暗な駅の中でずっと子供を探し求めているんです。この事件に決着をつけるまでは、僕も刑事として、最後まで捜査をやらせてください・・・!」


 未知の体験、味わった人間の悪意をこれまでになく体感し、明良の精神はかなり追い詰められていた。それでも彼の中にある刑事魂は恐怖や怒りをくべて、自分自身を奮い立たせていた。その瞳は揺らぎない刑事としての誇りと信念を宿している。


「・・・全く頑固なヤツだ」


 桜花が仕方なさそうに肩をすくめるが、表情はどこか明良を見守るように優しい微笑みを浮かべていた。しかし、すぐさま表情を引き締めると、明良の手を取って彼を支えた。


「貴様が倒れそうになったら、私は貴様を殴り飛ばしてでも止める。貴様が壊れてしまう前に、私たちが身体を張って止めてやる。それだけは覚えておけ。貴様はもう私の所有物なのだ。私は一度手に入れたものは絶対に手放さんし、絶対に守り抜く。無茶をする前に、私たちを頼れ。それだけは忘れるな」


「・・・は、はい!!」


「よし、それでは私たちは今から堤に事情聴取を行う。明良、貴様に命令を下す。貴様は今から仮眠室で朝まで強制的に休養を取れ。私たちが情報を仕入れておく。いざという時に動けるように、万全の状態で臨めるように身体と精神の具合を整えておくように。以上だ!」


 そう言って、桜花たちが駅員室を出ていった。明良もそれに続いた。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 0係の部屋の中に設けられてある【仮眠用ベッド】の寝心地はかなり良かった。無理矢理寝かされてしまい、最初はなかなか寝付けなかったが、やがて視界がうとうととしてきたかと思うと、そのまま吸い込まれるように眠りについていた。明良が目を覚ますと、時計の針は11時を指していた。


「ふがっ」


 完全に遅刻である。

 ベッドから飛び起きて、シャツのボタンを直してネクタイを締めなおすと、髪の毛を整えて明良は事務所に飛び込んできた。ドアを勢いよく開けて飛び込んできた明良の顔を見て、0係の仲間たちが一斉に明良に顔を向けると、明良はその場で大きく頭を下げた。


「も、申し訳ございません!!寝坊してしまいました!!」


「よく眠れたか?心配するな、貴様のタイムカードは私が押しておいた。ところで貴様、身体の具合はどうだ?気分が悪いとか、そういったことはないか?もし何かあれば、正直に報告してくれ」


 桜花は明良の昨日の様子から、初めて能力に目覚めたことによる後遺症がないか気になっているようだった。明良もそれを察したが、身体の具合はいつもと変わらず絶好調だし、気分は幾分か優れないが、それでも仕事に支障をきたすほどではないと思った。


「ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。自分も捜査に加わります」


「・・・分かった。さっき、堤の事情聴取を生活安全課の巽が終えたところだ。もうそろそろ、こっちに来る頃だろう」


 そう言っていると、部屋のドアがノックされた。

 そして、ドアが開き、顔を出したのは巽課長だった。彼女はどこかひどく疲れた様子で「お疲れさん」と言うと、ソファーに腰を下ろして深くため息をついた。


「お疲れ様、どうだった?」


「・・・アンタたち、またとんでもない事件を掘り当てちまったねえ。今、堤の証言通り、廃駅になっている小野塚中央公園前駅の構内から、行方不明になっていた女性の遺体が発見されたって連絡が入ったわ」


「遺体が見つかったですって!?」


「被害者は坂本千尋、28歳。半年前に捜索願が出されていた女性だったわ。死因はまだ解剖の結果待ちだけど、遺体はあの駅の壁に空いた空洞の中で手足を手錠で拘束された状態で白骨化していたわ。近くに落ちていた体液や毛髪を採取して調べてもらっているけど、明らかに何者かが坂本千尋を拉致して、あの駅の構内で監禁していたことは間違いなさそうね」


「坂本千尋って、もしかして妊娠していませんでしたか?」


「ええ、そうよ。彼女は行方不明になる前に、妊娠4か月を迎えていたわ。鑑識の話によると、死亡したのはだいたい3か月以上前と言っていた。そして、彼女の遺体があった場所から致死量に至る血液が発見されたの。そして、子供はもう身ごもっていなかった。つまり、監禁されている間に子供を産んで、その時に大量出血を起こして亡くなった可能性があるというのが、今のところの見立てらしい」


「それをやったのが、馬場たちだったってことですか?」


「堤はそう証言している。堤は馬場たちが出所する一年以上前に少年刑務所を出所して、馬場たちに見つからないように地元を離れて、小野塚市で親戚が営んでいるリサイクルショップで働きだしたんだが、3か月前に馬場たちはどんな方法を使ったのか知らないけど、堤の居場所を見つけ出してしまった。そこで堤は馬場たちからある頼みごとをされたらしいの。もし聞かなかったら親戚や働いているお店がどうなっても知らないと脅してね」


 あまりにも悍ましい話を思い出したのか、彼女の表情がどんどん険しくなっていく。


「・・・生まれたばかりの赤ちゃんを始末するように命じたらしい」



この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!


南雲明良の能力「超触覚」について①

南雲明良が霊に襲われたことをきっかけに目覚めた「触覚」に特化している霊能力。残留思念や記憶が宿るものに触れることで、記憶を読み取ることが出来る。わずかな振動や空気の温度の変化を読み取り、人間のみならず怪異の気配を感じ取ることが出来る。発動する時、明良の瞳の色が赤く光り輝く。

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