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悪役令嬢は戻らない【2】


 火曜日、カーテン越しの朝陽が満ちる軍官舎のベッド。

 上半身を起こしたアーデルハイトが寝起きにまずやったことは反省である。

 枕元には蓋の開いた菓子の箱があった。先日、ミュラー伯爵様とカペル公爵様よりいただいたものだ。事実確認のため、おそるおそる覗きこんだ中身はカラになっていた。

 項垂うなだれる。


 ……やってしまったわ……。


 昨晩は軍食堂にて夕飯をすませた。一人前を食べきっている。けれど就寝時間前には空腹だった。一日を皇都の警ら任務に走りまわったためかもしれない。これが成長期というものなのかもしれない。

 だからしょうがないと自分に言い訳しながら、シュペクラティウスとレープクーヘンを一つずつ口にした。満足して歯を磨き、ベッドに入った。夜中、なにかが鳴った。グゥ。寝息ではない。私のおなかの音だった。頭から布団をかぶり、無視してしまおうと思ったけれども。


 もうひとつだけ。

 もういっこだけ。

 それぐらいならいいんじゃないかしら。

 なにしろ成長期なのだし。たくさん食べてえらいですねとマルクスは褒めてくれるのだし。


 半分眠りのなかにあった頭に言い訳しながら、私は焼き菓子の箱を引き寄せていた。蓋を開けた。ふわりとただよった甘い香り。じゅわっと唾がわいた。腹が鳴った。シュペクラティウスの包み紙を破き、レープクーヘンの中身を取りだしながら。熱いコーヒーも飲みたいな、と考えたことは覚えている。

 

 そして今。眠る前には半分は残っていたはずの菓子がない。

 ベッドの上でお八つを食べ、満腹のあとに寝落ち。淑女にあるまじき振る舞いである。

(いいえ、)

 戦場でも許されない怠慢に違いない。

 マルクスやオスカーたち部隊の皆がカードゲームの罰ゲームでやっていた『最近やった一番恥ずかしい失敗告白』に当たれば間違いなく自己申告すべき行為だった。

 なお、私は誘われなかった。

 仲良くカードゲームに興じる部隊の皆が羨ましくなかったと言えばそれは嘘だろう。だけどしょうがない。だって私は隊長だ。上官のこんな恥を聞かされても部下は困るだろう。笑える失敗談を共有することで新兵である四人の准尉たちとの親交を深める目的もあったのだろう。こういうときは上官への不平不満とか、そういう話題で盛り上がるのだ。お酒が入ったときも同じで、適宜のガス抜きは必要なのだ。愚痴をこぼせる席を設けるのも、自らの退席タイミングを見計らうのも上官として必須のスキル。

 話題の真ん中で楽しそうに笑っていたマルクスを、すごいな、いいなぁと思ったことは否定しないけれども。

 

「いいえ。隊長。あれは楽しそうじゃなくて、邪悪な笑顔です」

「……そうなのか?」

「賞品が酒保で最後の板チョコレートだったので、副官はマジで勝ちにきていました」

「そうだったのか?」

「はい。アーデルハイト隊長」

 私の話を聞き終えたエメット准尉は真顔だった。昨日に続いての警ら任務。簡易待機所とされた室内、椅子に腰かけた休憩中だ。

 隣のテーブルでは衛兵隊の制服を着用した数人がカードゲームに興じていた。真っ先に浮かんだのはカジノデートの顛末だが、今朝の反省も浮かんだのだ。

「ブラフ乱用ポーカーに続き、食い下がろうとするモーリッツをブラックジャックのカードカウンティング技術に沈めました。おとなげなく、才能にあふれたイカサマぶりでした」

「……オスカーやシュタインは咎めなかったのか?」

「なんのために勝とうとしたのかを理解していたので、苦笑いだったのだと思います」

 その場にいたであろう二人の名前をあげるが。

「俺も、しょうがないなって納得しましたし」

「食べ物の恨みは恐ろしいからな」

 補給が滞った前線では死活問題でもあった。カロリーがイコールで燃料魔力である魔道士には優先的に配給されていたため、タリスマンではパンの大きさをめぐって殴り合いの喧嘩が勃発したことはなかった。

「チョコレートバーじゃなくて、本物のチョコレートを食べさせてあげたかったんでしょうね」

 どうぞ。と差しだされたのは戸棚奥に隠されていたチョコレート菓子だった。どうしてそこに。とか、どうして知っているんだろうとか。疑問は飲みこんだ。エメット准尉はオスカー副長と同じ魔法のポケットを持っているのだ。

 礼を言って受け取り、包みをはがしたソレを口にする。


(あまい)


 思って、感じて、それから。ぽつり呟く。

 

「北方遠征中、…私、マルクスにチョコレートを貰った記憶があるわ…。半分こしたの」

「そうですねぇ。俺は副官、本命には尽くす男なんだなって感動した記憶がありますよ」


 そういうことらしい。

 




 王妃は不満だった。不安と言い換えても良い。

 王宮に呼び寄せたアーデルハイトとの昼餐会を終えた翌朝。

 息子であるフランツと朝食をともにしようと傍つきの侍女に用意を命じ、戻ってきたのは侍従長だった。やんわりと断られた。信じられないことに、フランツの謹慎処分は解かれていなかった。

「なぜじゃ」

「陛下におたずねくださいませ」

 慇懃無礼。頭を下げられた。

 アーデルハイトとの婚約解消は成立したというのに。かわいそうに、フランツは兵役に就くことすら了承したというのに。

 納得がゆかなかった。夫である国王はなんだかんだと言い訳をして王妃に会おうとはしなかった。ならばと長男であるフリュヒテゴットに申し入れた面会すらも「今は忙しい」と断られた。食い下がれば「誰のせいだとお思いで?」と鼻に笑われた。あしらわれた。

 王太子である第一王子の執務室には事実、決裁を待つ書類が積みあがっていた。そのなかには王室から陸軍魔道少佐とその部隊に対する謝罪文の草案も含まれている。弱味を見せないように、卑屈になりすぎないように、けれど傲慢と受け取られるようではいけない。伝統的に仲の悪い軍令部と内閣府の駆け引きもあり、文官たちは難しい匙加減を求められている。今の軍務尚書と内務尚書の関係は悪くもないが、良くもない。国王は早々にアーデルハイト・アルニム伯爵令嬢に対する慰謝料の目録を作りあげた。今は別途レディナイトの称号授与について検討に入っているところだ。

 フリュヒテゴットは王妃の実子だ。王国から帝国に嫁いですぐに恵まれた待望の王子だ。なのにこの扱い。不満だった。

 そもそも王妃はフリュヒテゴットの育児に関わっていない。望んで手放したわけではない。王妃の希望ではなく、周囲の都合だ。赤ん坊だったフリュヒテゴットを王妃が抱き上げられたのは数えるほどしかない。王国と帝国の小競り合い─── 王妃としてはそう思っているが、戦争と呼ぶ者もいる。敗戦の代償として王国は多額の賠償金を支払った。それだけではなく、国内の有力貴族の娘を人質としてさしだしていた。

 それが王妃だ。

 どちらが負けたのか。どちらが戦争の責を負うのか。

 周辺国へ見せつけるための輿入れだった。金塊の山と非武装の軍隊とともに王妃は国境線を超えた。

 順当にいけば王太子となる可能性の高い第一王子の教育を任せるはずがなかった。フリュヒテゴットには産まれる前から乳母が定められていたし、それは当然ながら生粋の帝国貴族から選ばれていた。王国から伸びようとする手を遮断していた。

 フリュヒテゴット自身は父王に似ていた。中身もそうだ。自分の立ち位置を母である王妃よりも正確に認識していた。王妃ではなく皇妃から生まれた弟である第二、第三王子が物心をつくときには、すでに。良き兄ではなく帝国の王太子として二人を取りこんだ。

 ただ王妃自身は悲観もしていなかった。もともと楽天家だったこともある。

 政略とはいえ帝国王太子との結婚だ。貴族の子女として一度は夢見る王子様との婚姻。むろん、そこに本人たちの意思はなく、国家間の合意が定めたものだとは理解している。休戦協定から和平交渉へ、講和条約の締結へ。王国でも戦争の終結と平和の回復が高らかに宣言された。

 それらを前向きにとらえ、頑張って帝国語も覚えた。王国の一部では帝国は未開の蛮地と囁かれていたため、最新の教科書や教師は手配できず、古語のような言葉遣いになったのは致し方なかった。敗戦国を代表し、両国の平和の架け橋としての使命を帯びて戦勝国に嫁ぐ己が自国より軽んじられているとは考えなかった。

 捕虜も同然の婚姻。けれど健気にも帝国語で、帝国のマナーで挨拶をする令嬢をことさら攻撃しようという者はいなかった。気象異常による食糧難から始まった戦争だ。領土が欲しいと言うよりも、今すぐ口に入る食料を求めての戦争だった。王国首脳部には、革命にも繋がりかねない国内の不満の矛先をそらそうという意図もあったはずだ。攻めこんできた王国を憎む気持ちはあれど、歴史を振りかえれば似たような挑発行為程度は帝国とてやらかしている。夫婦仲もそう悪くはなかった。互いに礼節を守った。国王や周囲は、第一王子や政治向きなことに王妃を関わらせようとはしなかったが冷遇してもいない。

 清潔で温かな部屋を。美食を尽くした食事を。四季折々に美しい庭を。身を飾る花に絹、宝石を。常に侍る侍女たちを。不自由なく静かに過ぎる、有り余る時間を与えた。


 マルクスであれば『なるほど。飼い殺しか』と冷笑したであろう待遇だった。


 暇を持て余した高貴なる王妃陛下は孤児院への寄付に熱心になった。菓子を持って訪問する王妃を迎えてくれる子どもたちの笑顔に満たされた気分になった。


 オスカーであれば『寂しいガキを手懐けるのに複雑な手管はいらねぇからな』と、自身の方がよほど複雑な顔をしたことだろう。


 悪いことではない。むしろ善行だ。優しい王妃様をアーデルハイトもまた慕っていた。独りぼっち、カーテンの陰に隠れて泣いていたような幼い少女にとって、自ら声をかけ、笑いかけて呼び寄せ、テーブルに手ずからケーキを取り分けてくれたという女性がどれほど眩しくうつったことか。

 第五王子と結婚すれば。義理とはいえ、彼女が母親になる。

 魔獣がはびこる恐ろしい戦場に、アーデルハイトは冷血の魔女と呼ばれてなお剣を握った。鉄血の悪魔、護国の盾ともなろう。背後には守るべき『王妃様』がいるのだから。

 それは副次的、婚約者のスカートに隠れた王子を守ることにつながった。

 アーデルハイトは目の前、フランツが別の女性と腕を組んでいても何も感じなかったが。

 王妃が自分以外の、たとえば孤児院の子どもの頭を撫でる姿を見せられれば寂しく感じただろう。

 そんな親子ごっこも終いだ。

 第四王子であるフリードリヒが運んできたのはアルニム伯爵が署名したフランツ・フォン・フォルクヴァルツとアーデルハイト・アルニムの婚約破棄同意書だった。

 まだ、どこかで。元通りに戻れると考えていた王妃に衝撃を与えることになった。

「なぜっ…アルニム伯はサインをしたのじゃっ!?」

「さぁ。ご本人に尋ねてみればよろしいのでは?」

 血判すらも許可しておきながらこの言いよう。フリードリヒが浮かべた笑みはフリュヒテゴットによく似ていた。おそらくは腹の中身も。第四王子の造詣は母親譲りの優しく甘いハンサムだったが浮かべる表情は父親譲り、…いや。兄である王太子に近い。

「一度の浮気くらい、なにが問題なのじゃ」

「そういう問題ではないのですが…。では王妃陛下は何度までの浮気が許されるとお考えで?」

「三度くらいはよいじゃろう。陛下とて、三人の后がおる」

「剛毅ですな」

 さすがに具体的な回数、あるいは人数が返ってくるとは思っていなかったか。フリードリヒはくつりと嘲笑った。目を眇めた。宣戦布告など、一度で必中だ。

 そんな些細な変化になど気づきもしない王妃は次男であるフランツがどうしようもなく大切だった。

 フランツ・フォン・フォルクヴァルツは帝国としては第五王子にあたる。スペアに不足はなかった。期待されていないからこそ、王妃には子育てが許された。ふくふくとした温かい命を、己の両手に思う存分抱きしめることができた。与える場のなかった愛情を思う存分注ぐことができた。


 母上、母上と手を伸ばし後を追って来る息子が可愛かった

 王妃の人生で、こうまで懸命に誰かに愛された記憶はない。


 つなぐ小さな手が愛おしかった。だから。


 元気よく庭を散歩する息子の前から危険なものを取り除くように。

 王宮に遊ぶ息子が欲しいと言う玩具としての友達を与えたように。

 

 兵役に就くことに反対した。ノブレス・オブリージュなど。第四王子一人で役目を果たせばよい。

 フランツに代わり戦場に赴いてくれる令嬢を探すよう提言したのは、誰だったか。

 ソレはもちろん、強くなくてはならない。なにしろすぐに死んでしまっては意味がない。役目が果たせない。賢く、魔力素養に優れ、王族に代わって兵を率いるようでなければ。第五王子と婚約するならば血筋、容姿、年齢的にも釣り合いがとれる少女でなくては。


 孤児院を運営する教会を通じて現れた司祭はそう言った。天使様の器に相応しく、とは言わなかった。


 王妃は、そのとおりだと思った。から、許可を与えた。

 表向きには第五王子の婚約者探しだ。帝国での貴族身分は大公に五爵位が続く。公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順序だ。伯爵位には上級貴族と下級貴族が混在するが、子爵以下は総じて下級貴族である。身分としては爵位に含まれない準男爵や宮中伯、騎士ナイトといったものもある。

 下級貴族ならばともかく。上級貴族に接触するためにはより地位の高い者からの紹介状は効果的だった。他国での行動に、お墨付きを与えたも同然だった。

 カペル公爵が宰相となるよりも前。前代の内務尚書と軍務尚書の仲は最悪だった。右手のやっていることを左手が知らないどころではなく、どちらの手も相手を邪魔しようとしていた。そのくせ、互い、己の領分を侵されたのだと被害者意識を持っていた。帝国を振興させる目的は同じだったはずなのに。二つの勢力の隙間を縫うように、天使真教を通じての根回しが行われていた。

 ─── 片翼の天使再臨計画。

 そんなものが足元、皇都に進んでいたことを首脳部の彼らが知ったときにはアーデルハイトの手術は終わっていた。

 王子妃を育成する。無敵の兵士をつくる。内閣府と、軍令部。一見なんの関係もない二つの目的が重なり、少なくない国庫の金が動いていた。発覚の原因となったのは共和国に支払われた魔石の代金だ。王妃から孤児院への寄付を装うにも、高額すぎて隠蔽ができなかった。

 王妃へのお咎めはなかった。

 なにしろ王妃はただ息子の幸せを天使様に祈っただけだ。遣わされた神官の言うことを信じるのは当然だ。

 苦虫を噛み潰したように国王は吐き捨てた。フリュヒテゴットへの王太子指名を終えたところだった。母親である王妃を処罰するのは時期が悪かった。


 幸か不幸か。

 実験は失敗に終わったと聞いた。


 残念なことだと王妃は思った。

 けれどアーデルハイトは前線にでて戦いつづけた。転戦、連戦を重ね、立派な魔道少佐となった。

 フランツの代わり、武勲をあげつづけてくれた。なにが失敗だと言うのか。たまには怪我もしているようだったけれども。治れば戦場に戻ってゆくのだ。どんな不都合があったと言うのか。世界など救わずとも、アーデルハイトは王妃と息子を救った。なにが問題なのだろう。魔石の効果を発動できなかったと言うが、王妃にはわからなかった。

 このまま。二人が結婚し、やがては孫をこの手に抱けるだろう。二人に似て強く、美しく、賢い子になるだろう。それが楽しみだった。

 学園からの報告に名前があがっていたピーア・ベッカーのことは気の迷いだと思っていた。

 まさかアーデルハイトとの婚約を破棄し、王子妃にと望むほどいれこんでいるとは想像もしていなかった。

 相談されていれば…、諦めるよう諭していたはずだ。どうにかしてやりたいとは考えただろうが…。王妃には妙案など浮かばない。

 アーデルハイトとの婚約が解消となった以上、フランツは自身で戦場にでて兵役を果たさなければならないのだと。周りの誰もが口をそろえる。アーデルハイトがフランツのために積み上げた武勲のすべてを突き崩してしまったのはフランツ自身らしい。そんなことはないはずだ。たしかに些細な行き違いはあったが…。

 望むところだと。

 勇ましくも武勲をあげてみせると宣言した息子が、母としてはやはり心配だったし、不安だった。


 ピーア・ベッカーに代わりに戦場に出てもらうことはできないだろうか。


 ふと思いつき。相談したフェルディナントは黙ったまま頭をふった。ひどく疲れたように、うつむいた。

 たしかにピーア・ベッカーは男爵令嬢だ。王族の結婚相手としては身分に不足がある。けれどあれほど愛しあっているのだ。癒し手として従軍した経験もある。フランツの代わりに前線で戦うと言うのなら、王妃は二人との婚姻を認めてよいとすら思った。軍の関係者たちが申し合わせたように褒め称えるアーデルハイトですら大怪我を負うような最前線へ、フランツには行って欲しくない。

 それに、…マルクス・ミュラー・マイヤー子爵。魔道士部隊の副官であり、大尉だという男。

 『ようこそ、我々の庭へ』? 心から歓迎すると言いながら。弧を描く瞳と唇に浮かぶ凶刃。魔道士とはこのようなものか。あるいは王妃の母国である王国軍を打ち払った帝国軍の一員だから?

 アーデルハイト相手には感じることのなかった居心地の悪さ。

 言葉に言い表すことのできない直感めいたもので、王妃は彼がいる場所にフランツを送りたくない。


 けれどアーデルハイトは戻らない。可愛いアデルはもう戻らない。

 王妃が泣いて頼んでも、頭を下げて縋っても。手をとり、おまかせください王妃様と胸をはってくれることはない。

 彼女の隣に座った男がこちらを振りかえることを許さない。

 アデルがフランツの代わりに戦ってくれることは二度とない。

 絵に描いたような左右対称の美貌をもったミュラーの若き悪魔が許しはしない。

 子爵だと名乗った男は次代のミュラーだ。南方伯爵領と騎士団を継ぐ。辺境の地へ、アーデルハイトを連れて行ってしまう。

 これより先。彼女の剣は帝国最強騎士団のもとで揮われることになる。

 そう告げたフェルディナントからは、だからこれ以上絶対に手をだすなとも釘をさされた。

 ミュラー伯爵家への敵対行動を示せばブラートフィッシュ侯爵家のみならず、今は中立のカペル公爵までもが敵にまわると。そうなれば磐石であったはずの王太子の基盤すらも揺らぐ。やろうと思えばやれる。向こうにはフリードリヒがいて、大義名分も立つ。やれるなら、やる。今までの彼らの行動を見ればわかるだろうと肩をつかまれても。

 王妃にはわかなかった。

 夫である国王からは息子たちが可愛いならば刺激はするな、ことを荒立てるなと念をおされた。

 王妃はブラートフィッシュ家の嫡男を拘束しろなどと命令した覚えはない。ただ、魔道士部隊に圧力をかけようとしただけだ。心優しいアデルを説得する材料の一つにするつもりだった。先走った皇都騎士団の軽はずみな行動だった。

 王妃の言い訳に、冷たいため息をついたのはフリュヒテゴットだ。

「周りがそう受け取ってくれるとでも?」

 昨日まで自ら剣をふるって戦争をしていた奴らが、そんな甘っちょろいわけがないと吐き捨てられても。

 王妃には、他に、どうすればよいのかわからなかった。

 フランツの顔を見て安心したいのに、それもできない。

 なにひとつ王妃の思い通りにならない。

 誰も彼もが制止ばかりを吐く。王妃のために動いてはくれない。時間だけが過ぎる。フランツの学園卒業まであと一月ひとつき。兵役に就く時間が刻々と近づく。フランツの帰りをあれほど心待ちにしていたはずなのに。


 焦りが喉をやく。


 面会の申し出があったのはそんなときだ。

 王国から派遣された、旧知の神官からだった。



ブラックジャックにマルクスが使っている攻略法は一般的なハイローじゃなくてHi-OPTⅡの方です。書いている人間が「人間業じゃないのでは…?」を盛りこんでみた結果です。慣れればできるとか、まずはネットゲームで練習して、って書いているひとはいますが、私には無理でした。メモ。メモ帳をください。生身の人間と会話しながらっていうあたりに難易度が跳ねあがります。


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