5
承認欲求ちゃん「伸ばしたいなら試しに投稿時間変えれば~?♡」
俺くん「べ、別にぃ、伸ばしたいから書いてるわけじゃぁ…」ピクッピク
承認欲求ちゃん「素直になりな~?♡」
俺君「お゛♡」ビクビクビークイン
承認欲求ちゃん「ザーコ♡私の塊♡フォロワー0人♡」
というわけです。朝待ってた人がいたら誠にごめんなさい。
「見下してた?」
僕がそう繰り返すと、マルは俯いたまま頷いた。なにか物悲し気に見えるその姿は、今まで僕が見てきた明るく溌溂とした姿から乖離していて、いや最近はそうでもなかったが。
不条理に追い込まれて揺さぶられて、ようやく出てきたマルの弱み。僕が今まで無いと信じ込んでいたマルの裏を表しているようだった。
そんな姿を晒して、後ろ向きな感情を抑え込まずに震えながらマルは語る。
「お前と初めて会った時から見下してたよ。ろくに人付き合いもできない何考えてるかわかんないやつって。当然俺の知り合いとも交流がない。だからお前から何か悪評が広まることもない。じゃあ別に何してもいいだろって思ったんだ。」
マルの言い方だと僕に悪意を持って接していたように聞こえる。しかし僕はその片鱗すら感じ取っていなかったし何より悪いことをされたような記憶はない。
マルは話を始めてから初めて前を向いた。こちらと目を合わせるのも辛いとでも言いたげな目線は少し下を向いている。そのせいで瞳には光が全くといっていいほど映っておらず、疲れているような印象を僕に与える。それこそ自棄にでもなったような。
「わかんねえか。まあわかんねえよな。」と諦めた口調でマルは言う。半笑いの口元が今までみたマルの笑顔の中で一番弱々しいものだと感じた。
「お前は見たことないんだろうし自分で言うのもなんだけど、他のやつと会うときはもっと爽やかで優しいイケメンって感じなんだぜ。あいつも言ってたよな。演技してるって。まあそんな感じよ。
けどよ、どうでもいいお前なんかにそんなバカみたいな演技なんてする必要ないわけよ。だから粗雑に、適当にしてたわけ。お前の前では。」
クスクスと笑いながら、マルは続ける。
「お前はそんな風に扱われてることも知らずにそれすらも受け入れる鈍感な奴だった。それどころかマルの考えてることってわかりやすいよね、なんて言ってるマヌケだ。俺の本音も知らないくせに。弱いから雑に扱われて、それにすら気づかない馬鹿だ。俺はそんなお前を見下して今日まで生きてきた最低な奴だ。
だからよ。こんなやつ見捨てろよ。優しくするなよ。」
そう言ったマルはまた俯いて黙った。沈黙の時間が続く。
僕はマルが話を続けるのを待ったがマルは頑なに何も言わない。
「まさかそれだけで終わり?」
僕が我慢しきれずにそう言うと、マルは「は?」と何を言っているかわからないような素振りを見せる。いや、“は?”と言いたいのはこちらの方なんだけど。
「嘘でしょ?見下してるとか言ってたけど結局のところなにもしてないじゃん。別になんか悪いことしたわけでもないし。」
「いや俺は内心大地を馬鹿にし続けて…」
「別にいいでしょそれくらい。僕も馬鹿だと思ったら馬鹿って言ってるしお互い様じゃない?なんなら最初僕だって、話しかけてくんなよウゼーぐらいに思ってたよお前のこと。」
「…そういう問題じゃねえんだよ馬鹿」
「じゃあどういう問題なんだよバーカ。こっちが許してるんだからどうでもいいだろ。ウジウジするなよマルのくせに。」
マルは困惑した表情でさらに何か言いたげな様子だったけど、僕はそれを言わせずに話し続けた。
「そりゃ友達にそう思われてたっていうのはちょっとショックだけどさ、それだけじゃないだろ。今までの全部がそれだけだったわけがない。たいていのことは許せるからさ。話してくれないか?マルが今までどう思ってたか、今どう思ってるか、何があったのか全部。
全部ぶっちゃけてやるって言ったのはお前じゃないか。」
正直、少しクサかったかもななんて思ったりする。身振り手振りもつけて演説じみたこの一連のセリフなんて素面の僕が見たら鼻で笑うはずだ。けどマルが僕に色々と曝け出してくれている今に嬉しくて興奮している自分がいて、そんなクサさなんてどうでもよくなってた。
今まで見てきたマルは脆さを見せると言っても比較的ライトな部分で、こんな風に考えているなんて思っていなかった。人種が違うと決めつけていた。しかしマルはちゃんと僕と同じ人間だった。
それが理解できて嬉しい気分になったんだ。マルに対してのイメージ像が崩れ去って悲しいような気持ちもないことはないけど圧倒的に嬉しい気持ちが勝っているんだ。
けど僕のそんな反応がマルの思い描いたものとはあまりに違うみたいで、相変わらず驚いて慌てている様子だ。もはや何を言えばいいかわからないんだろう。
僕は彼の名前を呼んだ。すると僕たちの目がピタリと合う。出来るだけ表情を変えずにそのままマルを見つめ続けた。
少し落ち着いたのか一度息を吐きだしてこちらから目を逸らす。出来れば目を見て話して欲しいんだけどな、とは思ったけど話してくれそうなのでよしとした。
「最初、見下していたのは本当だ。あの時から少し人付き合いに疲れてた部分もあったからな。誰も知らないやつだし嫌われても別にいいって打算的に、適当にしてたのも本当。
けど大地はそれでも普通に話してくれたし、他のやつみたいに流行りとか気にしないで話しても大丈夫だったし。他のやつには絶対話せない愚痴も聞いてくれたり。いつの間にかお前といるのが一番気楽だと思うようになってた。全部見せることは無理でも、あいつが言ってたみたいに素に近い状態ではあったと思う。」
下を向きながら、ゆっくりではありながらマルは言葉を紡いでいく。体が小刻みに震えてて少し言葉を出すのに苦労している。それでもマルはそれを続ける。僕に全てを話すために。
「けどそうやって仲良くなると、最初に俺が見下してたのがすっげえ罪悪感みたいな。お前のやさしさに甘えてたって言い方は気持ち悪いけど、そう言う感じで。勝手に気まずくなって卒業してから連絡とらないようにした。
けどこんな姿になって、その、バツが変なことしたっていうのに俺だってわかってくれてちょっと嬉しかった。でもまたお前に救われるのかって自分が情けなくなってきて。俺なんかに構ってもらうのも迷惑だと思って。
ごめんな。」
そこでまた、マルは一息ついた。話にひと段落ついたとでも言うようにもう一度息を大きく吸って吐きだす。余程緊張でもしていたのかそれを何度も行った。
そしてこちらを見るマルの表情はまだどこか曇った表情で、目元は多めに光を反射している。
「大丈夫。全部話すから。」
そう言ってもう一度深呼吸をする。疲れたながらに表情を整えてもう一度こちらを向きなおした。
「言うて、もうほとんど話したんだけどな。あとはこの五日間に何があったかだろ。
今日っていうか昨日。母さんに会ってきたんだ。あと同僚にも。けどやっぱりわかってくれなくて、食い下がってもトラブルになりそうだからすぐ帰ってきた。
俺がこのまま戻れなかったら、俺は一生あの人たちにわかってもらえないし、あの人たちは俺がここにいるのに探し続けるのかもしれないって思うと余計不安になって。
本当はもう一人会いたい人がいたんだけど、他人扱いされるのが怖くて、行けなかった。
それで全部嫌になって飲んだくれてた。
…全部話したぞ。これで全部。」
今度こそ終わったといった感じで今度は大の字になって床に寝転んで、“スッキリしたかも”と呟いたのが聞こえた。これで何かが解決したわけじゃないんだけど、そのマルの顔は強がってない本物の笑顔のようにも思えた。
けど僕は少し不満があって、足でマルの横っ腹をつつく。そしたら笑顔は一瞬で消え失せて途端にマルは口を尖らした。
「なんだよ?」
「会いたかった人って誰?」
横に視線がそれる。少し間を開けて
「彼女。」
という返答が返ってきた。そういえば大学時代から付き合ってる子がいたというのはきいたことがある。一度写真で見たし、遠目だが大学でも見かけたはずだ。長い黒髪が綺麗な、キリっとした美人の女性。なんというか、マルのおちゃらけた印象に似合っていなくて当時はアンバランスだと思った記憶がある。
「というか、あいつに関しては…」
「ん?」
「今の俺じゃあいつのこと不幸にするだけだから。別れようってメッセージ送った。そのあと見るの辛いからアプリ消して、俺最低だ。ホント。」
また表情が曇る。流石に「全部言ってないじゃん」とは言えず、少し考えたあと僕は言った。
「確かに最低だけど今は僕が味方してやるから。絶対とは言えないけど解決に協力するから大丈夫だ。頑張ろう二人で。」
マルはその言葉を聞くと黙った。多分僕が言われた側でも絶句するんだろうなと思う。だって頼りがいがなさすぎる。
言ったあとに後悔することが最近は多い気がする。明らかにいらない言葉が混ざっていてせめてそこを抜いて言いなおしたいとすら思った。
そんな風に内省する僕を見てなのか、情けないセリフを聞いてなのか、マルは笑い出した。大声でゲラゲラと。
「お前、カッコ悪すぎだろ。自信持てよ。」
腹を抱えてそんなことを言うマルに僕はどう反論すべきか考えたが、まあマルが笑ってくれているならば別に悪いことでもないなと考える。
マルはひー、ひー、と笑い疲れた仕草を見せると
「酒ある?」
といつものように訊いててくるのだった。
「飲むの?まだ?」
「気持ち切り替えないとな。大丈夫今日だけだ。明日からはちゃんとする。」
「…まあ缶ビールなら一本ずつ飲めるけど」
なにをちゃんとするんだろうと内心思いつつも僕は冷蔵庫に向かった。
冷蔵庫でビールを探していると後ろで何かボソッと呟いたのが聞こえて、僕は自分の口角が自然に上がっているのを感じた。
二本の缶を持っていきテーブルにそれを置いて、僕は
「どういたしまして」
と誰に言うわけでもなく、こちらも一人で呟いてやったのだった。
マル「…そういう問題じゃねえだよ馬鹿」
↑
(え?俺ウザいって思われてたの?)のショックを隠すための…の間。必死にシリアスな表情で感情押し込めようとしてるのかわいいねえ。
ほぼ初めて前書きあとがき機能使いましたけど多分もうほぼ使いません。なぜならキチゲ解放してしまいそうだからです。私は内なる化け物を解放しないようにこの機能を封印します。ご理解よろしくお願いします。