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ジリリリリリ!!
けたたましいサイレンの音が、幾度にも重なって響き渡る。
うるさすぎるサイレンが気に障ったのか、眉根を寄せながら子供が身を起こした。
「ったく。こっちは連日仕事だぜぇ?少しは休ませろっつーのよぉ。」
コキコキ、と首を鳴らしながら、早朝の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。
「テメーら起きろぉ!!仕事の時間だぜぇ!!」
大音量で響き渡った声に呼応するように、床に散らばっていた者たちが一斉に目を覚ました。
「OK、ボス。」
「今回のターゲットは?」
フードを被った全身黒ずくめの男が少年に問う。
「難しかあねぇ。安心しろ。ミュージカルで少し暴れまわるだけさ。」
「ボスは僕たちの扱いが雑なんだよねぇ。ターゲット、トーキョーの超絶人気アイドルライブじゃない?簡単に言ってくれるよねぇ。」
小柄な茶髪は、キャベツをシャクシャクやりながら、面倒くさそうに頭をかいている。
「要するに、ライブの最中に行われるサンプルの取引をぶち壊せばいいってことじゃな?」
幼女は余裕しゃくしゃくの光速でパソコンを叩いている。
「そういうこった。いま歩いてるパイプの、アジトから373個目のマンホールからでりゃ最短だぁ。」
「相変わらずクサいねぇ。鼻が曲がるよ。」
「うるせぇ。もうとっくにお前のはまがってるぜ。心がな。」
「帰りは地上から行く。ココは待ち伏せされる可能性が高い。」
「おいボス、完成したぞい。」
「オーケー。完璧だ。」
「薬は?」
「問題なし。」
「タマは?」
「いつでもいけるよ。」
「地図とインカムは?」
「異常なしじゃよ。」
いつも通りに帰ってくる完璧な答え。こいつらが居るから、こっちはこっちで派手に暴れられる。
少年は熱のたぎった目で信頼する仲間と、それぞれのブキを構える。
「行くぜ。20分、いや10分以内に片付けるぞ。」
次の瞬間、彼らはもういなかった。ただ嵐が過ぎ去った後のように静まり返っていた。散り散りになった彼らは、どこに潜んでいるかわからない―
パイプの中でキャベツを食べていた彼は、ライブ会場に忍び込んでいた。
「うっわーめちゃ混み。パイプの中よりもクサいオジサン達で溢れかえってるじゃん。どーやって所定の位置につけっていうのよウチのボス……。」
そこで彼は思いついた。ないなら奪っちゃえばいいじゃん、と。
「やっほーオジサン。ちょっと席借りるね。」
「なんだ子供ぉ?ここはチビちゃんがくるとこじゃ……う?」
ドサッと倒れ込んだオジサンを支えるふりをして、スタッフに運ばせておく。
そのまま席に陣取った彼は、オジサンが残していったお菓子を食べ始めた。
「うぇ。まず。」
キャベツの彼は、お菓子の袋を投げ捨ててしまう。
こんな事してて大丈夫なの?と思った読者の皆さん、ご安心を。
この1カメ、2カメ、3カメのどこからどう見てもだらけているようにしか見えない彼もまた、牙を剥く準備は万端だ。
彼は天井に向けてウィンクした。幼女経由でその情報を得た少年は手下たちに合図を送る。
「思い知らせてやろう。奴らに。このホシが誰のものかを。」