異世界は無法地帯。一章.第ニ話
なんとかマッチョとチャイナ服からは逃げられたが、現在財布の残金430円也。
すでに自宅から15キロも離れた場所で、電車賃は高くて5キロ程度の移動が精一杯。
バスもタクシーも430円じゃ無理だ。
「あぁ・・徒歩か・・・」
十キロ以上走り回った後に十五キロ歩くのはちょっときつい・・・
「美容室行くのです〜」
さらに妃美までついてきている。
メガネを取って髪を結び直している。
頭ではアホ毛がふわふわしている。
どうやら助けたので美容室に一緒に行くという対価をよこせと言っているらしい。
「美容室ってどこにあるんだ?俺は金持ってないぞ?」
「そこなのです〜」
確かに目の前には美容室がある。
割としっかりした、というかお金がかかりそうな美容室だ。
「上空巳さんも入るのです〜」
そう言うと妃美は美容院に入ってしまった。
仕方なくついていくと、その中には高級感漂う予約がないと入れませんというような受付があった。
ロビーには他にも、高級そうな観葉植物や、領収証に0が軽く6個はつきそうなソファーがあった。
床は高級そうな絨毯が敷かれており、飲み物でもこぼしたならクリーニング代だけで諭吉が10枚は飛んでいきそうである。
受付では妃美が
「妃美なのです~。いつも通りお願いするのです~」
と言っていた。
いつも通りということはこんな高そうなところに月一で通っているのだろうか。
するとすぐに高級ホテルのドアボーイみたいな人が出てきて
「姫美芽様、こちらへどうぞ」
と言ってドアを開けていた。
「上空巳もくるのです~」
そういうと妃美はドアの中に入っていってしまった。
こんな高級なところに一人でいるのが耐えられそうにないので慌ててついてく。
ドアの先には広い廊下があり、壁には雰囲気に合った高級そうな絵画があった。
南国のビーチのようなところで人々が泳いでいる絵画だ。
この美容室には高級じゃないものが1個でもあるんだろうか?
ドアボーイっぽい案内の人は奥の方の扉を開けている。
妃美はすでに中にいるようだ。
廊下で立っているわけにもいかないので中に入ると、妃美はすでに美容室でよく使う髪が服につかないようにするポンチョのようなもの(散髪ケープというらしい)をつけて散髪用のいすに座っていた。
「私はいつも通り、上空巳さんはかっこよくしてあげるのです~」
どうやら上空巳の分も席があるらしい。
美容師は妃美の隣の席に座れというポーズをしている。
「おい、俺400円しか持ってないぞ。金払えないぞ」
こんなところで一回髪を切るだけで一体いくらかかるのか想像するだけで怖い。
「心配ないのです~。私のおごりなのです~」
クラスメイトにこんなお金がかかりそうなところをおごれるとは一体妃美はいくらお金を持っているのだろう。
「ちなみに予約した時点で料金前払いなのでキャンセルしても戻ってこないのです~」
俺の分も予約したらしい。
勝手に。
「今髪切らないなら上空巳さんちに領収証を送るのです~」
勝手に予約して領収証を送り付けるのは詐欺だと思うが、そんなことを気にする妃美ではないらしい。
「さぁさぁ、かっこいい男への道はすぐそこなのです~座るのです~」
俺をかっこよくして妃美に何の得があるのだろう。
「早く座るのです~」
どうやら拒否権はないらしい。