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黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第四章 終焉の神
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14 男×女あるいは男×男

 ヴェーラの話が終わった後、ロイゼルドはすぐさまアストラルドに報告に行った。隣国のあやしい動きに、エディーサ王国だけならずこの大陸全てが危機に陥入る危険がある。

 話を聞いた王太子は珍しく厳しい顔をしていた。



「間諜が伝えてきたんだよ。トルポント王国が魔術師達を集めて神殿を狙っている様だと。どういう意図かわからぬまま、騎士団を作り防御を強化する事にしたのだけれど」



 まさかそんな壮大な理由があるとはね、と呟く。



「当然あの国のお馬鹿さん達は、自分達が踊らされている事に気付いていないのだろうね。困ったなあ」



 トルポント王国の動向はいまだ沈黙のままだ。



「ロイ、古城の改修はいつ頃終わる?」


「もう間もなくと報告を受けております」


「出来るだけ早く、そして魔術に強い騎士達を置いておくように」



 アストラルドの指示にロイゼルドははい、と頭を下げる。



「フェンは?」


「ヴェーラに言われた他の神獣を探しに行くようです」


「じゃあしばらくは使えないんだね」



 それと、とアストラルドは付け足した。



「すまないね。ルディをもうしばらく使わせて。彼女が必要なんだ」


「わかっています」



 彼女自身がそう言った通り、この国にとって彼女は戦いの道具だ。自分は彼女を使わねばならない。

 ————壊れない様にして。




     *********




 執務室に戻ると、エルディアだけが待っていた。帰って来るのが遅くなったが、報告の結果が知りたかったのだろう。夕暮れの赤い輝きも薄れ、窓の外には紺色の空が広がっている。ロイゼルドは部屋のランプに火を灯した。



「殿下は知っていたの?」



 トルポント王国の妙な動きは掴んでいた様だと告げると、エルディアはさすがだねと呟いた。



「鳥はどこ行った?」



 くっついて来たがっていたのを連れて行けるかと置いて来たのだが、どうも姿が見えない。



「アーヴァイン様が連れて行ったよ」



 ヴェーラはアーヴァインがもう少し話が聞きたいと言って、研究所へ連れて行った様だ。

 少しホッとしながらソファーに座る。ぽすんと振動がして、エルディアが隣に座った。



「まさか神の使いだったとは」


「びっくりだよね」



 あの妖艶な美女が神に仕えているとは思えないのだが。エロ過ぎるだろうとちょっと思う。神の使いと聞いて聖女の様な姿を思い浮かべてしまうのは、単なる人間の勝手なのだろうか。

 隣を見て、そうこんな感じの金髪の美少女ならそれらしいがと考えて、惚気(のろけ)ているなと反省していると目が合った。


 エメラルドの瞳が夕闇の中、部屋のランプの明かりを受けてゆらゆらとした光を灯している。出会った頃に比べて幾分シャープになった頬に金糸の束がふわりとかかり、その先が小さな紅い唇に触れていた。



「ロイはヴェーラみたいに女らしい方が好き?」



 おずおずと見上げてくる顔がいつになく不安そうで、心を絡めとられそうなほど庇護欲をかき立てる。


 不意打ちをくらってロイゼルドはぐっと息をのんだ。


 だいぶん慣れたつもりでいたが、この婚約者でもある弟子は王女直伝のとんでもない技を持っている。こんな顔を見せられてはたまらない。一目で男達が恋に狂い悶絶しそうな美貌なのだ。少しは自重するべきだろう。また無意識なのがなんとも罪作りである。



 深く深呼吸してロイゼルドは沸き上がる衝動を抑えた。よし、まだ自分は正気だ。

 我ながら辛抱強いなと内心自画自賛しながら、平静を装いエルディアの質問に問い返す。


 

「女性の好みをあまり考えた事はないんだが………なんだ?嫉妬か?」



 滅多にそういう感情を見せられた事がないので、珍しいなと思いつつやはり嬉しくもあった。

 エルディアは下を向いて、だって大人だし色っぽいし綺麗だし、それに巨乳だし、とぶつぶつ言っている。よっぽど胸にコンプレックスがあるのだろうか。

 可笑しくなって笑うと、ひどいと怒られた。


 確かにヴェーラは(あで)やかな赤い薔薇の様な色気があるが、エルディアも匂い立つ清らかな白百合の様な色気を持っている。女神に例えられ讃えられているくせに、本人は気付いていないのだろう。

 男としては、時に白く清らかなものを(けが)す事の方がずっとそそられるのだが。



 指先でエルディアの顎を捕らえ、上を向かせる。エメラルドの瞳が綺麗だなと思いながら、その唇をついばんだ。



「ロイ?」


「やはり俺のかまいかたが足りないから不安になるのかな」



 リアムに言われた言葉が頭によぎる。女らしくないのは自分の責任だと。もっと口説けと言うが、普段上司と部下という関係上、しょっちゅう口説くわけにもいかない。

 そして、やはり騎士団にいるせいだろう、エルディアの行動はかなり男っぽい。叙任式の夜といい御前試合といい、このところ彼女には心配ばかりさせられている。それをふと思い出して少し悪戯(いたずら)心が出た。

 

 ——ついさっき、正気を失いかけた事をすっかり忘れて。



「ルディ、いつまでも師匠と弟子では駄目だろう?」



 細い腰を引き寄せ、覆い被さる様にソファーに押し倒す。緑の瞳が見開かれるのも構わず、もう一度唇を重ねた。



「んん………っ」



 鼻から抜ける甘い声に、すんでのところで保っていたロイゼルドの自制心という名の糸がぷつっと音を立てて切れた。


 これはまずい、一瞬そう思ったが止められない。

 吐息を奪い尽くすような接吻の続きが、首筋をたどるように降りてゆく。



「え………ちょっと…待っ………」



 戸惑ったエルディアの静止の声が聞こえたが、構わずもう片方の手で服の襟を開き、白い首をかじるように軽く喰み所有の印を付けた。

 そして上着の前をはだけさせると、ブラウスの襟のその奥まで指先をするりと忍びこませる。

 滑らかな鎖骨を撫で上げると、エルディアは息を吸い込んだまま固まった。


 初心(うぶ)な反応に嗜虐心がそそられる。腰から太腿へ手を撫で下ろすと、怯えたうさぎの様にふるふると肩をふるわせた。



「…………っ!!」



 突如二人の周囲に突風が吹き、目も開けられないほどの風圧で髪を吹き乱される。

 バリンと音を立てて部屋のガラスが割れて散った。


 窓ガラスが吹き飛び夜風がそよと吹き込む部屋で、二人は抱き合ったまま固まっていた。

 ロイゼルドがなんとも言えない表情でエルディアを見下ろす。



「………久々にやったな」


「だって、ちょっと心の準備が!」



 エルディアが真っ赤になってふるえている。

 いや、悪いのは我を忘れた自分なのだが。ちょっと興が乗ってやり過ぎた。だいぶん慣れたと思ったが、どうやら刺激が強すぎたらしい。

 しかし、この程度でこれでは先々どうしよう。



「困ったな。このままでは俺は結婚しても、男を抱かなきゃならんのだろうか」



 思わず呟くと、エルディアがぶんぶんと首を横に振った。



「それはイヤ………!」



 万が一、男に目覚めてしまったら困ると青ざめている。


 男だろうと女だろうと、中身がエルディアなら自分はどっちでもいいのだけれど。

 頑張るからそれはやめてとすがる彼女の髪を撫でて冗談だと伝える。

 いや、これから先これが冗談にならなかったらマジでやばい。本当に男の抱き方も覚えておくべきなのだろうか。それはロイゼルドにも全く未知の領域だった。


(これはある意味、従獣(あいつ)の呪いだな)


 ロイゼルドは昼間サンドイッチを持って来た白狼の顔を思いうかべ、恨めしく思いながら心の中でそう呟いた。


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