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黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第三章 風の神獣の契約者
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27 終章

 エルディア達が王都に着いて数日が経った。

 本物のエルフェルムが帰国した今、従騎士エルフェルムはエルディアに戻る。


 国王ギルバートはイエラザーム皇国から帰国したエルフェルムとエルディアの入れ替わりをかねてより了承していたが、今回エルディアを元の姿に戻すにあたって一つの条件をつけた。


 『早期に国内の然るべき地位にあるものと婚姻を結ぶ事』


 それは神獣を従え強大な魔力を持つ彼女を国内にとどめ、他国に渡さない為の配慮だ。エルディアの相手候補は王太子アストラルドによって、帰国後すぐに王に奏上されていた。もたもたしている間に誰がまた手を出して来るかもわからない。イエラザーム皇国の件のようなことがあっても、既婚者ならば断るのは簡単だ。


 そして、王が直々に背中を押した形になったが、ロイゼルドはマーズヴァーン侯爵家にエルディアとの婚約を申し込んだ。


 エルガルフは初め、ロイゼルドが王太子の命令で仕方なく引き受けたと思っていた。しかし、実はイエラザームに行く前にすでに、彼がアストラルドにそのつもりがあることを話していたと聞いて驚いた。

 その裏にはヴィンセントの口添えもあったようだ。レンブル領で二人を見てきた騎士団長には二人の関係を見破られていたらしい。



「我が娘ながら、こいつに手を出せる男がいるとは思わなかった」



 エルガルフは笑ってロイゼルドの肩を叩く。



「父様、それはどういう意味ですか?」


「研究所を何度も破壊するわ、騎士団に入るといいだすわ、これでは嫁の貰い手など絶対ないと思っていた」



 父親としては娘に普通の幸せを望んでいたものの、刻印を受けてからはすっかり諦めていたのだ。

 エルフェルムも背後からもっと女の子らしくしないと、と言ってくるのでエルディアはふてくされている。



「大丈夫です。もう慣れましたし」



 ロイゼルドがフォローを入れたが、あまり効果はなかった。

 エルガルフが笑いながらエルディアに問う。



「それで、一度レンブルに戻るのだろう?」



 王にエルフェルムの帰国と今回の経緯を報告して、ロイゼルド達は一旦レンブル領に戻る事になっていた。

 エルディアも兄を王都に残してレンブルに向かう。だが、彼等はすぐにまた王都に戻るようにと命じられている。



 皇帝ヴェルワーンはアストラルドとの会談で、エディーサ王国と同盟を締結すると約束した。

 エディーサ王国の要求は王家に連なるエルフェルムの帰国の許可と、他国からの侵略時の援軍の依頼。

 イエラザーム皇国側の見返りは、戦時に魔術師を含めた援軍を送ること。


 イエラザームの間諜の報告によると、トルポント王国はミゼルの件でも推察される様に、魔力を持つ者を集め始めている。

 いずれ再び侵略を始める可能性が高い。真っ先に狙われるのは、国境を接するエディーサ王国だろう。



 アストラルドは帰国後、国王に新しい騎士団を創ることを提案した。


 国境と王都をそれぞれ守護する四つの騎士団とは別に、魔術師団から攻撃的役割を担う集団を分離して鷲獅子騎士団を新設する。

 精鋭のみで構成される王太子直属の騎士団は、魔術と剣術の両方を駆使して攻撃と守備を行う。

 鷲の上半身と獅子の下半身を持つ、鳥と獣の王グリュプスがシンボルだ。


 そして、ロイゼルドを正式に鷲獅子騎士団の団長と、侯爵の爵位に叙任する内示が下った。

 これまでの黒竜騎士団の戦いにおける功績と、今回のイエラザームへ同行したアストラルドの推薦によるところが大きい。

 それは次代の王の(もと)で補佐せよとの意味合いを含んでいる。


 双子の魔術師エルディアとエルフェルムは鷲獅子騎士団に配属となる。

 魔術戦闘の経験者で双子の背景を知っているリアムとカルシードも、ヴィンセントの配慮で黒竜騎士団から鷲獅子騎士団に転属する事になった。

 他にも各騎士団と魔術師団から優秀な人物がくる予定だ。





「まだ騎士団にいられるなんて思わなかった」



 父達と別れて庭へ出て来たエルディアが、ほっとしたように言う。



「それは俺のセリフだよ」



 反対にロイゼルドは大きな溜息をついた。


 エルディアは実家に戻り、そこから王宮に出勤することになる。

 ロイゼルドから離れるのは少し寂しく思ったが、女の姿で騎士団の宿舎で寝泊まりするのは流石に気がひける。騎士団に残れただけでも良しとせねばならない。


 ロイゼルドには少しだけ困った顔をされたが、王太子の命令では仕方がないと諦めたようだ。



「殿下はいつまでエルを戦わせるつもりだ?」


「適材適所だよ。実際、僕は戦いに向いてる」


「俺はいつまでお前が怪我をしたりしないか心配しないといけないんだ?」


「ずっと一緒にいるから大丈夫だよ」



 エルディアはそう言って背伸びをすると、なだめるようにロイゼルドの頬に軽く口づけた。



「誤魔化すな。どうせ無茶するくせに」


「しないって」


「誓えるか?婚約者殿」


「はーい」



 適当な返事に顔をしかめたロイゼルドは、エルディアの後ろ頭を引き寄せて噛み付く様に深く接吻(キス)を返す。


 騎士団の叙任式はもうすぐ迫っていた。





「そういえば、フェンはどこにいるんだ?」


「庭にいるよ」



 フェンは帰って来てからは侯爵家の庭でずっとゴロゴロしていた。

 本当に彼は神話に出てくる魔王なのだろうか?

 たまにフェンの身体を櫛でといてやりながら、エルディアは疑問に思っている。


 相変わらず犬のようで、フェンリルのような威厳も怖さもない。頭を撫でると嬉しそうにペロリと鼻を舐めている。



 ただ、ロイゼルドがエルディアに会いにくると、フェンはいつも不満そうにロイゼルドを見ている。

 エルフェルムが悪戯するなよ、と言い聞かせているが、たまに風を吹かせて小石をぶつけている事は知っている。

 ロイゼルドもフェンの表情を敏感に察して、なんだか警戒している。



「フェン、レンブルに一緒に行く?ルフィとここにいる?」


『いっしょにいくにきまってる。こんなやつにぼくのルディをまかせられないし』


「本当、可愛くない狼だな」



 ロイゼルドがフェンのほっぺたを両手で掴んでビヨンと伸ばした。

 フェンは舌をベロンと伸ばして、あっかんべをするようにピロピロと舌を揺らす。



「コノヤロウ」


『ルディをまもるのはぼくのやくめだ』


「お前なあ、とびきり良い肉をやっただろ?」


『それとこれはべつ』


「喧嘩しないでよ」



 エルディアがフェンの鼻に手をやって抑えると、狼はプイッとそっぽを向いた。



「お前、俺はルディの婚約者だぞ」



 いい加減毛嫌いするなよ、とぶつぶつ呟いていると、ボンッと音がしてフェンが煙に包まれた。



「フェン!」



 なんで爆発したのか。

 慌ててフェンに走り寄り、その身体を抱きしめる。いつもふかふかの身体が、妙に硬い。手に触れる感触は獣の毛皮ではなく、布の手触りだ。



「ええっ?」



 エルディアは思わず飛び退いて足元を見る。

 そこには白い服の青年がうずくまっていた。



「ルディ」


「フェ、フェン?」


「僕の大切な主」



 青年はゆっくりと立ち上がり、エルディアを見るとにっこりと微笑む。

 白銀の髪、漆黒の瞳。

 人間離れした綺麗な顔をしているが、不思議に人懐っこい表情はフェンの面影がある。

 歳の頃はエルディアより二つ三つ上といったところか。


 ロイゼルドがぽかんと口を開けて驚いている。



「驚いたな。人間に化けるとは」



 驚愕のあまり立ち尽くすエルディアの両手をとり、人型になったフェンが耳元に唇を寄せて囁く。



「こいつより僕の方がルディに相応しいと思わない?」



 ロイゼルドが慌ててエルディアを奪い、腕の中に引き寄せた。



「こら!人の婚約者を誘惑するな!」


「神獣の契約はどちらかの命が尽きるまでの血の契約だ。僕は全身全霊をかけてルディを守るよ。こんな奴、いらないでしょう?」



 真剣なフェンにエルディアは首を振って答えた。



「フェン、僕にはロイが必要なの。大切な人なんだよ。フェンにも認めて欲しいな」


「ルディは僕が要らない?」


「ううん」



 エルディアは更に首を振った。



「フェンがいるから僕は今生きている。フェンもとても大事な友達だよ。だから側にいて。僕は欲張りなんだ」



 フェンは安心したように漆黒の瞳を細めて、ホッと息を吐く。



「アルカ・エルラは僕の罪を見せるために、眠る僕の封印を解いた」



 フェンリルは嫉妬に狂い、魔に変じた。地上は戦闘に塗れ神々は消え、光の獣達は魔獣に堕ちた。

 その重い罪を償えと創世神は言っている。



「ルディ………愛してる。女神は僕を拒絶した。もうあんな思いはしたくない。嫌わないで」



 彼の愛は純粋だ。



「アルカ・エルラは女神と僕の契約を切った。そして、新たな主を得るまで魔力も封じて森に落とした。僕は再び目覚めた時、僕自身を消そうとしたんだ。女神のいない世界なんて、僕は存在する意味がないと思った」



 傷つくはずのないフェンリルが、血を流し怪我をしていた。

 あれは自分自身で傷つけたものだった。



「ルディ達に拾われた時、僕は君達に女神の血が流れているとわかった。だから僕の力を与え、二度と主を傷つけない様に、自分に魔法をかけた」



 フェンはそう言って自分の両手を見る。



「主の命令には絶対逆らえないんだ。僕はもう間違えない」



 彼は自らに枷をはめた。

 二度と同じ過ちを繰り返さない様に。



「フェン、僕は貴方を離さないから安心して?」



 エルディアは彼を抱きしめた。

 大丈夫。

 フェンはもう狂わせない。



 主を失った狼は再びこの世界に生まれた。

 この白銀の獣を再び絶望に黒く染めてはいけない。

 だが、有限の命である自分達兄妹は、女神の代わりにはなれない。

 それでも、この神獣にとってはほんのひとときになろうと、その安息を守りたいとエルディアは思った。


 第三章完結です。

 この長い物語をここまで読んでいただい方々に本当に感謝いたします。


 さて、エルディアも無事女性に戻り、ロイゼルドと婚約するところまでこぎつけました。だんだん恋愛ににも慣れてきたようですが、大人のロイとの恋、本当に大丈夫?キスだけじゃないんだぜ?

 てなことで、まだまだじれ恋は続きます!


 新たな騎士団も出来て、エルディアもまだのんびり出来なさそうです。

 人型狼フェンと兄エルフェルムも加わって、また新たな戦いが始まります。


 どうぞ最後まで見守ってやってください!

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