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黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第三章 風の神獣の契約者

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22 双子の魔術師

 片目を失った魔獣に向かって、剣を抜いた騎士達が一斉に斬り込もうと走る。

 鎖に繋がれた魔獣は海に逃れることもできぬまま、半身を港の地面の上でゴロゴロと転がし苦しんでいる。そこへ攻撃しようと飛びついた者達が、危うくその巨体の下敷きになりかけて慌てて退(しりぞ)いた。



「口には近づくな!」



 シェインの指示に、騎士達は海に近い胴部分を集中して狙う。

 だが鎖を引く者達も、あまりの力に固定することが難しく、火を吐きながら暴れる魔獣に近づくことが出来ない。

 やっと剣で斬りつけてもリヴァイアサンの鱗は鎧の様に硬く、そのほとんどがキンと甲高い音と共に弾き返された。



「皆、下がれ!鎖を引いて奴を固定しろ!」



 ロイゼルドが叫ぶ。



「エル、ルフィ、お前達の魔法の方が有効だ。奴の鱗を切り裂いてくれ。心臓を狙う」


「「はい!」」



 二人は騎士達が下がるのを確認して、すぐさま風の刃を連続して放つ。


 目に見えぬ鋭いカマイタチが、次々と硬い鱗を剥ぐように切り裂いてゆく。青銀色の鱗が地面にボロボロと零れ落ちた。



「鱗の無いところを刺せ!」



 ウォーと声を上げて騎士達が再び走り出す。

 リヴァイアサンは頭を振って抵抗するが、火炎を封じられ鎖で繋がれた状態では大勢の敵になす術がない。

 口を開け、喰らい付こうと身体をくねらす。


 その牙をかいくぐり、数人の騎士が剣を突き立てた。



「…………ッ!」



 残された片方の赤い瞳が怒りに揺らめく。

身体を沈め、そして長い身体をくねらせたかと思うと、海の中から尾を跳ね上げ、群がる騎士達に叩きつけた。


 避けきれなかった多数の騎士が、跳ね飛ばされ呻きをあげる。



「しぶといな」



 シェインがギリっと奥歯を噛み締めて唸る。

 これだけの攻撃をしてなお、リヴァイアサンを倒すことが出来ない。



「さすが上級魔獣。簡単には倒れないか」



 双子の魔術師達のおかげで、魔獣の火炎は封じられている。風の攻撃魔法もかなりの援護をしてくれていた。

 それらがなければもっと苦戦し、犠牲も出ていたことだろう。


 シェインはロイゼルドの側で立つ、金と銀の髪の美しい双子を見やる。

 彼等は魔獣の動きを見つつ、騎士達を守る為に火炎を防ぐ結界の領域を調節し続けている。


 魔法の失われてゆくこの世界で、これほどまでの力を持つ魔術師がいる。エディーサ王国はどれほどの力を秘めているのか。



「敵にはまわしたくない国だ」



 彼はそう呟いて目の前の魔獣を見上げた。





「エル!」



 リヴァイアサンの尾を避けて飛び退ったリアムが、エルディアを見つけて駆け寄ってくる。



「奴の心臓はどこかわかるか?身体が長すぎて見当がつかねえ」



 何度か突き刺したのか、手に持った剣は血に濡れている。



「リアム、いけるか?」



 ロイゼルドがリアムに手応えを尋ねる。



「副団長!あいつ硬いしデカいし、刺してもこたえてない」


「リアム!エル!」



 カルシードも駆け寄って来た。火に少し炙られたのか、左袖が焦げている。



「シード、火傷してる」


「大丈夫。大したことない。それよりあいつ大きすぎ。斬ってるんだけど、全然急所がわからないんだ」



 フェンがエルディアのそばでリヴァイアサンをじっと見つめる。



『あたまから、にほんめとさんぼんめのやりのあいだだよ。そこにしんぞうがある』


「フェン、わかるの?」


『みえる。しろくひかっている』



 リアムがヒュッと口笛を吹いた。

 ロイゼルドがフェンに聞く。



「そこを狙えばいいのか?」


『ふかい。けんではとどかない』



エルフェルムがフェンの頭を撫でた。



「僕がリヴァイアサンの身体を裂くから、ルディ達は心臓を狙って」


「わかった」



 そう言って再び魔獣に向かって走り出そうとした時、エルディアの服の裾をフェンが咥えて止める。



『ぼくがやる』


「フェン?」


『これいじょうはもう、かわいそうだ』



 フェンの狼の顔は表情がよくわからない。

 だが、フェンは魔獣を哀れんでいる。

 エルディアはフェンの顔を見つめた。


 フェンはリヴァイアサンと旧知の仲だったような言い方をしていた。いつから知っているのかわからないが、同じ魔獣として戦うことはもしかしたら不本意だったのかもしれない。



『ニンゲンたちをリヴァイアサンからはなして。きけんだから』



 フェンがロイゼルドに頼む。

 ロイゼルドはその言葉を伝えるべく、シェインのもとへ走って行った。



『ルフィ、ルディ、ふたりはあいつのうごきをとめていて。いちどでおわらせてあげたい』



 エルフェルムがフェンを見て、無言で頷いた。



「ルディ、出来る?」


「どうやるの?」


「風魔法で縛り上げる。あいつの周囲に渦を作るんだ」


「了解」



 リヴァイアサンは再び頭を空へ向けて伸び上がり、傷だらけの身体をくねらせて吼えた。赤い目が周囲の人間達を睨み、海から出た尾が再び振り上げられ揺れている。



「退避せよ!」

「退がれ!」



 シェインとロイゼルドの声が同時に響く。

 騎士達が一斉に魔獣のそばから離れた。



「ルディ!」


「行くよ!」



 二人の身体を風が包む。

 凄まじい強風が髪を吹き上げ、服の裾を激しくはためかせている。

 足下の敷石がピシリと音を立てて砕け、小石が巻き上がった。


 そして、二人の両手が振り上げられると同時に、それぞれの身体から前方の標的に向けて放たれる。

 その風は見えない渦を巻き、左右から囲み込むようにリヴァイアサンを襲った。

 風の重力波が魔獣を縛り上げ、自由を奪う。



「フェン!」



 エルフェルムが呼ぶ。

 二本の風の渦が魔獣を抑え込み、ギリギリと拘束している。

 リヴァイアサンの巨体が身動き取れずに天を仰ぎ固まる。


 フェンは全身の毛を逆立たせ、空に向かって吼えた。


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