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黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第三章 風の神獣の契約者
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21 火炎の海獣

「来るぞ!」


港の少し高くなった所から、海を睨んでいたシェインが叫ぶ。


「展開しろ!」


イエラザームの騎士達が港に広がる。

準備されていた鎖のついた鉄製の長槍が、投擲機(とうてきき)に設置されている。

鎖の端は船を繋ぐ杭に巻き付けられている。

その側に数人ずつ人が付く。

幾分細い槍が幾本も海に向けて構えられた。

エディーサの騎士達もロイゼルドの指示に従い、矢をつがえる。


彼等の前方に見える海が、大きくうねり泡立っている。

まだリヴァイアサンの姿は見えない。

海中を進んで来ている。


「エル、ルフィ、結界を頼む!」

「はい!」

「わかりました!」


ロイゼルドの指示に、エルディアとエルフェルムが左右に走り、それぞれ右翼と左翼の騎士達の頭上に風の結界を張った。


「フェン、リアムとシードをサポートしながら攻撃できるか?」


隣に座って毛繕いをしている白い狼に尋ねる。

フェンはフイッと横を向いた。


「ぼくはルディとルフィのおねがいしかきかないよ」


ロイゼルドがムカッとした顔をする。


「そう言うだろうとわかっていたが、イラつくな。おい、エル!こいつを使って戦え!」

「はい!フェン、おいで!」

「ワフン!」


エルディアの呼び声に、フェンは尻尾を振って走って行った。


その一分後、海面が割れた。


「来た!」


ザバァッと海の中から巨大な頭が港に向かって伸ばされる。

青黒く銀色に光る鱗に覆われた、蛇のように長く背びれのある身体はゆうに五十メートルはある。

リヴァイアサンは器用にゆらりと鎌首をあげて海から立ち上がった。

頭の周囲にはたてがみのようなヒレがある。

その口は無数の牙が並び、その奥に長く赤い舌が何故か白い湯気をたててチロチロと揺れていた。


「打て!」


エディーサ軍の矢が一斉に放たれた。

ヒュンヒュンと音を立てて、魔獣の顔目掛けて矢が襲う。

魔獣の視界が遮られた隙に、イエラザーム軍の鉄槍が魔獣の身体目掛けて投擲機から次々に放たれた。


硬い鱗の隙間に突き立つ。


痛みを覚えて魔獣が怒りの声をあげた。

沖に逃れようとして、槍によって港に繋がれていることに気付く。

巨体をくねらせ港に繋ぐ鎖を引きちぎろうとするが、鎖の端を大勢の騎士が掴み引いている。


リヴァイアサンの口が大きく開かれた。


「炎を吐くぞ!」


ゴオッと音をたてて魔獣の口から火炎の息が、港の騎士達に向けて吐き出される。


「大丈夫!そのままで!」


回避しようとする者達を制止して、双子は風の結界を強化した。

炎は港に届くことなく、風に吹き消され霧散する。


「凄い!」

「いけるぞ!」


港から驚きと称賛の声があがる。


「みにくくなったね。むかしはきれいなぎんいろのりゅうだったのに」


エルディアの隣で、フェンがリヴァイアサンを見ながらポツリと呟いた。


「フェン?」

「きれいなうたをうたっていたんだ。ぼくはそれがすきだった」


漆黒の瞳が潤んで見える。


「どこでぼくはまちがったんだろう」



その目の前で、炎の息吹を消された魔獣に向けて、次々と長槍が投げられた。

リヴァイアサンは鉄槍の食い込んだ首を振って、その攻撃に反撃する。

長槍は固い鱗の上を滑り、港にいる騎士の何人かは魔獣の頭に跳ね飛ばされた。


「危ない!」


魔獣の大きな顎が開かれ騎士達に迫る。

それを阻止しようとエルフェルムが風の刃を放ち、リヴァイアサンの鱗を切り裂く。


赤い瞳がギラリとエルフェルムを捉えた。

火炎を吐きながら無数に牙の並ぶ口を大きく開き、彼を飲み込もうと首を伸ばす。


「ルフィ!」


エルディアが叫ぶ。

すんでのところで牙を躱したエルフェルムが、その口中に向けて更に魔法を放ち切り裂く。

魔獣の背後からもエルディアが風魔法で攻撃を加えた。


傷だらけになりながらも、リヴァイアサンはまだ燃える炎の様な瞳を人間達に向けている。

鉄槍以外の傷は浅く、まだ致命傷には程遠い。

魔獣は自分を繋ぐ鎖に噛み付いた。


「鎖から引け!退避!」


危険を察知したシェインが叫ぶ。

次の瞬間、鎖が炎に包まれ燃えるように赤くなる。

魔獣が杭から数本の鎖を引きちぎった。


「逃がすな!」


槍が尽き、剣を抜いた騎士達がリヴァイアサンに向けて走る。

残る鎖を引き寄せて、なんとか港に繋ぎ止めようとする。

赤い瞳がギラギラとそれらを睨み、再び火炎を吐こうと口を開いた。


「フェン、行くよ」


風を纏わせ強化した身体でエルディアが剣を抜き、魔獣の顔目掛けて飛び上がる。

フェンはエルディアの隣にピッタリ付いて跳躍した。


リヴァイアサンが騎士達の頭上へ大きく伸び上がる。

魔獣の口から吹き出された火は、再び結界によって吹き消された。


首に刺さった鉄槍を足場にして頭まで駆け上がり、エルディアが魔獣の目を狙う。

それを援護するようにエルフェルムの風の刃が魔獣に向けて放たれ、視界を奪われた魔獣が怯んだ。


エルディアの剣が魔獣の目に深く突き立つ。


「…………ッ………ッ!」


声にならない振動のような叫びを上げて、リヴァイアサンがのたうった。

フェンはエルディアを背に乗せて、素早く飛んでその巨体から離れる。

魔獣を取り巻く騎士達が、勢いを増して鬨の声をあげた。


「かかれ!」

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