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黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第二章 生き別れの兄と白い狼

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22 再会

 コンコン


 ガラスを叩く音がした。四人はそろって音がした窓の方を見る。



「ほらね」



 リゼットが目をきらめかせて微笑んだ。



「エル、彼よ!」



 リゼットにうながされてエルディアは窓に近づき、そして立ち尽くした。


 目の前に自分がいる。

 否、自分より背が高く、より男らしい体つきをしている。自分とは違って、長い銀の髪を後ろで束ねていた。

 彼は窓枠の上下に手と足を掛け、その身体を支えている。

 


「ルフィ………?」



 彼は窓の外からぱくぱくと口を動かしている。窓を開けろと言っているようだ。鍵を外して開くと、ヒラリと中へ飛び込んで来た。

 彼の後ろから大きな白い狼も、ヒョイと入ってくる。


 どうしてエルフェルムがここにいるのか。

 彼の隣には、真っ白い狼が彼にすり寄るように寄り添っている。



「フェン?」



 狼はエルディアを見ると、嬉しそうに尻尾を振った。

 


「本当に、ルフィ?」

 


 本物のエルフェルムはエルディアに近寄ると、その右手をとって頬に寄せた。



「会いたかった。僕の片割れ」



 彼はエルディアより頭ひとつ背が高かった。

 少し彼の顔を見上げて、エルディアはもう片方の震える手で彼の頬を撫でた。


 温かい。

 本当に生きている。

 戦場で垣間見た、生きた兄が自分の前にいる。


 ポロリと緑の瞳から涙がこぼれた。



「ルフィ………僕も会いたかった」



 離れ離れになってもう九年になる。死んでしまったと絶望した。

 生きているかもしれないとわかってから、何度も会いたいと夢見ていた。

 やっと、今、その願いが叶った。




「おい、感動の再会のところ邪魔するが、どうやって窓まで来たんだ?」



 リアムが驚きのあまり口をぽかんと開けて尋ねる。



「下からだよ。見つからないように壁を登るのは、ちょっと大変だったけどね」



 エルフェルムは何でもないことのように答えた。



「マジかよ………」



 何回階段を折り返して登って来たのか、思い出しながらリアムは指折り数えてみる。



「フェンがいるから簡単なんだ」



 隣の狼の背をするりと撫でる。



「その狼は君の?」

 


 カルシードが尋ねると、エルフェルムは『ん』と軽く頷いた。



「僕の相棒だ。賢くて、強い」



 狼の肉球でどうやって登って来たんだろう?カルシードは首を傾げた。

 その顔を見て、エルフェルムは笑う。



「普通の狼じゃないんだ。魔獣だから」


「ええっ?」



 フェンは彼の手をペロリと舐める。とても魔獣にはみえない。



「フェンは特別なんだ」



 内緒だよ、と唇に人差し指を立てる。その姿はとても綺麗で、カルシードは頬が赤くなるのを感じた。この兄弟は男のくせに、そろいもそろって何でこんなに人を惑わせるんだ。




「ルフィ、一緒に帰ろう。父様も待ってる」



 エルディアがエルフェルムを誘う。だが、彼は静かに首を横に振った。



「僕は崖から落ちた後、イエラザームの第一皇子・ヴェルワーン殿下に拾われた。倒れていたところを、帰国途中だった殿下が助けてくれたんだ」



 ユグラル砦の戦いで会った、あの黒騎士はヴェルワーンと名乗っていた。まさか皇子だったとは。



「でも、ルフィはエディーサの人間だよ?助けてもらったからって、帰れないわけじゃないでしょう?逃げてしまえばいいじゃない!」



 何か弱みでも握られているのか。そうエルディアが詰め寄ると、エルフェルムは理由があるんだよ、と微笑んだ。



「あのね、この国の第一皇妃は宰相の娘である侯爵令嬢だったんだ。殿下はその子供、第一皇子だ。彼が生まれた時、本当は母親である皇妃が皇后になるはずだった。だけど、その時すでに身籠っていたトルポント王国出身の第二皇妃によって、彼女は暗殺された」



 エルフェルムは淡々と説明する。



「おかしいでしょ?皇帝はその事を知っている。なのに第二皇妃を皇后にして、その子供を皇太子に据えたんだ。エディーサ王国を手に入れるために」


「エディーサ王国を手に入れる?」


「そうだよ。イエラザーム皇国は元々五つの国を併合した巨大な帝国だ。皇帝はそこに六つ目の国として、エディーサ王国を加えようとしているんだ。トルポント王国を利用してね」


「今も?」


「『今から』ね。だからエディーサに対抗するために魔術師を手に入れようとしている」



 アーヴァインを狙ったのは初めから予定されていたことだったのだ。

 エルディアはエルフェルムの話に背中がぞわりとするのを感じた。



「僕は殿下と約束したんだ。殿下は古くから友好国であるエディーサ王国には手を出さない。その代わり、僕は彼が皇帝になるまでそばで手伝うと」



 エルフェルムは他の三人を見渡す。彼等も言葉を失い、じっとエルフェルムの話す内容を聞いていた。



「イエラザームはこのままではシャーザラーン皇子が次の皇帝になる。彼が皇帝になれば、エディーサ王国はこれまで以上に戦いを強いられることになるだろう」



 僕はそれを阻止したいんだ。エルフェルムはそう強い言葉で伝えた。



「僕は僕のやり方でエディーサを守る。まだ僕は戻れないんだ。もう少し待っていて」

 


 ルディ、と最後は唇の動きだけで名を呼ぶ。

 彼もまた、九年間、戦って来たのだろう。

 一人で………と思ったとき、エルディアの足もとに白い狼がやってきて、クンクンと鼻を鳴らした。



「フェンも一緒にいたんだね」



 頭を撫でてやると、尻尾を振ってペロペロと手を舐める。



「フェンは喋れないの?」



 フェンリルは話していたが、フェンは話せないのだろうか?

 エルフェルムを見ると、笑って首をすくめる。



「たまに片言で喋る時もあるけど、まだ無理みたい。でも、こっちの話は理解しているよ」


「刻印のことは知ってる?」


「ああ。僕も右腕にある。崖から落ちる時に、フェンがつけたと教えてくれたんだ」


「消えることはあるのかな?」



 フェンが死ぬ以外に、と聞いてみると、エルフェルムは首を横に振った。



「血の契約だから無理みたいだよ。本当は一人としか契約できないんだけど、フェンは特別らしくて僕等二人を守護してくれる」



 この子、変わっているらしいね、と言いながら、エルフェルムもフェンの頭を撫でた。フェンは二人に撫でられてパタパタと尻尾を振って喜んでいる。

 フェンリルの言っていた、『異端の獣』とはそういうことなのだろうか?


 エルディアは膝をついてフェンの首を両腕で抱く。

 白い毛並みは柔らかくて気持ちいい。かすかに日向ひなたの草むらの匂いがした。



「フェン、ルフィを守ってくれてありがとう。まだしばらく、兄様を頼むね」



 フェンはなんとなく胸を張って、任せてください、といったふうにキリリと背中を伸ばした。それを見たエルフェルムがクスクス笑う。



「あんまり張り切るとヘマするから、程々でお願い」



 そういった途端、ジロリと不満気にエルフェルムの方を見る。本当に理解しているようだ。



「さあ、ここから脱出しよう」



 エルフェルムは四人に向けて明るく言った。

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