表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第二章 生き別れの兄と白い狼
30/126

6 新人騎士

 しばらく王都へ行っていたヴィンセントが、新しく黒竜騎士団に配属された騎士達を連れて帰って来た。

 今年は人数が多い。一昨年の戦とフェンリル討伐で犠牲が出た、その調整のせいだという。


 エルディアが帰城する団長を出迎えるために城門で待っていると、城に入って来る一行の中に懐かしい顔を見つけた。



「リアム!」



 それは騎士養成学校を卒業し、騎士になったリアムだった。

 エルディア達より一つ上の十七歳。平民出身ながら優秀な生徒だった彼は、ストレートで正騎士試験に合格したのだ。



「久しぶり!元気だった?」



 エルディアは手を振って駆け寄る。



「エル!俺も黒竜に来たぞ!」



 リアムは荷物を地面に置き、エルディアに向けて両手を広げる。エルディアは飛びついてリアムの肩を抱きしめた。

 養成学校の友人は他にも数名おり、こちらを見て手を振ってくる。エルディアも手を振り返した。


 王都に一度帰った時は女装していた為、養成学校の方へは近付いていなかった。

 しかも王女のせいでそれどころでなかった。


 もう二年近く会っていない。みんなエルディアの記憶にある姿より、少しずつ大人びている。送別会で一緒に騒いだのが懐かしい。

 リアムもあの頃よりもずいぶん背が伸び、逞しくなっていた。騎士らしく軍服も良く似合う青年になってきている。



「リアム、なんだか格好よくなった?腕太くなったね」



 エルディアは羨ましげにリアムの腕をわしわしと握る。

 リアムはむちゃくちゃ鍛えたからなと自慢げに言いつつ、エルディアをまじまじと見た。



「エル、お前、相変わらず可愛いな。また破壊力が増したんじゃないか?」



 抱きつかれると鼻血出そう、と呟いている。



「言わないでよ。なかなか筋肉つかないの、気にしてるんだから」


「食べないからじゃねえの?」



 肉食えよ、とバシバシ背中を叩く。

 エルディアは痛い痛いと笑って逃げた。



「しかし、すっげーな!フェンリルを倒したんだって?俺、それで黒竜騎士団を志願したんだぜ」



 王都にも黒竜騎士団が魔獣フェンリルを倒したことは伝わっているらしい。

 金髪の女神のことはレンブル領外には伏せられているので、リアムも知らないようだった。



「ウィードも来たがっていたんだが、あいつはあと一年はあるからな。羨ましがってたぜ。来年お前と一緒に叙任式に出られるよう頑張るって言っていたぞ」


「本当?僕も頑張らないと」



 友の近況を聞けて嬉しい。養成学校で初めて試合をした時を思い出し、エルディアは彼ももっと強くなっているんだろうなと思った。

 そんなエルディアを見て、リアムはいいことを思いついたようだ。



「エル、今晩飲みに行かないか?レンブルの美味い店を教えてくれよ」


「え?今晩?リアムと?」


「久しぶりにゆっくり話したいし、今日くらいは団長も休ませてくれるだろう」



 リゼットのおかげで街に出歩くようになり、何件か料理の美味しい店は知っている。夜に行ったことはないが、きっとお酒も美味しいだろう。

 行こうかな、と呟いたその後ろから、大きな手がエルディアの首に巻きつきぐっとと引き寄せられた。


 ロイゼルドが耳元に唇を寄せ、地を這うような低い声で囁く。



「だめだ。お前は飲むとぐでぐでになる」


「副団長!」


「聞いてたの?」



 いつの間にか背後に来て話を聞かれていたらしい。

 彼はエルディアを離すと腕組みして小言を言う。



「記憶がなくなるような奴は酒を飲むな。騎士団の恥になる」


「今度は飲みすぎないようにするってば」


「だめだ。信用ならん。誰が連れて帰るんだ」


「いざとなったら俺が担いで帰りますよ」



 こいつ軽そうだし、とリアムがフォローするが、ロイゼルドは余計に渋い顔になる。



「一緒にクダ巻いていた奴が何を言う」


「ロイ、僕もう十六だから」


「副団長、保護者感がすげえ」



 ブーブー言っても首を縦に振らないロイゼルドに、リアムが溜息をついて呟いた。



「やっぱり過保護だな」


「やっぱりそうだよねえ」



 顔を見合わす二人を憮然とした表情で見下ろしたロイゼルドに、背後から声をかける者がいた。



「ロイゼルド副団長」



 振り返ると年若い騎士が立っている。制服が真新しいところを見ると、今年叙任された騎士だろう。

 ミルクティー色の髪がふわふわした、綺麗な顔立ちの少年だ。左目の下の泣きぼくろが妙に色っぽい。



「白狼騎士団のレアルーダ・ヴィーゼルの下で従騎士をしていました。カルシード・ヴィーゼルです」


「レインの弟か。話は聞いているよ。黒竜騎士団にようこそ」


「よろしくお願いします」



 ペコリと頭を下げる。


 ヴィーゼル伯爵家は武人の家系で、三兄弟は全て騎士になっている。

 長兄が白狼のレアルーダ、次兄が金獅子のレインスレンド、そして弟が黒竜に来たこのカルシード。


 ロイゼルドと同期で友人のレインスレンドは貴公子のような外見で、その実かなりの遊び人だ。王都でかなり浮名を流している。

 だが、目の前の弟は見た目は似ているものの、あまりスレた様子はない。次兄に似ず、真面目に育ったようだ。


 そう観察していると、ひょっこりとロイゼルドの肩越しにエルディアがのぞいてきた。



「ああ、エル、お前の従兄弟なんだったな」


「誰?」

「従兄弟?」



 知っているかと思えば、意外にも二人は互いの顔を知らなかったらしい。



「お前がエルフェルム?」


「そうだけど。ヴィーゼルっていうと、アルミナ叔母さまのところの?」


「そうだ。俺はカルシード。シードでいい」


「僕はエルって呼んでください」


「なぜ敬語?」


「いや、なんとなく」



 エルディアは馴染みがないので戸惑っている。

 カルシードはそんなエルディアの顔をじっと見て、やっぱりそうだ、と呟いた。



「妹のエルディアは元気にしている?」



 思ってもみない質問にエルディアがギョッとする。ロイゼルドも思わず目を見開いた。



「えっ?エル、お前妹いるのか?」



 リアムだけが呑気な声で聞いてきた。


 エルディアの額に冷や汗が流れる。親戚にも、自分の生死や刻印のことは伏せられているはずだ。

 ここレンブルでは噂になってしまったが、ヴィンセントは領外には広がらないように緘口令をひいてくれている。それをどうしてこの従兄弟は知っているのか。



「アルヴィラ様の葬儀の時に見かけて以来、見てないけどどうしてる?エルガルフ様がエルフェルムに聞けばわかるって教えてくれたんだ」



 困った。非常に困る。

 どこまで教えて良いのか。


 父め、面倒だからこっちに全部押し付けたな、と王都の父の顔を思い浮かべて舌打ちしたくなるのをぐっとこらえた。

 エルディアが困惑しているうちに、リアムの方がなんだかカルシードに食いついてきた。



「エルの妹っていくつ?」


「双子だからエルフェルムと同い年だ」


「双子!似てるのか?」


「小さい頃あっただけだから今はわからないけど、髪の色以外はそっくりだと思う」


「えっ、エルにそっくりって、俺もめっちゃ会いたいんだけど。紹介してくれよ」



 リアムが目を輝かせてエルディアに迫る。


(うわっ、めんどくさいことになってきた)



「お前達、エルディア様は陛下の命令で王宮の魔術師団のもとにいる。非常に魔力が高い方の為、周辺国に狙われないようアーヴァイン卿が付いている。簡単には会えないぞ」



 戸惑うエルディアにロイゼルドが助け舟を出す。

 そういえばそういう設定になっていた。



「そうなんですか」


「えー、残念。絶対可愛いのに」



 リアムががっくり肩を落とした。

 カルシードもなんとなく気落ちしている。


 二人とも女性のエルディアのことは良く知らないはずなのに。



「なんで会いたいの?」


「え?美少女って最強じゃん」



 リアムの軽い返事を聞いて、エルディアは馬鹿らしくなった。

 そういえば王都で淑女教育を受けた時にリュシエラ王女が言っていたのを思い出す。


『ルディ、男性はね、見た目にすごく騙されやすいのよ。だから私達は綺麗なドレスを着て化粧をするの。交渉事にも役に立つわ。これは女性の武器なのよ』


 そう言って化粧品をたくさんくれたのだが。


(顔が良ければなんでもいいんだろうか………)


 エルディアは少しだけ男性不信になりそうだと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ