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黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第一章 魔獣の刻印
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16 戸惑い

 はじめに混沌があった。


 創世神アルカ・エルラはそれを光と闇に分け『天空アストル』とし、更に『大地エアーデ』を創造した。

 彼は次に『運命ヤネール』と『テレーヌ』を創った。

 彼らは大地に[流れ]を与えた。

 彼は次に『生命リンド』と『デレイラ』を創った。

 彼女らは大地に[住まう者]を与えた。


 彼は更に様々な神を創った。

 彼らはさまざまなものを大地に与えた。


 『エオーリア』は[覚醒]を与えた。

 『ミラーネ』は[感動]を与えた。

 『ロズィール』は[静穏]を与えた。

 『ルゲルタ』は[畏怖]を与えた。

 『レィナーン』は[潤澤]を与えた。


 彼は天空に先の四神を含めたこれらの神々を住まわせた。


 彼は次に『サラマンディ』『ウンディーネ』『シルフィール』『ノーム』を創った。

 彼らは大地に降り立ち、[住まう者]に加護を約束した。


 最後に彼は残った『リエル』を神獣と精霊に変えた。


 精霊となった『光』はそれぞれ『炎』『水』『風』『地』を王として、彼らの降り立つ大地へ散らばった。


 神獣となった『光』は神々の従獣となり、天空と大地を行き来した。


 しかし、残る無数の『光』を統べる主はいなかった。

 神々も揃って「私には荷が勝ちすぎます」と辞退した。


 彼は初めて困惑した。

 そして、彼は自らから『光』の主を生み出した。

 『太陽エレアス』と『セレネス』の兄弟だった。

 全ての者が彼らを愛した。

 彼らも全ての者を愛した。

 

 ある時、『光』の一つがその輝きを変えた。

 彼は主を独占したがった。

 嫉妬は徐々に激しくなり、『光』は最早『光』でなくなった。


 彼は昏き『ルシフ』に成り果てた。


 『魔』は[憎悪]を与えた。

 [憎悪]は[戦争]を呼んだ。


 大地に争いが起こり、神々は悲しんだ。


『太陽』は剣を取って立ち上がった。

『月』は言うまでもなく、『夜』『暁』『夕』『雷』も従った。


 長く激しい戦いの後、神々は勝利をおさめ、『魔』はその身を失った。

 しかし、神々の痛手も深く、また、『魔』の呪いは[住まう者]の魂に闇の刻印を残した。

 

 



 ………遥か神世の物語。

 そんな昔から戦争は始まっている。

 溜息が一つ、綴られたページの上に落ちる。

 レンブル城の書庫で、エルディアは手の中の神話の本を閉じた。

 


「エル、書庫にどんな用事があったんだ?」

 


 本が無造作に積み上げられている机の向こうからロイゼルドが顔を出す。

 


「神話?」


「ん………これはちょっと見ていただけ。本当は史書の古いのがないかと思ったんだけど、無いみたい。やっぱり王宮の書庫じゃないと揃っていないみたいだ」

 


 フェンリルの事が何か書かれていないかと思ったのだが。

 


「あっちは許可を貰わないと入れないぞ」


「うん」

 


 王宮の書庫には秘文書が多々ある。王の許可なくしては入れない。

 


「あれ?司書官のおじさんは?」

 


 本を棚に戻して別の棚に移動すると、彼が座っていたはずの机がカラになっていた。

 やや薄暗い室内を見渡すが、ロイゼルド以外の人の気配がしない。

 落ち着いた茶色の本棚が並ぶ間に隠れて見えないというようでもなかった。

 


「なんだか呼ばれて行ってしまったよ。鍵かけといてくれって」

 


 チャリン、と手の中の鍵の束を鳴らす。

 


「ふーん」

 


 エルディアは再び本棚に手を伸ばし、一冊引き出した。

 パラパラとめくる後ろからロイゼルドが覗き込む。

 髪にロイゼルドの頬が触れるのを感じて、エルディアは少しドキリとした。

 

 リゼットがロイゼルドへの恋心を常々話すせいか、自分まで少し意識してしまうようだ。

 ロイゼルドは完全に弟のように思っているのだろう。この頃かなり気安く触ってくる。

 その度に少しムズムズしてしまうのを悟られないようにするのに気を使う。

 


「エル、本当にフェンリルと戦うのか?」

 


 耳元でロイゼルドが囁いた。

 ゾクッとしたが、なんでもないようなふりをして振り返る。

 


「どうして?」

 


 顔を見ると、ロイゼルドはいつになく真剣な表情をしている。

 


「お前がやたらめったら強いのは、この間の戦の時でもよくわかっているんだが………」

 


 少し口籠もり、また迷いながらも話し始める。

 


「本当に戦わせて良いものかと。お前の望みは騎士になる事だが、リゼット嬢と話しているお前を見ていると、この頃迷うんだ」

 


 エルディアを見る紫紺の瞳が揺れている。

 


「戦場で戦うお前を見るのが、正直怖かった」


「怖い?僕が?」


「いや、お前が血に染まるのが怖かったんだ」

 


 すっとロイゼルドはエルディアを抱きしめた。

 華奢な身体はロイゼルドの腕の中にすっぽりと収まってしまう。

 


「ロイ………?」

 


 エルディアの心臓は、バクバクと音が聞こえそうなほどに早鐘をうっている。

 室内なのにふわっと風が吹いた。魔力が漏れそうになっている。

 


「すまない。俺の我儘だな」

 


 そっとエルディアを離してロイゼルドは背を向けた。

 そのまま鍵を置いて書庫を出て行く。


 エルディアはロイゼルドが出て行った後、その場に座り込んでしまった。

 身体の周りを風がクルクルと回りながら吹いている。

 一体どうしたというのだろう。

 動悸はいつまでたっても収まる様子がなかった。

 

 

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