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黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第五章 太陽の女神
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7 援軍

「グルルル……」



 双頭の犬が唸る。忌まわしくも黒く醜い二つの頭、それぞれの口から息遣いと共に黒い霧が噴き出ている。その隣で曲がった角を持つ雄牛がブルブルと鼻を鳴らす。鋭い角の先はまるで刃物の様にギラリと光り、盾の様に肉厚の肩が呼吸に合わせて上下に揺れている。黒い蹄が大地をガリガリと削り、今にも飛び掛からんと兵士達を睨んでいた。

 起き上がった虎と蜥蜴も、狩るべき相手に狩られようとした屈辱に、身を震わせて怒りを露わにしている。



「魔物が全部そろった……」



 エルディアは首の後ろがざわざわとするのを感じた。

 レンブルとイエラザームはどうなったのか。この犬と雄牛は、彼方の戦いに参戦していたのではなかったのか。ここにいた二匹の危機を察知して駆けつけたのか。

 疑問が頭を駆け巡る。



「エルディア様、エルフェルム様」



 ダリスが二人を呼ぶ。

 再び氷結の槍を作り出し、エルディア達は固まっている魔物を目掛けて攻撃する。

 だが、素早く四匹は飛んで互いに離れ、騎士達の間に駆け込み喰らい付いた。



「ぎゃあ!」



 多数の魔物を相手にしては、ヴェーラの守りも間に合わない。数人の兵士がその爪と牙の犠牲となり倒れ込む。

 獣達は魔法攻撃を避けるように人間を盾にしながら、次々と襲い引き裂いてゆく。

 先程までとは動きが違う。明らかに獣達に指示を出し攻撃させている者がいる。



「怯むな!囲んで動きを封じろ!」



 そう叫びながらロイゼルドはギリッと奥歯を噛んだ。



「四体……さすがにキツイ」



 どこまで耐えられるか。

 業火の落ちる前、上空に見えた人影は今は見えない。だが、炎はあの人物が作り出したものだ。おそらくはこの魔物達の主。姿を隠してはいるが、獣達は彼によって操られている。


 双頭の犬が黒い霧を吐く。そして、魔術師達の炎がそれを焼き尽くさんと燃え上がる。その炎をくぐり犬達の牙が彼等を襲った。騎士達がまだ燃え上がる炎に飛び込み、獣の牙を受け止める。が、弾かれ大きく跳ね飛ばされた。そこへ雄牛の鋭い角が襲いかかる。



「危ない!」



 エルフェルムの風の刃が雄牛の側面からはなたれた。顔を切り裂かれた雄牛が猛り狂って闇雲に暴れる。その蹄に幾人かが巻き込まれて、蹴り飛ばされ負傷する。

 雄牛の頭を目掛けて氷の槍が飛ぶが、間に割って入った虎がその牙で氷を噛み砕いた。氷の槍を放ったエルディア目掛けて、双頭の犬が黒い霧を再び吐き出す。急いで展開した結界に跳ね返された霧は、大地に触れてジワリと溶けて沈んだ。


 騎士達の息があがる。息をつく暇のない戦いが続いている。


 翼を広げ空へ舞い上がった蜥蜴が、上空から毒液を吐く。ヴェーラがシールドを張って、地上の兵士達を毒から守った。が、その横から同じく宙に飛んだ虎が、その横で犬のふたつの首と格闘している騎士達に向けて数本の毒槍を放つ。



「リアム!」



 ロイゼルドの叫びに振り返り飛び退いたリアムの背中を、避け切れなかった毒の槍が貫いた。



「グウッ!」



 剣を落としてうずくまるリアムにエルディアが駆け寄る。

 苦痛に耐えるリアムの顔色は真っ白だ。



「リアム、しっかりして!」



 リアムの肩を抱くエルディアに向けて、虎が再びその口を開いた。



「ルディ、逃げろ!」



 ロイゼルドが双頭の犬の爪を剣で弾き、エルディアに駆け寄る。

 魔術師が虎に向けて炎の呪文を唱える。

 が、間に合わない。



「くそっ!」


「!」




 その時、戦場に狼の遠吠えが響いた。


 オオーン


 灰色の雲の広がる空が白く輝き、天空から輝く槍が落ちてくる。



「フェン!」



 幾本もの光の槍が宙に浮かぶ虎をズドンと貫き、大地に落としそのまま縫いとめる。



「神獣!」




 地上を走る白銀の狼。

 空を駆けるのは漆黒の鱗が輝く竜。

 そして羽ばたく巨大な真紅の鷲。

 続いて金色の獅子がたてがみをなびかせて風の様に走ってくる。



「間に合った.........」



 その後ろに騎馬の軍隊が並んでこちらへ向かって来ていた。エディーサ王国の軍旗がはためいている。



「援軍だ!」



 軍旗に金獅子騎士団の紋章が見えた。



「王都の軍だ」

「魔術師団もいる!」



 満身創痍の兵士達に向けて、ロイゼルドが高らかに言う。



「勝機は我等にあり!」



 オオーッと一斉に兵士達が声をあげて勢いを取り戻した。



 黒竜ヘイロン。

 赤鷲ニンギルス。

 金獅子レオ。

 そして、白狼フェンリル。



 四匹の神獣達が唸りを上げて魔物に喰らい付く。


 渦巻く水が雄牛を縛り、その身体を飲み込む。業火が双頭の犬の吐く霧を燃やし、赤鷲の爪が二匹の犬の目を抉る。雲の隙間から轟音と共に雷が落ち、黒い蜥蜴の身体を貫く。そして、光の槍が更に虎の上に幾つも落ちて刺さってゆく。



「凄い.........」



 桁違いの魔力が弾ける獣達の戦いの光景を目の前にして、エルディアが呆然と呟く。騎士達も繰り広げられる凄まじい戦いに動きを止めて見入っていた。


 創世の神に創られた神獣達と、終焉の神に創られた魔物達の戦い。

 そこに人間の手を出す余地は無かった。



 兵士達を神殿のそばまで退かせて、ロイゼルドがエルディアに言う。



「ルディ、毒の負傷者を神殿の中へ連れて行ってくれ。きっとアーヴァイン殿がなんとかしてくれる」



「はい!」



 毒に腐食される身体を抑えて呻くリアムを支え、エルディアが立ち上がる。

 到着した魔術師団が、素早く神殿の一画に救護所を作りはじめていた。



「リアム、頑張って。きっと助かるから」



 彼を励ましつつ、そう自分にも言い聞かせてエルディアは急いだ。

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