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黒銀の狼と男装の騎士【改稿版】   作者: 藤夜
第五章 太陽の女神
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2 戦いの準備

 グレイ城の地下の武器庫に降りて、エルディアは揃えられた剣や槍の手入れ具合を確認していた。ずらりと並べられた武器は戦いに備えて最近王都から運び込まれたものだ。



「なあ、この箱どうするんだ?」



 リアムとカルシードが二人がかりで箱に入った石を運んで来ている。

 王都から来るときに、魔術研究所から渡された魔石だ。



「ありがとう、こっちにお願い」



 エルディアが誘導して部屋に搬入する。

 設置されている棚に箱を置いて、二人は一息ついた。



「重い!」


「あはは、それは全員に配る治癒の魔石だから数が多いんだよ」


「こっちのは?」


「炎の魔石。魔物の毒に対するシールド用だよ。こっちは魔力持ちしか扱えない」


「これ全部アーヴァイン様が作ったのか?」



 カルシードが自分が持ってきた箱の中から石を一つ取り出す。

 それはちょうど鶏の玉子くらいの大きさの白い石で、ほんのりと赤みを帯びていた。



「そうだと思うよ。攻撃魔法はあの人くらいしか魔石に込められないし。アーヴァイン様は炎の魔法が得意だから、きっと張り切って作ったんだと思う。使い方は、と」



 添付されている手紙を開くと、研究者らしいとても緻密な筆跡で説明が書かれていた。



「炎を呼ぶ呪文は前のと同じだね」



 イエラザーム皇国に攫われたリゼットを助けに行く時に作ってもらった炎の魔石と、使い方は同じようだった。慣れない人間が扱っても危険がないように、術者自身を焼かないように保護もかけられている。



「ちょっと練習しないと危ないかな」



 (スピア)にしようが(ストーム)にしようが、炎の形は呪者の操作次第と説明書にある。ブーストもかけられるらしい。しかし術者は大丈夫でも、誤って味方を燃やしては困る。



「治癒の魔石と違って繰り返し使うから、出来れば携帯用にブレスレットにするなりして欲しかったんだけど、時間がないね」


「魔石が嵌め込めるタイプの剣もあるだろう。使う奴に配布したらどうだ?」


「そうだね」



 そこへエルフェルムがひょっこり顔を出した。



「ルディ、副団長が炎の魔石を持って来るようにって」


「これ全部?」


「いや、試すだけだから二、三個で」


「わかった。すぐ行くよ」


「中央の広場ね」


「了解」






 エルディアが魔石を持って行くと、ダリスが魔術師達を集めていた。



「エルディア様、魔石の効果を試しましょう」


「はい。持ってきました」



 エルディアがダリスに魔石を手渡す。

 手のひらにのるほどの三つの魔石を眺めて、ダリスが首を傾げた。



「どうしました?」


「いえ、少し大きいなと思いまして」



 魔道具に加工されてよく使われるは、胡桃くらいの大きさまでの魔石だ。石の大きさは威力にも比例する事が分かっている。あまり大きいと魔術に長けた者でないと制御が難しい。

 一体アーヴァインはこの魔石にどんな魔術を込めたのだろうか。



「ギラン、貴方がこの中では一番炎の魔術に慣れている。試しに炎をよんでみてくれないですか」


「はい」



 ダリスがギランの手のひらに魔石をのせる。



「呪文は『解錠』(アンロック)を初めにつけて。後は普通に」



 エルディアの言葉にギランが頷く。


 ギランが魔石を手に乗せ一瞬力を込めてにぎり、集中するようにして呪文を呟く。するとあっという間にその手は肘まで青白い炎に包まれた。

 見ている者達がヒュッと息を呑む。



「平気かい?」



 ダリスの落ち着いた問い掛けに、ギランは右手を押さえて緊張しつつも頷いた。



「大丈夫です。術者の身体は焼かないように作られているようです」


「さすが魔術師団の団長だね」


「凄いです。私の魔術の炎とは比較にならない強さです」


「操作出来るかい?」


「やってみます」



 そう言ってギランは、炎に包まれた手を誰もいない広場の中央に向けて伸ばす。



『炎の鞭』(ファイアウィップ)



 青い炎が竜がのたうつように暴れながらその手から放たれ、地面を広範囲に包み燃え上がって消えた。



「わあ、凄い威力だね。これはあの方も張り切って作ったね。ギラン、大丈夫?」


「かなり引っ張られる感じがありますが、慣れればなんとか」



 幾人か使ってみて、使いこなせるのはダリスを含め魔術師団にいた十名と、ギラン他二名の騎士、それと双子だけだと結論が出た。

 強力過ぎて自身の魔力が弱いと制御が出来ない。思ったより危険な代物だった。



「こういうところがアーヴァイン様だよね」



 エルディアの溜息混じりの呟きに、ダリスが苦笑する。



「魔物を攻撃するには最低これくらいの魔術が必要、との判断でしょう。もともと攻撃魔法が使えない者に、強力な炎の魔術を扱えるようにしてくださっただけで十分です」


「そういえば副団長の魔力の属性は何なんですか?」



 アーヴァインは火と水、ギランは火、エルディア達は風だ。アーヴァインは別として、大体攻撃魔法の使い手は風火水地のいずれか一つを持っている。


 エルディアはダリスが治癒魔法の使い手だとは知っている。攻撃魔法も使えると聞いてはいたが実際に見た事がなかった。

 ダリスはクスリと笑って答えた。



「今更ですね、エルディア様。ご存知なかったとはとても心外ですよ」



 そう言って指先を一本立てて、小さく呪文を呟いた。

 パキパキパキ

 ガラスの割れるような澄んだ音がして、彼の指先に氷の華が花開いていく。

 美しい八重の花をエルディアの手のひらに落として、ダリスは微笑んだ。



「私の得手は氷の魔術です」



 ダリスは水辺の魔獣との戦いで、アーヴァインの水の魔法に補助としてよく駆り出されていた。

 氷の魔法は水とよく合う。



「炎とは相性悪いので困りましたねえ」



 私の氷が溶けちゃいます、と肩をすくめるダリスに、エルディアは本当ですねとクスクス笑った。


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