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滅びに向って

 厩舎で馬を借りようとした。だが、馬は全て貸し出された後だった。一頭も残っていなかった。

 仕方なく、歩いてマモンの街を目指す。


 サイバの村からマモンの街までは、街道は整備されていた。街道を歩いて行く。

 街道は高さ一・二mの草原の中を、まっすぐ南に延びていた。 


 道の先に、休んでいる二人組の男たちが見えた。男たちは冒険者なのか、剣と革鎧で武装している。だが、冒険者にしては人相が悪かった。


 アベルは別に気にしなかった。だが、アベルが男たちの横を通り過ぎた時に事件は起きた。男たちが問答無用で剣を抜き、斬り掛かってきた。


 アベルは、ひょいと攻撃を躱す。

 一人目を袈裟斬りに斬った。返す刃で、もう一人を下から真上に斬り上げた。


 (くさむら)の中から短弓で武装した四人が新たに姿を現す。

 新手の出現を予期していたサマンサが、四本の光の矢を放つ。


 光の矢は四人を捉えた。三人は倒れた。

 だが、独りはふらふらになりながらも逃げようとした。


 アベルは剣のコピーを作り、投げつけた。距離にして五十mあった。

 だが、アベルが投げた剣は易々と最後の一人に突き刺さった。


 サマンサがつんと澄ました顔で告げる。

「終わったわね。こんなところにまで盗賊が出るなんて世も末ね」


 アベルは剣を振って血脂を落とす。斬り捨てた男の頭をアベルは鷲掴みにする。

 男の持っていた記憶をアベルは探る。

「盗賊はこいつらだけじゃない。他にも三十人いる」


 サマンサはうんざりした顔をする。

「世界を滅ぼす兵器の鍵が善行に目覚めでもしたの? 盗賊を倒したら、感謝されるかもしれないわ。だけど、報酬は出ないわよ」


「盗賊の頭目に会ってみたい。もしかしたら、アポルオンを使いたがるかもしれない」

 サマンサは良い顔をしなかった。

「盗賊は盗賊よ。弱い物から奪って生きる小悪党よ。世界を滅ぼそうなんて大層な野望はいだかないわ」


「僕には経験が足りない。人と接する経験だ。これも勉強と思い、手伝ってほしい」

 サマンサは渋々の態度で折れた。

「しかたないわね。でも、盗賊のお宝は私が貰うわよ」


 盗賊から読み込んだ記憶を頼りに街道を二十分、南に進む。

 街道に繋がる脇道を発見した。街道から東に逸れて三十分ばかり進む。


 開けた場所にキャンプを張っている集団がいた。見える人間は、全員が武装していた。

 あれが、盗賊団か。大して強そうにも見えないな。


 サマンサが魔法を唱えて姿を消した。

 アベルは構わずに、ずんずんと盗賊団のいるほうに歩いて行く。


 盗賊団はアベルに気が付いていた。

 だが、カモが向こうからやってきたと思ったのか、にやにやと笑っていた。


 盗賊の一人がアベルに近付いてきて声を懸ける。

「どうした、坊主? ママとでも(はぐ)れたか」


 アベルは問答無用で盗賊を斬り捨てた。剣が軽く震える。

 剣から血脂が落ちた。アベルは駆け出す。盗賊を次々と斬り伏せっていった。


 三人を斬った段階で、盗賊も剣を抜き、襲ってきた。

 だが、勝負にならない。盗賊の七人を斬った。


 アベルを手強いと見たのか、盗賊がアベルを囲む。

 されど、盗賊はアベルを強敵と認識していたので、斬り懸かってこない。


 そのうち、髭面で熊のような大男が、キャンプから出て来る。盗賊の頭だった。

 抜いた記憶では名前はエイドリアンだった。


 エイドリアンは死んだ部下たちを一瞥して舌打ちする。

「随分と派手にやってくれたな。覚悟はできているんだろうな」

 エイドリアンは曲刀を抜いた。

 アベルはエイドリアンに尋ねる。


「斬り合う前に一つ尋ねるよ。お前は世界を滅ぼしたいと思ったことがあるかい?」

 エイドリアンは馬鹿にした顔で答える。

「ないね。この世は、金と力のない奴には地獄だ。だが、金と力のある奴にとっては天国だ。俺は金も力もある人間だ。こんな素晴らしい世の中はない。世の中、万歳だ」


 サマンサは世も末と嘆いていたが。見方は人それぞれか。

 エイドリアンにとって世界が守るべきものなら、こいつは僕の敵だ。


 アベルは剣を中段に構える。エイドリアンが曲刀をゆっくりと上段に構えた。

 エイドリアンは厳しい表情でアベルとの距離を詰める。


 間合いに入ったところで、エイドリアンが一気に曲刀を振り下ろす。

 アベルは身を軽く捻って一撃を躱した。アベルはエイドリアンの右手を切断した。


 武器と一緒にエイドリアンの手が、ぽとりと地面に落ちる。

 エイドリアンが堪らず、叫んで下がろうとした。


 アベルは踏み込んでエイドリアンの腹に蹴りをお見舞いする。

 腹を蹴られたエイドリアンの首が下がった。ちょうどよい位置に来た首を狙った。


 アベルの剣がエイドリアンの首を刎ねた。

 エイドリアンの血が一気に噴き出した。エイドリアンの死体が、ごろりと転がる。


 血溜まりに死体が一つ残った。

 あっけない、とアベルは呆れた。


 これで力があるとは、外の世界も大したことないな。

 エイドリアンを倒すと、盗賊たちは逃げ出そうとした。


 サマンサが炎の壁の魔法を完成させる。盗賊たちの周囲を炎の壁が取り囲んだ。

 盗賊たちの逃げ場はなくなった。アベルは残った盗賊を一人残らず斬り捨てた。


 炎の壁が消えると、サマンサは各テントを回って、金品を集めてくる。

 盗賊たちは略奪品を運ぶために、馬を用意していた。馬もいただいた。


 サマンサが作業をする間に顔や手に付いた血を洗う。

 盗賊の中にアベルと同じ体格の者がいた。


 テントの中を探すと予想通りに、換えの服があったので着替えた。

 有益な情報がないか、盗賊のたちの脳内に残った情報を見て回る。


 エイドリアンは奪った品をオリバー骨董品店で売っていた。

 サマンサは、すこぶる上機嫌で盗賊たちの略奪品を荷車に積む。


 荷車が満杯になると荷車を馬に牽かせた。

「ラッキーね。馬も金も手に入ったわ。これだけあれば、いい宿に泊まって、美味しい物が食べられる」


 アベルは少しばかり皮肉を言う。

「いい時代に生まれて良かったね」


 もっとも、そんな良い時代も僕が終わらせるんだけどね。

 地面が微かに揺れる。地震だった。揺れはすぐに収まる。


 超兵器アポルオンが安置されていた週末の武器庫は免震構造だった。

 アベルはあまり地震を経験していなかった。


「これが、地震か? 大地って揺れるんだね」

「マモンは、もっと頻繁に揺れるわよ。近くにイオラン火山があるからね」


「噴火で街が滅びる可能性は、ないの?」

「あるわよ。もっとも、イオラン火山の噴火は三百年前から噂されているけどね」


「危ないのか、安全なのか、わからない火山だね」

「冒険者にとっては、どっちでもいいみたいよ。ダンジョンで失敗すれば、明日には死ぬ身よ。火山がいつ噴火するかなんて、気にしていられないわ」


 アベルはマモンの街に向った。世界が滅びるかどうかは誰も知らない【完】

 ここまで「滅びを呼ぶ鍵」を応援いただきありがとうございます。本作品は事情があって一話を掲載した作品です。色々と検討したのですが、連載作品を整理するに当たってここで【完結】にしたほうが良いとの結論に達しました。今後の展開に関しては構想があるのですが、いつ書けるかわからないのでいったん完結とします。短い間ですが、お付き合いいただき感謝しております。

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