自転車に乗れない
「私を遠くまで連れていって」
涙混じりにそう言う君に、僕は背を向けた。
「自転車に乗れないから、連れていけないよ」
雨の降る、冬の日のことだった。
窓に水滴がついていたから、あの時のことを思い出した。
今でも僕は自転車に乗れない。
後ろに君を乗せることはできない。
そもそも、君はもう僕の手の届かない所にいる。
君との約束は、今でも覚えている。
アイスクリーム、買ってあげられなくてごめんね。
クレープだって、奢られっぱなしで返せてない。
一緒にあのカフェテリアにも行きたかったね。
僕はまだ、自転車に乗れない。