プロローグ
ゲームは進化し続ける・・・。
俺は8bit世代からのゲーマーであり、テレビゲームの進化とともに人生を歩んできた。
レースゲームでほんの数ドットでしか描かれていないアメコミヒーローが空を飛ぶ粋な隠し演出に興奮したり、眉唾物の裏技を試すために正規ルートから大きく外れた遠回りをして無駄足を踏んだり、人を殴り殺せそうなほどに分厚い裏技本に熱中したり、目当てのゲーカセを手に入れるために中古ショップを周ったり、その日の夕方に戦死してしまう恋仲になったキャラを救うために同じ日を何回もリセットしたり・・・俺の青春はゲームとともにあったのだ。
無論、最近のゲームも面白い。
グラフィックやサウンドはもちろん、フルダイブ型のVRゲームなんて、自分の身体以上にアバターを自由に操作ができ、超人的な力や実現不可能な経験を自分のものとして体験する事だってできる。
もはや現実との区別もつかず、VRシンドロームなんて現代病が社会問題になるほどだ。
そんな、昔のゲーマーからすれば夢の様な体験を出来るようになった昨今、俺も類にもれずVRゲームにのめり込み、その中でも残り少ない余生を大量に費やしているゲームが『Dragon sword』だ。
剣や槍、弓などの前時代的な武器のみでのモンスター討伐や、プレイヤー数百人で大規模戦闘を行う超ハードコアな内容であり、ファンタジー世界に脳筋どもが殴り込み!がコンセプトの素晴らしい洋ゲーだ。
俺はショテールとククリという、どちらも湾曲した癖の強い剣を使っていて、プレイスタイルはショテールの湾曲した刀身を敵の手足に引っ掛け、体勢を崩したり、確立された言わば戦闘の定石を乱すトリッキーな立ち回りを得意としている。
年齢とともに走る事も、歩く事すら困難になってきた老体だが、『Dragon sword』の中では、若者たちと剣戟を散らして戦場を駆け抜けられるのだ・・・。
「とうとう明日ッスね、超大型アップデート。」
俺と同じクランメンバーの『SAZI』(サジ)は、その魅力的なワードをこれ以上ないってほどシケた顔で呟いた。
「魔法の実装だっけ?まぁ、ドラソもリアル路線でよくここまでやっていけたな~とは思うけどねぇ」
スキルや魔法無しのリアル追求ハードコアMMO(大規模多人数型オンライン)として一時期は話題だった『Dragon sword』も、さらなる楽しみの可能性を秘めたスキルや魔法アリのMMOには勝てず、過疎化の一途を辿っていた
。
「まったく、クソ運営は分かってねーんだよ!魔法使いたかったら『スピマナ』とか『アクサマ』やってるっちゅー話よ!リアル技能に直結できる物理オンリーだからこそ、オレはドラソを愛してたのに!!」
サジは現実での戦闘技術の鍛錬としてドラソをプレイしていた、通称『リア派』と呼ばれる人種だ。
VRの中では、身体がアバターである事と、痛みを感じない事を除けば現実での体験とほぼ変わらない。なのでVRをトレーニングの一環として利用するなんて事は、アスリートから軍隊まで、今や当たり前となっている。まぁ、現実でのトレーニングを怠り、VRと同じ動きをしようとして怪我をするなんて話もよく聞くのだが・・・。
ドラソはレベルアップによるアバターの身体強化はあったものの、それ以外はシステム補助無しのリアル志向であり、今ドラソをプレイしている層はそこを気に入っている者たちが多い。ゆえに、今回の超大型アップデートに関してはサジと同様、俺も含めて否定的な意見が多いのだが、ドラソの運営はどうしてもファンタジー勢を取り込みたいらしい・・・。
「サジ君は移動するの?リアル志向脳筋ゲーは『戦国戦』、『コロッセス』とかあるけど。」
「うーーーん、モンスターが出ないじゃないッスか、どっちも過疎ってるし。モンスター出るタイトルって、どれもこれも魔法やスキルありきだからリアリティー無いんスよね~。エイトさんはどうするんスか?」
「俺はサジ君ほどリアル志向じゃないからね~もう少し様子見かな~。」
「エイトさん十分リア派じゃないッスか!崩しにパリィに素手とか、近接に関してガチガチのガチじゃないッスか~。」
「いや~オフでは動けないよ~歳が歳だからね~脳の情報伝達速度もかなり落ちてるし。」
だからこそ、現実の身体が老いさらばえるほど、身体を自由に動かせるVRの世界にのめり込んだのだろう・・・一種の逃避と憧れだ。
「おっと、千人戦もうそろそろッスね。参加人数は現時点で528人とチョイ多めか~。今日こそは、ラススタ(最後の一人)になる!!」
「俺はキル数増やしてポイント稼ぎだな。まぁ、お互い頑張りましょうや。」
サジと拳をぶつけ合い、互いの健闘を祈る。
そして俺は戦場に向かった・・・。