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3話 村を目指して

 人間の街で暮らす。

 そう決めた我……いや、我とイノリは、国の外れにある小さな村に向かうことにした。


 人間は、時に、他社を排斥する傾向にある。

 故に、下手にたくさんの人間を相手にしない方がいい。

 また、街に定住することは、色々な手続きが必要で難しい。

 その点、小さな村ならば手続きは必要としない。


 これでも、数千年は生きてる身だ。

 人間の社会について、それなりに知っていることはある。


 変身を解いて、いつかのようにイノリを頭に乗せて、村の近くの森まで飛んだ。

 もちろん、人に見られないように、魔法で透明化しておいた。


 森の一角にある広場に着地して、再び人間に変身する。


「楽しかったあ」

「怖くないのか? 落ちたら、などと思ったりしないのか?」

「おとーさんなら、すぐに助けてくれるもん」

「……うむ。まあ、そうだな。助けるな」


 妙な感情だ。

 くすぐったい、と表現するべきか?

 イノリの笑顔を見る度に、ふわふわするような、初めての感覚に襲われる。


 が、悪くない。


「イノリ。我から離れるなよ? 小さな村とはいえ、危険があるかもしれない」

「うんっ。おとーさんから離れないよ」


 イノリは笑顔で手を繋いできた。


「……これは?」

「離れないよ?」

「……うむ。まあ、いいだろう」


 イノリの体温を感じて、胸が温かくなる。

 本当に、なんなのだろうな、この感覚は?


「ねえねえ、おとーさん」

「なんだ?」

「その、『我』っていうの、似合ってないと思うなー」

「……なん、だと?」

「『我』なんて言う人、見たことないよ? あっ、でもでも、イノリ、そんなにたくさんの人と会ったわけじゃないから、なんともいえないかも」

「ふむ」


 人間の社会についてそれなりに詳しいつもりだったが、細かいところの知識は足りなかったらしい。

 そうか、この一人称は、人間の社会では珍しいのか。


「ならば……俺、か?」

「おー」

「どうした?」

「おとーさん、わいるど♪」

「わいるど?」

「かっこいいよ、っていうこと」

「ふむ」


 よくわからないが、イノリはご機嫌だ。

 ならば、これからは『俺』にしよう。


「では、俺から離れるなよ」

「あいあいさー!」


 あい……なんのことだ?


 まあいい。感嘆符のようなものだろう。

 そう納得して、イノリを連れて歩き始めた。


 この森は、あちこちに伐採の後が見られる。

 村の住人が、定期的に木材を調達しているのだろう。

 こうして人の手が入っている森は安心だ。魔物が住み着かない。

 逆に、人の手が入っていない森は魔物が住み着いてしまう。

 我……ではなく、俺は特に問題ないが、イノリがいるからな。

 魔物と遭遇しないに越したことはない。


「よし、森を抜けたぞ」


 しばらく歩いて、森を抜けた。

 草原に出る。


「イノリ、疲れてはいないか?」

「うん、だいじょうぶっ! おとーさんと一緒だもん」


 俺に疲労を癒す効果はないのだが……

 どういう意味だろうか?


 尋ねようとした時、イノリが慌てたような顔をする。


「お、おとーさん! 大変、大変だよっ」

「どうした?」

「村が……!」


 イノリの指差す方向を見る。

 なだらかな坂の向こうに、小さな村が見えた。


 普段は平和で、穏やかに人間たちが暮らしているのだろうが……

 今は、平穏とは程遠い光景だ。

 家が燃えて、悲鳴が響いている。

 村の中央に、四肢で大地を蹴る獣が見えた。


 ハンタードッグ。

 人間の大人くらいの身長を誇る、犬型の魔物だ。

 レベルも高く、一人前のCランクの冒険者でも苦戦する相手だと記憶してる。

 普段は森を住処にしているらしいが……たまに、人里を襲うこともあるらしい。


「ふむ」


 村人たちに為す術はない。

 一人、また一人とハンタードッグの餌食になっていく。

 俺たちは平穏な暮らしを望んでいるのであって、あのような魔物が現れるとなると、村を変える必要が……


「おとーさん……」

「うん?」

「あのね……なんとかできないかな? おとーさん、すごく強いよね?」

「そうだな……」


 イノリが願うのならば、話は別だ。

 それに、助けて恩を売ることで、スムーズに受け入れられるかもしれない。

 小さな村とはいえ、排斥される可能性はあるからな。

 今後のために、ここは動くことにしよう。


「イノリ、背中に乗れ」

「おんぶ?」

「そうだ、おんぶだ」

「わーいっ!」


 イノリが背中に乗る。

 片手でしっかりと支えた。


「俺の首に手を回して、しっかりと掴まっていろ」

「うん、ぎゅうー!」

「いくぞ!」

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