表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

23話 ドラゴン式訓練・4

「これで、私もおとーさんといっしょにたたかうよー!」


 イノリは剣を構えてみせた。

 なかなかサマになっている。


 ただ、さすがに自分の体ほどもある大剣を構え続けるのは難しいらしい。

 木でできているとはいえ、それなりの重量があるからな。

 少しして、疲れた様子で、イノリは切っ先を地面におろした。


「ふいー……私、がんばった!」

「今日の訓練はこれまでにしておくか?」

「ううん、まだまだがんばるよ!」


 イノリの目はキラキラと輝いていた。

 そんなに強くなりたいのだろうか?


 いや……

 自惚れかもしれないが、俺から何かを教わることが楽しいのかもしれない。


 イノリと出会い、しばらくの月日が流れたが……

 思えば、何かを教えるということは初めてだ。

 生きるための最低限必要な知識は教えたことはあるが、あれは教えるというより、体に叩き込んだと言った方が正しい。


 イノリが楽しく思っているのならば、止める理由はない。

 ただ、種族にかかわらず、子供は無理をする傾向があるからな。

 無理をするというか、ブレーキをかけるタイミングがわからないのだろう。

 全力で遊んで、突然、スイッチが切れたように体力が切れてしまうことが多々ある。

 その辺りは、きちんと見定めなければならない。


「では、これから剣技を習得するぞ」

「おーっ!」

「最初は、特に何も言わない。思うがまま、打ち込んでみるがいい」

「おとーさんに?」

「ああ」

「けがしちゃうよ……?」

「安心しろ。その程度で怪我をするほどやわではないし、イノリの腕なら脅威ではない」

「むー……そう言われると、なんかもやっとするの」


 膨れるイノリ。


 子供と侮りすぎただろうか?

 ……いや、あえて煽ることにしよう。

 やる気を出してもらうために、色々とやっておくに越したことはない。


「俺はドラゴンだ。初めて剣を持ったばかりのイノリに、俺を傷つけることができるわけないだろう?」

「むー」

「安心して打ち込んできていいぞ。イノリの剣はまったく届くことはないからな。良い練習台になろう」

「ゆだんたいてき、なんだよ?」


 だから、どこでそのような言葉を覚えてきた?

 たまに、娘の育成に不安になってしまう。


「油断ではない。ただの事実だ」

「むー、むー」


 頬を膨らませるイノリ。

 少々、煽りすぎただろうか?


「けがしても知らないんだからねっ」

「その心配は無用だ。そうだな……もしも、俺にまともな一撃当てることができたのならば、イノリの言うことをなんでも一つ、聞いてやるぞ」

「ホント!?」


 ぱぁ、っとイノリの顔が明るくなる。

 現金なもので、ごほうびを提示されるとやる気が出たらしい。


 ごほうび>俺の身の安全、という図式が成立してしまい、自分で言い出したことなのだけど、少し悲しくなってしまう。


「よーし、がんばるよー!」

「来いっ」

「えーいっ!」


 イノリがしっかりと地面を踏んで、突撃してきた。


 両手で大剣の柄をしっかりと握る。

 全身をくるりと回転させるようにして、その勢いを乗せて、大剣を振る。



 ゴォッ!



 初めて武器を持ったとは思えないくらい、鋭く、重い一撃が頭上から落ちてきた。

 なかなかのものだ。

 その鋭い斬撃に、思わず、内心で拍手してしまう。


 とはいえ、なかなかというだけで、驚くほどのものではない。

 俺からしてみれば、スローモーションのようなものだ。

 勢いあまったイノリが転ばないように注意しながら、そっと大剣を手の平で受け止めた。


「あ、あれ?」


 あっさりと受け止められて、イノリは目を白黒させた。


「当たった……?」

「いや。受け止めただけだ。わかるだろう?」

「うん……なんか、ふわっとしてて……おとーさん、すごい!」


 攻撃が不発に終わったというのに、イノリはうれしそうだった。

 尊敬の眼差しを感じる。

 どこかくすぐったいような気分ではあるが……

 娘から尊敬されるというのは、悪くない。


「終わりか?」

「ううん、まだだよー! えいやーっ」


 イノリはその場で回転して、大剣を横からぶつけてきた。

 俺は軽く体を逸らして、今度は回避する。


 宙を薙いだ大剣に引っ張られるように、イノリの体がぐらりと揺れて……


「むうううううーーーっ!!!」


 イノリがその場で踏みとどまり、駒のように回転する。

 上、下、真ん中。

 回転の威力を乗せて、様々な角度から打ち込んできた。


 少し驚いた。


 イノリは、自分の体ほどもある大きな剣を、どのようにすればうまく扱うことができるか、理解してる。

 攻撃手段は拙いものの……

 大きな剣に振り回されることなく、自分の意思で振るっている。

 本能的に、剣を扱う手段を理解しているみたいだ。


 イノリは魔法使いの才能があると思っていたが、そうではなかったらしい。

 武器を扱うセンスもある。


 おもしろいことになりそうだ。

 俺は、知らず知らずのうちに笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ