21話 ドラゴン式訓練・2
どうして、このようなことをするのか?
目的は二つある。
一つは、イノリにありとあらゆる状態異常の耐性をつけるためだ。
ただ力をつけるだけでは、『強者』になることはできない。
毒や呪いにかかり、為す術なく倒れてきた冒険者を、俺は数多く見ている。
力があるだけではダメなのだ。
生き残るだけの強靭な体がなければいけない。
そのために、まずは状態異常の耐性をつけることにした。
人間の自然治癒力は高い。
それは、毒や呪いに対しても効果を発揮する。
何度も何度も麻痺状態になれば、体は抗体を作り、自然と耐性が作られる。
それが目的で、俺は何度も何度もイノリを麻痺状態にしていた。
麻痺耐性をつけるだけが目的じゃない。
毒、呪い、氷結……ありとあらゆる耐性をつける予定だ。
無論、イノリに無理がないように、様子を見ながらになるが。
なぜ、レベルを上げる前に耐性をつけることを優先したのか?
ここで、二つ目の目的が絡んでくる。
レベルが上昇すると、身体能力が強化されるだけではなくて、その時点で獲得してる特殊能力も強化されるのだ。
例えば、レベル1で麻痺耐性を獲得していたとしよう。
その者がレベル10になると、『麻痺耐性+10』を獲得する。
レベルを上げることで、特殊能力を底上げすることができるのだ。
だから、レベルを上げるのならば、まず先に特殊能力を獲得しておくべきだ。
そのために、イノリに各種状態異常の耐性を獲得させることにした。
もちろん、状態異常の耐性だけではない。
これから、他の特殊能力も獲得させるつもりだ。
その上でレベルを上げる。
そうすれば、イノリはイノリが望む、『強き者』になることができるだろう。
「イノリ、大丈夫か?」
「だだだ、だいじょーぶ」
痺れながら、イノリが答える。
体をまともに動かすことができず、辛いだろうに……
しかし、イノリは泣き言を一つも漏らさず、必死にがんばっている。
イノリの強い決意が感じられた。
ならば、俺のするべきことは一つ。
イノリに応えるために、とことん強くしてやるだけだ。
それこそ、俺を凌ぐくらいの力を身に着けさせる。
――――――――――
一時間ほど、パラライブレスをイノリに浴びせただろうか?
最初は地面を転がり、まともに動けなかったイノリだが、時間が経つにつれて手足を動かせるようになり……
「あはははーっ! おとーさん、くすぐったいよー」
今では、なんともないというように笑っていた。
わずか一時間で、麻痺耐性を獲得してしまったらしい。
才能に優れていても、わずか一時間で麻痺耐性を獲得するなど、ありえないことなのだが……
これも、俺と契約を結んだからなのか?
それとも、イノリ個人の才能が常識はずれなのか?
どちらなのか。それはわからない。
ただ、ある意味で、イノリは俺の弟子に位置する。
そんなイノリが、規格外の能力を見せつけてくれた。
師としては、素直にうれしく思う。
「よし、麻痺耐性はこれでいいだろう」
「終わりなの?」
「いや、まだまだだ。次は、呪縛耐性を身につけてもらう。やり方は同じだ。俺のブレスを浴び続けるだけだ」
「あいあいさー!」
「しかし……次は呪縛だ。心を強く持たないと、呪いに心を蝕まれ、衰弱してしまうことがある。やめるのならば……」
「やめないよ」
その時だけは、イノリはしっかりとした口調で言う。
まっすぐに俺を見つめて……
確かな意思を言葉に乗せて、思いを届ける。
「私は強くなるの。だから……やめないよ」
「……そうか」
もう何度もこの子の意思を確認したはずなのに、いざとなると、尻込みしてしまう。
俺は情けない親だな。
「しんぱいしないで、おとーさん」
「イノリ?」
「私なら、だいじょーぶ。ちゃんとできるよ、やってみせるよ」
「なぜ、言い切れる?」
「おとーさんのこと、しんじてるもん」
言葉を失う。
イノリからの絶対的な信頼を感じる。
それなのに、俺は……
「……わかった。もう、あれこれ心配するのはやめだ。どんどんいくとしよう」
「うんっ!」
「では、いくぞ」
「ばっちこい!」
いつか、どこかで、こんなことを聞いたことがある。
『子供は親の知らぬ間にどんどん育つものだ』……と。
まさしく、その通りだ。
イノリは、俺の予想を遥かに超えた速度で成長してる。
体だけではなくて、心も。
とても頼もしい話だ。
同時に、親として誇らしくもある。
俺の娘はこんなに立派なんだぞ……と。
不思議なものだ。
ドラゴンである俺が人間の子を娘にして……その娘を、こんなにも大切に思う時が来るなんてな。
不思議ではあるが……悪くない。
今までにない満たされた気分になっていた。
「しまっていくよー!」
だがしかし、そのおかしな掛け声だけはどうにかならないものか?
俺は真剣に頭を悩ませるのだった。




