第60話 首都直撃
――――テオドール帝国首都 オーディン。
時刻は夜。315レーヴァテイン大隊は装備を整え、要塞化された国防省の屋上にいた。
上空には視界に入り切らないサイズの魔法陣、まさか首都を直撃されるとはな......。
近衛師団が慌ただしく帝都へ展開、今のところ現れたのは巨大魔法陣だけだが、テオいわくレクトルが溢れるのは時間の問題だそうだ。
明かりに満ちた都市部から、闇を裂くようにいくつものサーチライトが空へ昇る光景は幻想的だ。
「01より大隊本部、詳細を求む」
数十基の対空砲が真上を指向し、隠れていた短距離対空ミサイルも顔を出す。国防省は文字通りハリネズミと化していた。
『こちら大隊本部、魔法陣は全世界の主要国首都へ同時出現したもよう』
「全世界?」
『ああ、帝都オーディン、ミハイル連邦首都モスカ、アルカディア連合王国首都ロンドニア。そして――――オリヴィア合衆国首都ワシンテニオン、秋津国首都だ』
「交戦国ならまだしも、オリヴィアと秋津は直接参戦していなかったのでは?」
『そうだ、しかし彼らは食料や弾薬支援、武器供与を我々に行っていた。それが攻撃のキッカケになったのかもしれん』
先日のユグドラシル破壊、そして大陸間弾道ミサイルを使った一斉攻撃プランことピースキーパー。
主導権を握りかけていただけに、今回の奇襲は出鼻をくじくためか。
だが、それにしたって全ての大国の首都を同時攻撃とは......。
「エミリア、顔色悪いけど大丈夫?」
グランドクロスを携えたテオが、ナスタチウム中尉へ近づく。
見れば、中尉は額に尋常でない汗を流していた。
「秋津のことが気掛かりなのか?」
「ッ......! すみません......」
「いや、中尉は秋津で過ごした時間の方が長いのは承知している。考えるなと言うつもりはない」
故郷に等しい国にも戦火が及んだのだ、心配するなというのは難しいかもしれないな。
「だが秋津の軍隊も精強と聞く、秋津海海戦でバルシック艦隊相手に完勝したのは有名な話だ。極東は彼らに任せ、こちらも帝都を守るぞ」
「了解ッ!」
民間人はマニュアルに従って、各区域ごとに地下シェルターへ避難となっている。
現在近衛師団が避難誘導を行っているらしいが、さていつまで待ってくれるか......。
「――――来たッ! 真上に魔力反応!! 全員備えて!!」
魔力探知を持つテオが叫んだ。
釣られて上を向けば、思わず弱音が出そうになる。
......どうやら、くそったれの主は避難完了まで待ってはくれないらしい。
「さて大隊諸君、オーバーワークに祝福を。理不尽を相手に戦争を始めるぞ!」
三重、四重にまで重なり合った魔法陣から降り注ぐレクトル、視界を覆い尽くすような数の敵軍が、帝都全域へ降下を開始した。
『撃ち方始め! 繰り返す、撃ち方始めッッ!!!』
帝都中から猛烈な対空砲火が打ち上がった。
地対空ミサイルが尾を引きながら次々に化物を穿ち、死の花を上空に咲かせる。
『弾幕を張れ!! 敵空挺を少しでも減らすんだ!!』
火を吹く機関砲が降下中のゴブリンを、執行兵を瞬時に肉の塊へと変えていく。
濃密に展開される弾幕、それでも帝都各地から最悪の報告が上がったきた。
『帝都B2ブロックに敵大隊降下! これより交戦します!!』
『こちら外務省守備隊! キマイラ級40以上が直進中!! 戦車の支援を要請する!!』
『国土交通省にもオーガ級多数!! 攻撃されている!!!』
アスガルは市街に加え、帝国の脳たる各省庁を潰しにかかっているようだった。
最悪だ! 皇宮と国防省は中心部の高台にあり、周囲より対空砲火やミサイル迎撃も厚いのでいまだ無事だが、このままでは国家が機能不全を起こしかねん!!
「大隊諸君! この中で車の運転に自信のある者は?」
通信に耳をやっていた少佐が、唐突に振り向いた。
一体なにを......?
「車なら運転できます、以前もフォルティス大尉と行った偵察で、運転を担当しました」
対物狙撃銃を抱えたアルバレス中尉が名乗り出る。
そういえばそうだった、テオを拾った日も巧みな運転でキマイラの攻撃を回避していた。
その他にも、数名の隊員が挙手する。
「よろしい、では早速装甲車を取りに行こうか」
「装甲車!? 少佐、一体なにをするつもりで?」
「大尉、我々は魔装化機動大隊を名乗っているが、なにも魔装化だけが機動する手段ではない。これだけ戦線が流動的では魔力が追い付かないのは自明、ならガソリンを使った機械化部隊になろうじゃないか」
【機械化部隊】
主に車両などで機械化された歩兵を指し、高い即応能力と機動力、展開力を備える。