第56話 情勢報告Ⅳ テオドール帝国
――――テオドール帝国首都オーディン 第315魔装化機動大隊本部。
「共産主義者どもめッ! レーヴァテイン大隊をユグドラシルもろとも消すつもりか!!!」
統合任務部隊の指令室内、いつもは冷静さで大隊から評を得ている私だが、そんな外聞を砕くようにオペレーションルームの机を叩いていた。
コアを爆破した大隊の通信によると、脱出前にユグドラシルを破壊されれば永久に出られないらしい。
連邦からユグドラシルにミサイル攻撃を行うと通告され、慌てないバカが果たしているだろうか? 否ッ!
少なくとも帝国は連邦の目論見を看破した、なればこそ行動は迅速だ。
『こちらイーグル1、連邦軍爆撃機と思われる国籍不明機をレーダーで探知。第1波攻撃隊と思われる。総数25』
スクランブル発進した帝国空軍戦闘機が、領空内で迎撃の体勢を取る
カーラグラードは飛び地であり、連邦領ながらも帝国に三方を囲まれ、北は海へ面している。
なので、連邦が攻撃を行うなら帝国領空内の通過許可が必須。
無理矢理侵入するつもりなら、撃墜すら帝国はいとわない。
それが主権国家の当たり前だ。
「連邦からの返答は!?」
「未だ応答なし!」
既に攻撃中止要請を送ったが、嫌がらせ大好きのコミュニストのことだ、無視を決め込んでいるのだろう。
そして、攻撃終了後に何食わぬ顔で返事がくるのだ。
最初の一方的な通告も、大義作りに他ならない。
『こちらドラゴン4! 第2波と思われる攻撃隊を探知! 30を超える戦爆連合編隊です!!』
連中は本気だ、それでも我々はレーヴァテイン大隊を失うわけにいかない。
『イーグル、ドラゴン各隊へ、全武器使用許可。連邦空軍を迎撃せよ』
相手がその気ならこっちも遠慮は無しだ、上からもレーヴァテイン大隊の損失は避けよと言われている。
攻撃開始前に先制攻撃すれば――――
『アンノウン! 長距離巡航ミサイルを発射!! 繰り返す! 巡航ミサイル発射ッ!!!』
遅かった!! 敵は自国領内から長距離攻撃を行ってきやがった!
俺の横にいる空軍士官も顔を青くして叫ぶ。
『アンノウンを敵機と断定!! 全機、巡航ミサイルの迎撃を開始せよ!!』
『ラジャー、全機ミサイル発射ッ!』
神との戦争の最中、テオドール帝国とミハイル連邦は衝突を開始してしまった。
やはり人間の敵は人間なのか......!
モニターに映る大量の巡航ミサイルとおぼしき光点を、帝国空軍の戦闘機が発射したミサイルが次々と撃墜していく。
『敵巡航ミサイル、領空内に侵入!』
『コピー、国境防空隊へ伝達。迎撃開始』
連邦との最悪を想定して配置されていた、東部方面軍の国境防空隊が、地対空ミサイルと対空砲でもって迎撃。
第1波攻撃をなんとか防ぎ切った。
『第2波! 敵戦爆連合編隊! 巡航ミサイル発射ッ!! 総数128発!!』
『バカなッ!!』
いくらなんでも多過ぎる、とても防げた数じゃない。
『イーグル、ドラゴン各隊のミサイル残弾ゼロ! スクランブルした支援機も間に合いません!』
『敵ミサイル、残存92発が領空内を通過! カーラグラードへ向かいます!!』
してやられた、我々は対アスガルの切り札を失う......。
いや、これはいずれ連邦に牙が向けられると確信しての攻撃だろう。
指令室に悲壮感がただ寄った瞬間、その知らせは訪れた。
『......え、敵巡航ミサイルの前衛が撃墜!』
「なんだと!?」
『間違いありません! 敵ミサイルが次々と落下、迎撃されています』
あの場所に配置されているユニットはゼロだったはず、そう思いかけた私のヘッドフォンから、若い男性の声が飛び込んできた。
『こちらレーヴァテイン03、現在巡航ミサイルを迎撃中、応答願います』
「03......、グラン・アルバレス中尉か!? なぜそこにいる! テオ・エクシリア特務尉官はどうした!?」
『彼女なら先に帝都へ運んでもらってます、連邦方面よりミサイルが飛来しましたので、独断でヘリを降りて迎撃しています』
話しながら撃っているのか、銃声が連続で鳴り響いている。
その間もミサイルは消失を繰り返し、迎撃され続けていた。
対物狙撃銃でミサイルを撃ち落とすなど、魔装化した人間にしか不可能。
12.7ミリ弾では威力不足であるからして、弾頭のシーカーを破壊しているのだろう。
連邦が恐れるわけだ......。
「了解した、ではアルバレス中尉、可能な限りミサイルの迎撃に努めよ。......頼んだぞ」
『ラジャー』
【戦爆連合編隊】
戦闘機と攻撃機、爆撃機が一緒になった大規模編隊。
【巡航ミサイル】
様々あるが、本話において連邦が撃ったものは、亜音速の空対地巡航ミサイルを描写している。