第41話 赤い大地と黒の剣
――時刻00:15分 ミハイル連邦領カーラグラード近辺上空。
帝国軍 特別航空機動団 輸送ヘリ内
ミハイル連邦とは、我がテオドール帝国の東側に位置する超巨大社会主義国家だ。
兵士は畑から取れるといわれる膨大な人口、広大な国土を用いた縦深戦術は帝国をもってして勝利できるかどうかだった。
そんな連邦と帝国を相手に、アスガルはなんと2正面で互角に渡り合っているのだ。さすがは神を名乗るだけはある。
まあ連邦は現在"粛清"の反動で軍の弱体化が酷いらしい、飛び地をまんまと奪われたのも大方これのせいだろう。
そのせいか、我々テオドール帝国とミハイル連邦は、現在連合強襲チームを編成して街の奪還へ向かっていた。
帝国軍機と連邦軍機が編隊を組むなど、戦前なら風刺画でしか見れない光景だ。
「さて大隊諸君、忌むべき共産主義者との共同戦線だが、気を病む必要はない。我々の目標は時計塔と広場の制圧だ、火器、魔導ブーストの使用は無制限、存分に暴れてくれ」
「少佐、重火器の使用は問題ありませんでしょうか?」
「ああ、うっかり赤い広場ごと吹っ飛ばしても構わん。ただし、民家には当てるなよ」
明らかに大隊の指揮上がる。
仮想敵国の地でレクトル相手に暴れられるのだ、戦闘狂にはたまらんだろう。
証拠に、今回はなんとほぼ全員がロケットランチャーを装備していた。
低空飛行する4機の輸送ヘリに11人づつ、ヘリボーン地点の平野から街へ侵入し、我々が突破強襲。連邦軍空挺師団が到着するまでに対空陣地を破壊する。
「では大隊諸君! 赤の大地で踊るとしよう」
ヘリが街から1.5キロ地点に低空でホバリングすると同時、レーヴァテイン大隊の瞳は血のように紅く染まった。
「景気づけだ、フォルティス大尉! 1発撃ち込んでやれ」
少佐の指示で機内のロケットランチャーを装填、サイドドアを開けて【カーラグラード】の広場をスコープで見つめる。
さらに、『魔導戦術データリンク』の望遠機能を上乗せした。
見える範囲で対空砲が12機、執行兵は......60体か。良い的だ。
「目標、敵対空陣地! 後方の安全確認良し!! 発射ッ!!」
110ミリ対戦車ロケットが、夜の帳を裂くように発射された。音速で飛翔した榴弾は、尾を引きながら魔導対空砲へ突っ込む。
陣地の一部が吹き飛び、執行兵が広場ごと大きく爆散した。
極東の秋津に習うなら、たまやとでも叫ぶところだろうか。
「牽制は上出来だ、総員降下! レーヴァテイン大隊、【カーラグラード】へ突撃せよ!!」
猛獣のうなり声が街から響く、さりとて恐れるものは無い。
悪の権化よ――――1匹残らず殲滅してくれる。
【ロケットランチャー】
ロケットブースターにより推進する榴弾発射機。
戦車や装甲車、建物などを木っ端微塵に粉砕する威力を持つ。