第40話 理解と和解
「弾帯よし、あとは書類か」
地下駐車場での一件、あれから3日程経った。
大方の処分が決まるまでは官舎に禁固っていう感じなんだけど、反省も兼ねて大隊武器庫管理の手伝いや、書類作業を私は続けていた。
今回の件は少佐から説明してもらったところ、現場の軋轢を見抜けなかった上の判断ミスと、ラインメタル少佐も誘導していた節があったということで、処分自体は軽いと言われた。
でも、やっぱり私が激情に身を任せたことが原因には違いない。
罪悪感が拭えぬ中、紛らわすように書類の空欄を埋めているとノックが響いた。
「はい、どうぞ」
誰だろうなんて思って振り返ると、黒色基調の士官服に身を包んだベルセリオンが入室してきた。
「どうしたの?」
ドタバタしていたこともあり、最近彼女とは会えていなかっただけに、ちょっぴり話しづらい。
「いや、他の者が忙しそうだったんでな、暇だし会いに来た」
「プフっ!」
思わず吹き出す。
「なっ、何がおかしい! 会うのを禁止されてはいない筈だが、もしかして間違えてたか!?」
「そういうのは無いけど、普通あんなことしたヤツに会いたいって思うのかなーって」
彼女は扉を閉めると、私の方へ近づく。
「会いたいと思うくらい良いだろう、自分の意思に従っただけだ」
「そうね、でも結構人間らしくなったじゃない」
「一応言っとくが私は神だぞ、人間でも、ましてや人形でもない」
「あはははっ! それもそうね。あと、その......こないだはごめんなさい。アザとか残らなかった?」
頭を下げて謝罪する。
ずっと気になっていた、私がまだまだ子供だったせいで皆にも迷惑を掛けてしまった。
もちろん、ベルセリオンには本当に申し訳なく思ってる。
「気にするな、こないだは対戦車砲で撃たれた上に槍で貫かれたからな、お前のパンチなんて効くわけないだろう」
どこか明るくて優しい返事、まるで感情がこもったような人間らしい、おどけた口調で彼女はそう言った。
胸のわだかまりが払ったようにスッと消える。どこか安堵する私に、ベルセリオンは続けた。
「エルドやグランから聞いた。お前がアスガル軍に襲われた街は、私とテオが初めてこの国に来たときの"廃墟"らしいな。お前の心中を思えば真っ先に考慮すべきだった、すまない」
「いやいや! 私の方こそ話そうとしなかったのが悪いわけで――」
「違う、これは私の自己中心的行動が招いた――」
永遠に続きそうな訂正と謝罪を切るタイミングで、ドアが再びノックされる。
「あっ、はいどうぞ!」
どぎまぎしながら返事をすると、端正な金髪の男が入室した。
私の上官にして大隊長、ジーク・ラインメタル少佐だった。
「お疲れ様、ナスタチウム中尉。......うん、彼女と仲直りできたようで何よりだ」
「あっ、いや、はい、大変ご迷惑をお掛けしました!」
直立し、ベルセリオンの時と同様頭を下げる。
「今回の一件は僕らにも責任がある、あまり気負わないでくれ。書類作業もできてるみたいだし、もう喧嘩はよしてくれよ」
「はい!」
右手で敬礼する私。
でも、ベルセリオンは何か曇ったような目つきでジークを見ていた。
「ジーク、終わったなら要件を話してくれ。さっきからドタバタと大隊が騒がしい、......何が起きた?」
そういえばベルセリオンも「他の者が忙しそうだったから来たって」。もしかして......。
「さすがに気づいてたか。ナスタチウム中尉、ベルセリオン特務尉官、休日はおしまいだ。今をもって315レーヴァテイン大隊は、占領された【ミハイル連邦領カーラグラード】奪還支援のため出撃を行う。仕事の時間だ」
あまり休日という雰囲気ではありませんでしたね(汗)
ですが、この軋轢とその解消はどうしても描きたかった次第です。
次章からミハイル連邦の飛び地、【カーラグラード】へ315大隊は進撃を開始します!