第24話 機動遊撃戦
本日の天気は曇り、空模様も怪しき中、戦場というのはつくづく五感を叩き殴ってくる。
統率された乾き気味の発砲音が勢いよく耳を刺し、光学サイト越しの目には、屋根上から一方的に風穴を開けられる化物が覗く。
硝煙の匂いは鼻内を駆け回り、口に入った土や埃と混じり合った。
味気も悪く、最悪と言って良い職場環境だが、相棒を持つ両手の感触は決して悪くない。
第315魔装化機動大隊は、屋根伝いに縦横無尽、一騎当千の如く機動し、持ちえる火力を高所から容赦なく敵へ叩き込んでいた。
『マーキュリーよりレーヴァテイン大隊、6番ストリートで交戦中の友軍部隊より救援要請。ただちに急行せよ』
大隊司令部から矢継ぎ早に命令が飛ぶ。
「この先のストリートね! 確かに執行兵がいる! 数は45!!」
魔力探知で的確に敵部隊を発見したテオが、すぐさま情報共有を行った。敵の位置情報が手に取るように分かるというのは実に素晴らしい。
「了解した、『魔導戦術データリンク』を起動。1、2中隊、我に続け! 4中隊は援護射撃だ」
少佐の指示で4中隊がスモークグレネードを執行兵へ投射、相手の視界を奪い去った。
そこへ、意気軒昂の少佐が不治の病を発揮し、我先にと敵小隊目掛けて突撃。
瓦礫を盾に友軍部隊と交戦していた執行兵は、横腹を殴られたように一瞬で壊乱へ陥った。
『魔導戦術データリンク』は、3型汎用魔導戦闘服が持つ機能の1つであり、外部機器に頼らず"暗視"、"敵味方の識別"、"処理能力向上"等を可能にしている。
つまりはスモークなど関係なく、敵のみを探し出し速やかに撃滅することが可能なのだ。
蹂躙の合図たる50口径マグナムの重い射撃音が響く。立ち込める煙の内側はまさに惨劇、あとはただ熱源に向かってトリガーを引くだけの簡単な作業が始まった。
相手の持つ魔法弾発射機は確かに脅威だ、しかし闇雲に撃つだけでは銃同様基本当たらない。
着剣し、元々レーザーサイトや光学照準サイト、ハンドガード下部には40ミリグレネードランチャーを装着していたこともあり、一層ゴテゴテしくなった銃で敵兵を突き刺した。
「ゴアアッ!?」
銃剣がめり込んだ瞬間に断末魔が上がるが、俺は同情の代わりに至近距離での3点バーストを追加でお見舞いする。
眼前の敵を"敵だった"肉に変えるが、後悔も無い。彼らは民間人を虐殺しに来たのだから、その逆も然りだ。
有名な言葉に、"撃って良い者は撃たれる覚悟がある者だけ"というのがある。なにも、人間に限った話ではないな。
素早くリロードを行い、さらに引き金を引く。
銃口から吹き出す発砲炎が煌めき、味方の射撃と合わさったそれは、死神が鎌を振るうが如く次々と執行兵の命を刈り取った。
ストリートの煙幕が晴れる頃になると、テオドール帝国軍の制服を纏った者のみがその場を制していた。相手が人間だったならば、虐殺と言われてもおかしくない殲滅戦である。
「砲撃来るぞぉーーーッ!!!」
曇天を突き破り、アスガルの砲撃がこちら目掛けて突っ込んできた。
どうも休ませてくれる気は無いようだ。
「皆逃げてッ!!!」
屋根上からテオが叫ぶ。だが時を同じくして、マグナムの装填を終えた少佐が、青白い光を見上げながらニヤリと笑った。
「あの魔導砲、弾速はロケット砲に近そうだ。いけるね? アルバレス中尉」
『了解、エイム』
次の瞬間だった。
落下中の敵魔導砲は空中で大きく爆散すると、グランソフィアを照らすように花を咲かせた。
それも1回ではない、地表へ迫っていた10近い砲撃は1つ残らず上空で阻止され、爆風が街を撫でた。
『全弾撃墜、破片による被害はゼロ』
落ち着き払った声が通信に流れる。
なるほど、姿が見えないと思ったら......。
「素晴らしい、12.7ミリ対物狙撃銃による対砲弾狙撃だ。アルバレス中尉が撃った」
部下の仕事に満足気な少佐が、市街中心の小山に立った大聖堂を指しながら答える。
315レーヴァテイン大隊の誇る最強の狙撃手、グラン・アルバレス中尉。その腕は、ロケットランチャーすら撃ち落とす軍内トップ級の射撃の名手だ。
「大隊長! 本部より通信です。本隊は防衛線をさらに後方へ下げる模様。我々も引きますか?」
ナスタチウム中尉が屋根上、テオの横から呼びかける。
「そうか......フォルティス大尉、確か対ワイバーン用に重機関銃をいくつか設置していたね?」
「はい、万が一に備えて」
「よろしい、では3つほど取りに行こう。アスガルの連中を驚かせてやろうじゃないか」
【対物狙撃銃】
長距離から歩兵、又は車両等を狙撃する多目的ライフル。
確かな破壊力と高い命中精度、安定した射程距離を誇る。
うーん、ロマン!