ダンジョン姫は攻略されたい
息抜きで書いた作品ですが、楽しんで頂ければ嬉しいです
「……アイリーン」
「……カズト様」
ここは、城のとある一室。愛し合う二人が頬を赤らめながら見つめ合っている。金髪に碧眼、目がぱっちりとした可愛らしい顔立ちの女と、黒い髪と目を持つ男が触れ合った途端に……男が消失した
「ハグすらできないの! クソダンジョン、ふざけんじゃ無いわよ」
いつも、これだ。彼が両国の友好の為に、私と結婚する為に来た時は私はまだ正常だったのだ
それが、互いを深く知り合い、愛を確かめ合って、いよいよ結婚式と言うところで……私は彼に触れる事が出来なくなったのだ。私だって、年頃の淑女なのだ。キスの一つだって、好きな人としたいしそれ以上だって……でも私はダンジョン病にかかってしまった
触れて仕舞えば、カズト様はダンジョンに飛ばされてしまう。昔は、よくボロボロになって帰ってくる彼を見て、心を痛ませたものだ。今では、慣れたもので、セーブポイントから帰ってくるのだけどね
「ただいま、やっぱり、最後のボスは強いね。流石は幻獣、セイントドラゴンって感じだよ。なにせこっちの武器はボロボロさ」
カズト様の国の武器は魔刀という特殊な武器で、魔力を込めて戦うものらしいわ
因みに、セイントドラゴンとは、一頭いれば小国なら簡単に潰せる恐ろしい幻獣なのよ
「ーー義兄様、お父様がお話があるそうですわ」
カズト様の腕に抱きついて、私と彼の、ラブラブな時間を邪魔したのは、私の妹であり、第2王女である、マリアだ。我が妹ながら、私より遥かに可愛い顔立ちをしていて、事あるごとにカズト様に色目を使ってくるので、困ってしまう
「マリア殿、すまないけど離れてくれないかな? 歩きづらいし、アイリーンをエスコートできないからね」
「分かりましたわ。ごめんなさい……義兄様」
寂しそうな顔をして、離れていったが、一瞬私を見て睨んだのを感じた。まぁ、どう足掻いても、カズト様とマリアが結ばれることはないのだけどね
「カズト、お前とアイリーンの婚約を無かったことにして、マリアと婚約するものとする」
……と思っていた時期が私にもありました。いやいや。はっ? なんで、どうして? しかも、婚約破棄じゃなくて、無かった事にってどうゆう事ですか
「近衛兵、アイリーンを地下牢に幽閉せよ。カズト、動けば、アイリーンを殺す」
刀を抜きかけた、カズト様の動きが止まる。よかったわ、いくら王女の婚約者でも、謁見の間で武器を抜いたらダメだもの
「何故ですか? 僕はアイリーンを愛しています」
「フン……愛していますか? 笑わせる。全て、貴様のせいだ。お前が、ダンジョンを攻略できないばかりに、子供ができないせいで、アイリーンを幽閉せねばならんのだ!」
そういえば、お父様の顔色が優れないわね。目の下には恐ろしい程、濃いクマができている
「ーー待って下さい、攻略はすぐにしてみせます」
「猶予などない、一週間前にお前の国から、伝書が来た……内容は、子供も産めない女をパートナーにしておくとは、どうゆう事だと言う内容だ……大国を相手に、我々小国が出来る事などないのだ」
お父様の強く握られた拳から、血が垂れているのが分かる。きっと、苦渋の決断だったのでしょうね
「では、アイリーンを連れて行け」
「待って、私の婚約者であるカズト様の元婚約者のお姉様が一生独身なんて、可哀想よ。せめて伴侶を決めてあげましょうよ」
余計なお世話だと声を大にして言いたい、カズト様以外と結婚する気は私には、無い。ほら……お父様だって青筋を立ててらっしゃるわ
「マリア、その口を閉じていなさい。アイリーン……すまない」
私は、そのまま近衛兵に連れて行かれる。最後に見たカズト様のお顔が何かを決意したような顔だったので、少し心配だ……
私が幽閉された塔には、お父様が気を使ったのか立ち入り制限などは一切なく、友人のご令嬢や世話をしてくれていた侍女などが顔を見せてくれていた
「わたくし、悔しいのですわ! マリア様は自慢気に言いますの、カズト様は私の旦那様になるのと……あぁ我慢なりませんわ」
来てくれるのは、嬉しいのだがこうも気が滅入る話ばかりされると苦しいものがある
……少しくらい顔を見せてくれても良いではないか?カズト様はあの日以来、会いに来てもくれない
パチンと自分の頬を叩く、自分が信じずして誰が信じるというのか。ずっと待って今や結婚式当日……マリア本人の強い希望という事で私は参加することになっていた
あーぁ、タキシード姿のカズト様はかっこいいな。隣に立って勝ち誇っているマリアはムカツクけれどね……視界がぼやけてくる
「……実感が湧くと悲しくなるって本当なのね」
パチパチと拍手の音が鳴り響く。二人の誓いのキスなんて見たくないや。帰ろう……塔にこもって泣いてしまおう
「ーー私は、マリア嬢と結婚はしない! 」
突然、カズト様が叫ぶとこちらに走ってくる
「ーーい、一体何を!?」
「待たせてごめん……すぐ終わらせてくるから」
カズト様は、マリアに向って指をビシィっと、指すと罪を糾弾し始める
「君が、本国の両親に有る事無い事、吹き込んだ事は分かっているよ。アイリーンが僕と床に入らずにいるせいで、世継ぎが出来ないなんて、怒るはずだよね」
「そんな馬鹿な……本国に行けるような時間なんて……」
「あぁ、その事なら。瞬間移動の魔道具を使ったんだ。アイリーンの為に、ダンジョンを沢山攻略して来たからね」
街に行ってはダンジョン病にかかった人を治していたらしいが、その時の魔道具だろう
「マリア、なんて馬鹿なことを……連れて行け」
近衛兵に連れて行かれたマリアはうなだれたように抵抗せずに、式場をあとにした
「カズトよ、これで全て解決したなどと思っては無いだろうな? 根本的な事は解決しておらぬ」
そう、カズト様が私に触れないことは変わらないのだ。つまり世継ぎは出来ない
「ご心配には及びません、目的の物は手に入りましたから」
目的の物が分からずに頭に?が浮かんでいる私に、触れてダンジョンに向かったカズト様は、すぐに出てきた。手にはドラゴンを象った腕輪が握られている
「ーーまさか、セイントドラゴンを討伐したというのか……ありえん、あれは幻獣だぞ?」
お父様が驚くのも、無理はない。今まで倒せなかったのにすぐに倒せるようなものではないのだ
カズト様は、腕輪を放り投げる。あぁー、貴重な物なのに! そのまま唖然とする私の手を取って跪くと、周りの令嬢からは興奮したかのように、キャァァァアーと黄色い悲鳴があがる
「アイリーン、やっと婚約指輪が見つかったんだ。僕と結婚してくれないか?」
手に私の目のように澄んだ碧色の宝石があしらわれた指輪がはめられる
「ーー私でよければ喜んで」
「ーー君しかいないよ」
深く、長いキスをされる。私が息が苦しいと身をよじった頃、やっと解放される
カズト様に触れられる! それが嬉しくて、心がじんわりする
「カズト様万歳! アイリーン王女万歳」
この後、この国には賢王と心優しい王妃の物語が生まれる事になるかもしれない
最後まで読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m