な、なんちゅうもんを...
「ロサーヌさん。このサラダとドレッシングをテーブルに運んでくれますか?」
人遣いが荒いだのなんだの聞こえたけど頼まれたことはちゃんとやってくれるようだ。
さぁオムレツだ。
ボウルに卵を割って、牛乳を少々とパルミジャーノを少々おろし入れて適度にかき混ぜる。
熱したフライパンに、バターを投入して卵液を流し込み、素早くかき混ぜながら成型して平皿に盛ったケチャップライスの上に優しく載せる。
その間約25秒。
これを人数分の3回繰り返し、さぁテーブルへ向かおうとした所で周りの熱い視線に気づく。
獣人さんも含めて今にもよだれを流さんばかりに見つめてくるが、ここは華麗にスルー、というか、あなた方まだ営業中じゃないの?お客様がお待ちですよ?
左手にオムライス3皿、右手にケチャップのボウルを持ってテーブルに向かうと、ドーラさんの目がオレの左手のオムライスに釘付けになっていた。
ドーラさんの目はオムライスにロックオンされていてサーブする間も一瞬たりとも目を離さなかった。爬虫類の金色の瞳は期待に早くもウルウルしているし、左手に持ったスプーンが震えている。
ドーラさんの目の前で、ケチャップライスの上でフルフルと揺れているオムレツにカトラリーのナイフを入れると、
「フワァ~」って声がドーラさんの口から漏れ出てくる。
トロットロのオムレツがケチャップライスの頂上から周囲に流れ、オムレツの中に閉じ込められた熱が湯気となって香りを運んでいくとドーラさんの体に震えが走る。
スプーンでケチャップを黄金色にテラテラと輝く芸術の上にかけ回して、一言。
「ご注文のオムライスです、熱いうちにどうぞ」
ドーラさんは震える左手でゆっくりとオムライスをすくい、スプーンを口元へ運び、なおも2,3回呼吸した後に意を決して口の中にオムライスを入れる。
オムライスを載せたスプーンを口に入れたまま動きが止まり、ドーラさんの頬をボロボロと涙が流れていく。
いつの間にか集まっていた客が心配そうに、「姉御!」とか「しっかりしてくだせぇ」とか声をかけている。
「あなたお姉様に何を食べさせたのよ!」気がつくとオレのすぐ隣にいたロサーヌさんが突っかかってきた。
「ただのオムライスですよ」とオレの皿からスプーンですくってロサーヌさんの口に運んであげる。
「はうん❤おいしい♪ 美味しいけどなんでお姉様はあんなになってるのよ?」
「さぁ、なんででしょうね?」オレに人の気持とか代弁できないしね。
隣に座っていたラウラさんが両手でドーラさんの肩を揺すって「ドーラ!ドーラ!」と呼びかけている。
ゆっくりと口がモグモグと動き出したかと思うと、「トロットロのフワッフワやぁ...♥」
すっごい無防備な表情で子供のような笑顔を見せるドーラさんが幸せそうにオレの作ったオムライスを食べている。
こんな幸せそうに食べてくれたら、料理人としてこれ以上ない喜びだし、オレの胸の中もヤバい程に熱くなってきてる。
オレもチョロイなぁ。惚れてしまったじゃないか。
一心不乱、周りの声も注目も一切無視してひたすら食べる。そしてとうとう最後の一口を飲み込み。
「おかわり!」ドーラさんはのたまった。
周りから、「こっちにも同じのをくれ!」という声がたくさんかかるが、無視。
オレにはドーラさんしか見えないんだよ!
「では、キッチンに行って作って来ますので、その間にサラダをどうぞ。これは、シーザーサラダと言って、豊かな香りと様々な歯ごたえを楽しんで下さいね」
早速キッチンに戻り、新たに3皿作ってくる。
1皿はキッチンの皆に試食用に、そしてドーラさんのために2皿。
ドーラさんならもう2皿くらい食べれそうだしね。
「このサラダもとてもおいしかったですわ。レタスのシャッキリした歯ごたえにクルトンのサクっ、ベーコンのカリッ、チーズの華やかな香りとニンニクの香ばしさ、そしてそれらすべてをまとめる、まろやかでいて酸味のあるドレッシング。こんなの初めて食べました」
テーブルについたら、ラウラさんがサラダの感想を述べてくれた。
ドーラさんは早くも3皿目に突入している。
サラダもだけど、全ての食材が味がしっかりしている。卵の黄身は濃厚だし、コスレタスも水っぽくなくて味わいがある。
これはいい所にきたな。これらの食材を使ってどんな料理を作れるかすごい楽しみだ。久しぶりにもっと料理したくなってきた。
「ヒロ、最上級の感謝をあなたに捧げる。心にポッカリと空いていた穴が埋まりこれ以上ない気分じゃ。ワシでできる事なら力になるので何時でも頼ってくれ」
結局、オムライスを計3皿完食したドーラさんは非常に満ち足りた表情をして、金色の爬虫類の瞳が優しくみえる。
「それならドーラさんの魔法を教えて下さい。キッチンの魔法の設備も全てドーラさんが提供されたと聞きました。ここに来るまでにラウラさんに教わって簡単な魔法が使えるようになったので、ドーラさんの魔法も是非使えるようになりたいんです」
それを聞いたドーラさんとラウラさんの二人の表情が曇ってくる。
「ドーラの魔法は覚えるのが難しいかもしれません。あの魔法はダイスケ様の魔法で彼の子供達以外は習得するのに非常に高度な魔法の知識を必要とするのです。ダイスケ様の魔法はスキル【魔法作成】によるもので、魔法陣も呪文も必要がない魔法なのです。ダイスケ様はそのスキルによって今まで存在しなかった魔法を沢山作られたのですが、その魔法に必要な術式等が一切わからないので教えられないのです。私はダイスケ様の医療系魔法をほぼ覚えましたが、ダイスケ様が魔法を発動されるのを見て解析して自分でも使えるように組み立てたのです」
「じゃぁ、ドーラさんの父親って...」
「うむ、ダイスケ様がワシの父様じゃ。そしてケイタが兄上であるな」
「この人間形態で交尾すれば人間との間に子供が作れるぞ。そして親のスキルの劣化版を子供は受け継ぐ可能性が高いのじゃ。そのおかげでワシと兄上は新たに魔法を作り出すことはできなくても、「ダイスケ様の作成された魔法」を使うことはできるのじゃ」
だからダイスケさんの子供でもないし、魔法の知識もないオレにはドーラさんの魔法は習得するのが非常に困難ってことですね。
「ですが、ヒロさんには【模倣】があります」
「先ほども魔法の知識など一切ないにもかかわらず、見様見真似で魔法を成功させました。いくら私が魔力の動かし方を教えたと言っても、あんな風に魔法が使えるようになるものではないのです。もしかしたらですが、ダイスケ様と同じ転移者のヒロさんにならドーラの魔法が使えるかもしれません」
ニッコリとこちらに微笑むラウラさん。
「それよりも、ヒロさんには魔法よりもっと重要な事がありましてよ?」
?なんだろう?よれよれの服か?この世界の常識とかか?
オレの方を見てニヤリとしながらこんな事を言いやがった。
「ドーラに抱きしめられても大丈夫なようにもっと体を鍛えないといけませんわ」
コイツ、気づいてる!さっきの表情を見られたのか!?クソ!油断もすきもねぇ。
「そうじゃな、ワシの力が強いのもあるが、ヒロはもうちっと鍛えた方がよいな。早速明日からワシとトレーニングじゃな」
ドーラさんまでウンウンとうなずきながら肯定してる。
「あら、よろしかったじゃないのヒロさん。2人っきりでトレーニングなんて。うらやましいわぁ」
クッ、このアマ、こんな性格だったのか!
「ありがとうございます。残念ながらラウラさんはお腹にお子様がいらっしゃいますから無理できませんからね。その間に私とドーラさんで魔法的にも体的にも2人で理解を深めさせていただきますね」
おおう、ラウラさんの目が人を殺せそうな目になってる。
「お姉様!マッシモ様をお連れいたしました」
ラウラさんと視線の応酬をしていたら、いつの間にかロサーナさんがハゲかけた髭面の男性を連れてやってきていた。
「ドーラ様、ご苦労様です。そしてお連れの方々。初めまして、俺がこのカリンバ村の村長をやらせていただいているマッシモ・ゴンザレスだ」
ニヤッと迫力のある笑顔を見せながらオレの隣にドッカと腰掛けた。




