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こじらせて異世界  作者: 暖目直視
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日本人がいたみたい

死にかけて、再びラウラさん治癒魔法、ドーラさん土下座、オレ許す、のローテーションを繰り返した後に皆で南の海上に行くことになった。


なんとなくわかってはいたのだが、やはりドーラさんはさっき見かけたドラゴンだった。

両腕を天に突き出すと姿が赤い光に包まれ、次の瞬間にはあの巨大なドラゴンがそこにいた。

レッドドラゴンというのだろうか、全身を赤いウロコで覆われていて、お腹と翼の下側が黒くなっている。頭には人間の時にあったモノを巨大にした2本の太くて立派な角が目の後ろから生えていた。


ドーラさんドラゴンが姿勢を低くするとラウラさんは慣れた感じで前足を登って背びれに手をかけて首の付け根に腰かけた。

オレもあとに続いて登り背びれを隔てた反対側に座った。

鞍とかないけど大丈夫なのだろうか?空飛ぶってかなりスピード出るんじゃないのか?空気抵抗とかも半端なさそうだし、上空は気温だって低いだろうし、それに空から落ちたらそれこそ助からないぞ。


「心配しなくても大丈夫ですわ。ドーラの魔法で快適な空の旅をお約束ですわ」


オレがあまりにも不安そうな顔をしていたのだろう、ラウラさんが説明してくれたけど、ラウラさんの顔も非常にシリアスだ。

なんだろう、ちょっと睨まれている気がしないでもない。オレ何かしたか?したのかも?でもまぁいいや。


『それでは、参るぞ』


ドーラさんは翼を広げて軽く羽ばたくとあっという間に上空へと飛び立っていた。


後ろを振り返るとさっきまでいた神殿がみるみるうちに小さくなっていく。

乗ったことなかったけど、飛行機もこんな感じなんだろうかと人生初の飛行体験に心躍るヒロ。

はるか下は海で、目印になるようなものは何もないが、どれくらいのスピードで飛んでいるだろう。

おかしな事に空をとんでいるというのに体に風を全く感じないのだ。自転車ですら全力で漕げば顔にけっこうな強さの風を受けるのに、これがドーラさんの魔法なんだろうか?


「ドーラさん。一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


『なんじゃ、ゆうてみよ』


「空を飛んでいるのにどうして向かい風を感じないんでしょうか?」


『魔法じゃ。魔法でワシの体の周りに防御シールドを張っておる。この速度で飛行していては普通の人間は息もできないし、飛んでる鳥などがぶつかったら危険なのじゃ』


『しかもじゃ、本来ならこの高度だと酸素も薄いし気温もかなり寒いはずじゃ。だが寒くなかろう?息苦しくなかろう?さらに、飛行中でもワシの上を歩き回れるぞ。それもこれも全てワシの父様が騎竜用に開発した魔法のおかげなのじゃ』


なんていたれりつくせりな魔法なんだろう。飛んでいるドラゴンの上を歩けるとか。

オレにも魔法は使えるのかな、使えたらいいな、いや、魔法の一つも使えるようにならなければいけないな。

あとでドーラさんに魔法を教えてもらおう。


1時間ほどだろうか、ひたすら何もない海上を進んだ辺りでドーラさんがスピードを緩めて旋回し空中で完全に停止した。


羽ばたく必要もないのか、ドーラさんは翼を軽く上下させるだけなのでとても静かだ。


しばらくすると、隣から荒い呼吸と鼻をすするような音が聞こえて来た。

もしかして、ラウラさんが泣いているのか?


「戻ってくるって言ったじゃないの!なんで連れて行ってくれなかったのよーーー!!!」




飛行中にドーラさんが事の顛末を教えてくれた。

ダイスケさんという日本人が約300年前にこの世界に転移してきた。

彼は圧倒的な魔力で当時この辺りの国々を蹂躙していたモンスターを駆逐した。

助けられた国々は彼を貴族として迎えようとしたり、新しい宗教の教祖としてあがめたりしたが彼はどの国にも属さなかった。

その後、このヒロ達が飛んできた辺りにあった大きな島に魔法都市を建設し、従来の魔法の常識を覆すような新しい魔法を開発した。

ラウラさんは北にあった王国の第3王女様で、魔法の才能が認められて魔法都市に留学に来た。

そこで、ダイスケさんの息子のケイタさんと知り合って結婚。

ダイスケさんはどうしても日本に帰りたかったらしく、異世界へ転移する術を研究していた。

しかし、転移の実験が暴走して愛する奥方様が巻き込まれて消えてしまった。

その日からダイスケさんは狂気に取り憑かれたように研究に没頭して大規模な事故をいくつも起こすようになった。

そしてとうとうあの日、魔法都市のあった島も含めて丸ごと、この世界から消え去ってしまった。

ケイタさんは最後までダイスケさんを正気に返らせようと努力されていたが、一緒に何処かへと行ってしまった。

ラウラさんは運命を共にしたかったけど、ラウラさんが妊娠していたのでケイタさんにあの神殿で眠らされた。

ドーラさんは守護の役割を与えられて、300年もの間ケイタの帰りを待っていたと。


「必ず戻って来るから、なんて、嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき...」

「僕の子供を危険にさらせない、なんて、私の気持ちはどうなのよ?結局は自分の事しか考えてないんじゃないの?クッ、悔しい、私騙されたのね...」


プラチナブロンドに白いローブのラウラさんからドス黒いオーラが見えるんですが。


『申し訳ないのじゃ、うちの兄上のせいで、ラウラ様を苦しませて...』

気の強そうなドーラさんがシュンとしてる。でも兄上って?


「何を言うの!ドーラ!あなたも被害者じゃない!あの人に頼まれて300年も私を守ってたなんて...あんな何にもない場所でずーっと一人だったなんて。きっと毎日が寂しくて涙した日もあったでしょう。私だったらって想像するだけで気が狂いそうだわ。いくらドラゴンが長命種だからって若い時の300年をあのバカ親子のせいで無駄にしちゃって...愛想を尽かして私の事なんか放っておいてもおかしくなかったのに、あなたはちゃんと私を守ってくれていたのよ。申し訳ないのと思うのはこっちよ...」


ラウラさんは目に涙を溜めながら訴える。


『いや、あの、その、ワシの方はな、それなりに、だが、ほら、そうじゃ、そろそろお腹も空いてきたではないか。美味い物でも食べれば少しは落ち着くじゃろう。神殿の近くに懇意にしておる人達がいるので、そこでヒロにオムライスを作ってもらうのじゃ」



「はぁ、あなたは本当に食いしん坊さんになったのね。そうね、もう色々ありすぎて悩むのもバカみたいですわ。あの人への恨み恨みは後にしてご飯にいたしましょう」


「ところで、ドーラ。どうやってその人達とお知り合いになったの?」


『いや、まぁ、成り行きというか、なんというか、モンスターに襲われていた人間を助けたら感謝されてな。ほら、ラウラ様が妊娠されているのは知っておったからな、安心して出産できるように仲良くしておったのじゃ、うん、では行くぞ』


周りに何も見えない広い海の上で、太陽でも目印にしているのか、迷うことなく目的地へと飛んでいくドーラさん。


それにしても人助けをしてたのか、やっぱりドーラさんはいい人なのだな。

しかし、言葉の端々に”それだけではない”雰囲気が漂っているんだが、それはスルーしたほうがいいみたいだ。

隣を向くとラウラさんもちょうどこっちを見ていて、その表情からどうやら同じ印象を持っているらしい。


ラウラさんが話題を変えてくれた。

「では、その人たちの所へ着くまでヒロさんにお伺いしたい事があります。スキルに関してです。ダイスケ様はこの世界に転移するにあたって神様から3つのスキルをいただいたとおっしゃってました。【言語理解】、【収納空間】、【魔法作成】の3つです。ヒロさんは私達と会話ができているので、ダイスケ様と同じ【言語理解】を持っているのは間違いないようですね。後はどのようなスキルをお持ちですか?」


スキル?そういえば、収納とかなんとか言ってたけど、なんだったんだろう?っとスキルの事を考えていたら頭に浮かんできた。


【言語理解】

【収納空間】

【模倣】


「どうやら【収納空間】と【模倣】のふたつです。ただ、どうやったら使えるのかはわかりませんが」


「【収納空間】もダイスケ様と同じなんですね。非常に便利な能力ですよ。色々な物を亜空間の中に収納できるスキルなので、荷物の心配をする必要がないのです。ダイスケ様はお屋敷の物を丸ごと収納できてましたわ。確か、『収納』と頭の中で念じれば物の出し入れができるはずですが」


『収納』っと、あれ?何かすでに入っている。牛刀だ。なんでこれが入ってるの?右手で牛刀を持つイメージを頭に浮かべたら既に牛刀を持ってた。


「ヒロさん、ナイフなんて取り出して何の真似ですの?」

ラウラさんの冷たい声に、マズいと思い、すぐに牛刀の黒い柄をラウラさんに向けて渡す。


「オレもこれが入っているのを知らなかったんですよ。あの嘘か本当かわかる魔法がまだ有効だったらいいんですが?今、ラウラさんに教わったように頭の中で念じたらこの包丁があるのがわかったんです」。信じて下さいと必死に目で訴える。


「フフフ、私もまだ緊張が溶けていないようですわ。これは、とても切れそうな包丁ですね。お返ししますから収納しておいて下さいね」

軽く微笑んで返してくれた包丁をすぐに『収納』してしまう。うん、これでこのスキルの使い方はわかった。


「【模倣】はどうすれば使えるんでしょうね?やはり、頭の中で念じるのでしょうか?」


「模倣というからには、何か模倣する対象が必要じゃないのかしら?今から簡単な魔法を使うのでよく見ていらしてね」


ラウラさんが右手を指揮者のように振るうのは先ほどの嘘かどうかわかる魔法と同じなのだけど、ぼんやりとした光がラウラさんの体を巡っているのが見える。その光が右手の人差し指の先に集まっている。

その人差し指が複雑な幾何学模様の図形を宙に描き、

≪生成:真水≫

の、言葉と共に図形に『力』がこめられた。


今や、ラウラさんの右手の上には大きな水の塊が浮いている。


「どう?今のがなんのへんてつもない真水を作り出す魔法よ。いつもよりゆっくりと魔力を動かして、魔法陣を描いてみたけど。模倣できるかしら?」


わかる。あんなに複雑な図形だったのに、一度見ただけで同じ図形が描けるとわかるのだ。右手の動かし方もそっくりそのまま真似できる。

ぼんやりした光がどう移動したのかもわかる。だが、どうやってそのぼんやりとした光を動かすのかがわからない。


試しに先ほどのラウラさんの動作だけを真似して見せた。けど、水は現れなかった。


「魔力を使っていない以外はほとんど完璧ね。あなたにはけっこうな量の魔力があるのだから、あとは魔力の使い方さえマスターすればすぐにでも魔法が使えるわよ」


「なにかぼんやりした光のようなモノが、ラウラさんの体を移動していたのは見えたのですが、自分の体でどうやるのかがわからなかったんです」


「あら、そんな所まで見えていたの?魔力を使った事がないから動かしようがないって事なのね。それならいい方法があるわ。手を握って下さる?私の魔力をあなたの中で循環させるからそれで魔力を動かすコツを掴みなさい」


ドーラさんの背びれごしにラウラさんと両手を繋ぐ。

こんな美人の手を握るなんて、普通の男ならうれしい場面なのだろうけど、オレはなんというか、人に触るのが苦手だったりする。他の人の生温かい体温を感じるのが気持ち悪いのだ。

殴られるのは一瞬の接触なので全く問題ない。痛いけど。ずーっと接触してると、その場所を通じて体温だけでなく何かジワジワと自分の体に侵入してくる感じがするのだ。

そして、そんなオレの感情は簡単に相手に伝わってしまうわけで。


「ウフフ、そんなに嫌がらないで下さいな。かわいらしい所もあるのですね。少しの我慢ですから。では、始めますね」


あれ?失礼ね!とか言われるかと思ったのに。なんか予想していた反応と違うけど、はい、我慢しますよ、魔法のためですから。


ラウラさんの右手からオレの左手にナニかが流れ込んできた。左手の血管の中を血液以外のナニカが巡り始めている。普段はどこをはしっているかなんて意識したこともない太い血管、細い血管その全てを伝ってナニカが体を巡る。そのナニカがお臍の辺りに到達した時にナニカがブワッと体の中心から広がって行って全身総毛立った。見ると鳥肌も立って、頭髪も剣山のようになってる。そして、オレはそのナニカを知った。今まで気づかなかったのが不思議なほど、そのナニカを自然に捉えていた。


『おお、ヒロの魔力の力強い波動を感じるぞ。』

「あらあら、本当にスゴイですわね。もう一度呪文を唱えてみなさいな」


ラウラさんの手を放して、先ほどのラウラさんの呪文を模倣する。体内の魔力の動きも含めて。

そして力をこめる。

≪生成:真水≫


オレの手の上の水の塊は大きすぎたようで、オレの頭も含めた上半身も水の中に入ってしまった。

あわてて右手を振るったらその水が下に落ちて俺は全身濡れネズミになってしまった。


「あはははは!あなた、魔力をこめすぎですわ!」ラウラさんは笑われてしまった。

『ヒロ、ワシは水浴びは寝る前と決めておるのじゃ。』ドーラさんからも愉快そうな感じが伝わってくる。


オレも苦笑いしつつ、魔法が使えた喜びに顔がほころんでいくのだった。




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