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もう一人の俺が現実世界にログインしました。

 はじめは、パソコンの不調だと思った。

 急に画面がブラックアウトしたから。

 かと思えば、目の前で打ち上げ花火がうち上がったような衝撃と光。だいぶ不良品のパソコンだと思った。

 

 しかし、どうやら違うようだった。

 強いて言うならば、世界の不調バグだろうか。


「え、え、え、え」


 情けないことに、そんな言葉ともいえないような声を発しながら、俺はずず、と椅子から滑り落ちた。光と衝撃はすごかったが、五体満足のようだ。 

 

「な、なんだここはっ」


 俺と同じく、焦ったような上擦った声を上げる奴が一人。

 俺のパソコンのキーボードの上に堂々と立っている。たぶんもう、使い物にならないだろう。ご臨終。

 光のせいで、まだ目がチカチカして、人影くらいしか見えず、細部ディテールまではわからない。声から判断すると、女か……?声の高い男、とも推定できるが。

 その人影は、すた、と華麗に机から降り立つと俺に手をさしのべた。

「大丈夫か、けがはないか?」

 なんてジェントルマン。(男かはわからないが)

 その手を素直に掴み、引き上げられて立ち上がる。すると。

「……お前……っ」

 相手が、愕然、そんな声音で小さく叫んだ。言葉を失うほど俺が醜かっただろうか。泣くぞ。

 ようやく目も復活し、礼を言おうと正面に立つ顔を見ると。

 

「なっ…………お前!」


 奇しくも、似た反応をしてしまった。

 無理もないのかもしれない。


 目の前にいたのは、俺がついさっきまでやっていた、オンラインゲーム―アークドラグーン・オンラインの、キャラクター…。

 ―つまりはゲーム内の俺だった。


 女装趣味とかなわけではないが、半分ふざけて 

女キャラにしたため、俺をそのまま凛々しい女顔にしたような造形で、まるきり同じではないが、まあ、そっくりだろう。まるで鏡写しだ。

 髪が長いだけ、その程度の違いしかない。

 

「同じ顔………だと?。貴様、さてはミミクリープラントか?!」


 ゲーム内のモンスターと勘違いされてしまった。向かい合った俺は、華麗なバックステップで俺から距離をとると、腰に差していたサーベルを抜いた。

「まて、まて!!俺は敵じゃない!俺はおまえなんだよ!」

 多分。

 とりあえず、殺されてはたまらない。両手をばたばたみっともなく振って、自分が無害だと示す。

 「…ふむ……。たしかにその構え、ずぶの素人のようだな」

 意外と口が悪いな。 

 何はともあれ、俺が無害だと信じてくれたらしい。サーベルは納めないが(しまってくれ)敵意とかは感じない。


「しかし、俺はおまえというのは、どういうことだ?さっぱりわからない。わたしはゲートに入って、新たなダンジョンへ向かうつもりだったのだが」

 それは俺も知っている。

 アップデートによって追加されたダンジョンを攻略中、ワープできるゲートを発見したために、入ったのだ。そこで、俺のパソコンさんが変になり、俺がやってきていた。

 しかし、俺、俺というのはややこしいな。

「うん……えーと、まず自己紹介しようか」

 相手の名前はもちろん知っているが、社交辞令というか、こういうのは大事だと思う。

「ふむ。そうだな」

 ここでやっとサーベルをしまってくれる。納得してくれたようだし。何せ相手は俺を知らない。

「俺は、こちらの世界の学生で、真宮継実」

 学生はゲーム内でも存在したので、理解できるだろう。

「うむ。ツグミか。私はドロッセル。職業は、召喚士だ。」

 ドロッセル。ドイツ語でツグミと言う意味だ。名前とか考えるのが面倒だったので、だいぶ安直だが、結構かっこいいと思う。

 召喚士、という職業は何となく決めたものだが、気に入っている。精霊ってわりと美少女が多いしね。 

 自己紹介が終わったところで、沈黙が降りる。困ったな。ちらちらと互いに視線を交わらせずにさまよわせる。聞きたいことはたくさんあるが、どうしたものか。先に口を開いたのはドロッセルだった。

「ツグミ。聞いてもいいか、ここはどこだ。個人の居室、と見受けるが間違いはないか?」

 今気がついたが、随分と硬い物言いをするなこいつ。口調まではゲームのキャラメイクで弄れないので仕方ないが。

「え、うん、ここは俺の部屋」

「ふむ。ダンジョンからこうも平和的な場所に移動するのか……」

 思案顔。まあ、話の流れ的にもここらで、ここがゲーム世界ではないと話しておこう。

「俺からいいかな」

「うむ。いいぞ」

 なるべくわかりやすく、簡単に説明する。

 ドロッセルは俺がやっていたゲームて、俺が操作していたキャラだということ。

 ドロッセルたちが居た世界はこちらにとっては想像の産物だということ。

 などなど。

 自分でもまだわからない部分が多いので、辿々しさはあっただろうが、時折相づちを打ちながら、ドロッセルは最後まできちんと聞いてくれた。

「なるほど。つまり、ツグミたちのすむこの世界では、私や、もと居た世界は幻想であるということだな。そして、なんらかの影響によって、私は向こうからこちらへ来てしまった、と」

 うんうん。

 「しかし、私にとって向こうの世界は確かに存在して居た世界だ。幻想などではない。いや、ここな認識からもう創られたものなのか…………?」

 何だか、存在にまで考え始めてきりがなくなりそうなので、中断させて話を進める。

「まあ、とにかく。向こうに戻れる方法を探してみよう。」

 当座の目標はこうだな。それ以外無い。

「そうだな。周囲の人にばれるのも大変だろうし」

 ツグミはやたらと物わかりがいい。助かる。

 そもそも召喚士というのは、職業選択の際、知能のステータスが一定以上でないと成ることができない割とハイランクな職業なのだ。それがこうして現れているのかもしれない。

 話がいったん落ち着くと、ドロッセルは部屋をうろうろし始めた。

「わたしはこの箱から出てきたのか?」

 俺の愛用パソコンを撫でながら、ドロッセルが聞いてくる。

 オンラインRPGの世界観は大抵が中世ヨーロッパなどと似て作られているし、アークドラグーン・オンラインも同じだ。

 だからパソコンなんて知らないんだろう。

「これはパソコンっていって、いろいろ便利な機械なんだ。デリケートなものだから、気をつけて」

「ふむ、わかった。ツグミはこれを使ってわたしを操っていたのだな」

 その言い方、俺が悪いみたいだな。本人にそんな気はないのだろうけれど。

「しかし、不思議なものだな。わたしたちの世界にこうやって入ってきていたためか、ツグミとはあまり、初対面のような気がしないのだ。まあ、もとは同じ人間、みたいなものだからだろうか」

 それはたしかに、あるかもしれない。

「まあ、いい。今夜はここに泊めてもらおう。かまわないか?」


 え。なんですって?


「ツグミの格好や話を聞くと、私のこの服装はこの世界にそぐわないようだからな、外をうろつく訳にいくまい。わたしは、こちらの世界を全く知らないのだ。だから今夜はここに泊めてもらって明日から本格的に行動をしようと思うのだが…………」

 両手を広げて自分の体を見下ろすドロッセル。たしかに、ゲーム内の装備そのままではただのコスプレイヤーでしかない。たしかに外に放り出せはしないが。

 ほぼ同一人物だろうが、さすがに、現役男子高校生俺が、異世界の女子(俺)と2人ってのはいかがなものか…………。

 悶々としていると、ドロッセルはなんだか、じょじょに悲しそうな顔になる。

「やはり、迷惑だろうか……」

 そんな風に言われたら。

「全然大丈夫!!」

 そういうしかない。

  

 

 

  

 

  


 

 

 

 

   


 


   

 


 

  

  


 

 


 

 

 


 

 

 

 


 

  


  

 

 


 


 

 


 

 



 


 




 

 

 


 

  

 

  


  


 

ここまでよんでいただきありがとうございます。

不定期更新になってしまうと思いますが、これからもよろしくお願いします。

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