1【リア充爆発しろ】
ぼちぼち書いていきます
「ね…キス…しよ」
目の前に近づく男の顔。
吐息が俺の顔にかかる。
絶体絶命の気持ち悪い状況。
「…や、やめてっ」
俺はとっさに相手を突き飛ばす。
「…っ」
傷ついたような相手の表情に、心が少しチクッと痛む。
相手と俺の体の人は確かに付き合っているのだから…申し訳ない。
だが、今はこうするしかない。
彼女と俺の心が入れ替わってしまった今…。
彼女の体であるとしても、心が俺な限り…男とキスなんてできるわけがない。
ていうか生理的に無理!
〜二日前〜
「小雪と昨日デートしたんだけど、もう可愛すぎて俺死にそうだわ」
中学三年生の中間テストが無事終わり、俺の親友である深月が早々に話しかけてくる。
日本人とイギリス?のハーフの深月は、ブロンドの短髪に黒い瞳、異常に整った顔立ち…という、いかにもモテそう(笑)な容姿だ。
正直、リア充爆発しろ。
と、それはいいとして、先程から深月が目を輝かせて語るご自慢の彼女、小雪ちゃん。
彼女はこの学校の超のつく有名人だ。
今じゃあ、この学校では『容姿端麗、文武両道の才兼美女』それが彼女を表す言葉になっている。
文武両道かは知らないが、長い黒髪と青みがかった黒い瞳が印象的な、the日本の美女だったと俺は記憶している。
「…あ〜よかったな、うん」
正直羨ましいので、皮肉たっぷりに返してやる。
まあ、深月に皮肉は通じないのだが。
「黒木も彼女作らないと…もうすぐ夏休みになっちゃうぞ〜?」
にやけ顔でこちらを見てくる深月。
「うるせー」
俺は深月の鼻をつまんでから頬杖をつく。
俺だって彼女が欲しいとか、彼女作んなきゃとか…頭では理解してるんだ!
だけど、俺は生まれて此の方もてた試しがない。
黒目黒髪、黒縁メガネ。
これが俺を表す言葉であり、モテ要素が一つもない。
深月に叶うことといえば勉強くらいだし…ああもう、神様って理不尽だ!
「深月くん…!」
ほうけていた俺の耳に、唐突に可愛らしい声が響く。
「お、小雪じゃん…!どうしたんだよ〜」
気持ち悪いくらい笑顔でかけよっていく深月を見ながら、俺はげんなりとする。
噂をすればなんとやら…。
とりあえず、恥を捨てて会話に耳をすませる。
「あのね、お弁当作ってきたの…!今日はテストが終わっても、午後は授業でしょ?」
「うわ!まじか、もうすぐ昼飯の時間だからすっげー嬉しい」
「あ、味は保証できない…ですよー?」
「いやいや、絶対うまいって!黒木にも分けてやらないとな〜こんなあるんだし!」
「うんうん、お友達と食べてね…!じゃあまた後で」
「おう!後でな」
リア充が。
聞いておいて俺は腹が立つ。
だけど、お弁当を分けてもらえるらしいので何も言わないでおこう。
「黒木〜、弁当もらったから、くおーぜ!」
「ありがたく頂きます」
箸を構えた俺の前で弁当のフタが次々に開けられていく。
なんだ…この美味そうな弁当は…!
なぜかキラキラしているように見える。
定番の卵焼きや唐揚げ、たこさんウインナー…家庭感あふれる肉じゃがや金平ごぼう…そしてデザートにはフルーツまで切ってある。
「い、いただきます」
「おう、くえくえっ」
何の躊躇もなくパクパクと頬張る深月に対して、俺はなぜか緊張しつつ一口……。
「うまい!!」
そして感動した。
見た目だけじゃない…!なんてうまい味付けなんだ。
これが中三女子の作った産物なのか!?
どうなってんだよ、小雪ちゃん!
心の中で俺は猛烈に叫びつつ、小雪弁当を完食した。
*****
「じゃあ、ちょっと俺、先生に呼ばれてるから。小雪が来たら待つように言っといてくれな!」
「ほいほい」
放課後の教室。
夕焼けのせいでどこかロマンチックな教室。
そこで俺は一人、親友の彼女のために待ちぼうけする。
することもなかったので、俺は机の上に腰をかけると、一人ブラブラと足を揺らす。
「…あの…」
いつに間にいたのだろうか。
気づけば教室の入口に、小雪ちゃんが立っていた。
「あ、深月なら先生と今話してるから、ここで待ってろって言ってたよ」
「あ!そうですか、ありがとうございます!」
「うん、じゃあ俺は帰るね。あ、お弁当美味しかったよ、ごちそうさま」
「…!よかった!」
俺と出会ってから初めて見せる笑顔。
少し遠慮がちに微笑む顔に、キュンとしてしまう。
多分、健全な男子なら誰でも。
「あっ、じゃ、じゃあ帰るね」
俺は少し焦りつつ、教室を出かけて…手を掴まれた。
「あっ…!すいません。深月くんが来るまで暇なので…よかったらお話でも、と思いまして…!」
意外な積極性というのだろうか?
多分、こういうのがモテる要素なんだろう。
「うん、いいよ」
俺は内心少し喜びつつ、頷く。
ここで断るわけがない。
「あ、私は冬野小雪。B組です」
「俺は黒木星夜。見てのとおりC組」
「セイヤってどのような字なんですか…?」
「星に夜って書いて星夜って言うんだ。ちょっと、かっこつけた名前でしょ?」
「いえ…!綺麗なお名前です…!」
本心から言っているんだと…そう思えるような優しい表情に、俺はまたときめいてしまう。
よく考えれば、こんな綺麗な子と二人きりなんて、早々ないことだろう。
「小雪って名前、俺結構好きだけどね。そういえば…小雪ってなんか大人っぽ…ん」
小雪ってなんか大人っぽいよね。
そう言おうと、振り向きながら言った言葉は…彼女の唇によって遮られた。
え…………?
「ん…ちょっ、ちょっと何するんだよ!?」
俺は激しく動揺して、彼を突き飛ばした。
「え…?」
そこで、俺は更なる動揺におちいる。
「な、なんで俺が目の前に……」
後ずさって尻餅をついた俺に、自分の体が目に入る。
制服の上からでもわかる膨らんだ胸部、スカートから覗く白い細い足…。
「お、おんな…!?」
そう叫んだ声すらも、透き通るような女声になっている。
そこで、目に前にいる俺は申し訳なさそうに頭を下げて言った。
「ごめんなさい。これから星夜さん…あなたの体を使わせていただきます…。事情は…まだ言えません」
「な、なんだよそれっ」
叫ぶ俺から逃げるように、俺の体は教室を出ていってしまう。
俺はといえば腰が抜けたまま、ただただヘタリこむことしかできなかった。
突然のことすぎて、頭がついていけていない。
「……やだ…返してよ…」
声を押し殺すように、俺は泣いた。
フラッシュバックするのはキスシーン。
そして、あの魅力的なキス。
だが、その全てが…混乱に打ち消された。
ちなみに、作者はくりぼっちらしいです
※くりぼっち=クリスマスぼっち=クリスマス一人=寂しいやつ