桃太郎についての考察
桃太郎。何なんだこの物語は。
誰もが一度は考えたことがあるだろうが、突っ込みどころが多すぎる。
パッと思いつく限り、主に以下の点が挙げられる。
1、巨大な桃に疑問を持たず食そうとする老夫婦の食い意地
2、不審な赤子を育てる並外れた慈愛精神
3、突如鬼退治に行こうとする不可解な発想
4、犬、猿、雉の、不当な報酬形態
5、敵の本拠地に正面から突入する無謀な作戦
6、桃太郎一味の異常な戦力
7、いったい鬼が何をしたというのか
以上の点に対して、個人的視点で紐解きを行ってみようと思う。
まず、『1、巨大な桃に疑問を持たず食そうとする老夫婦の食い意地』だが、これについては、それだけ生活が貧しかったことが窺える。
つまり、疑問や警戒心より食欲が先に立ったのだ。事実、お婆さんは運ぶのに苦労するであろう巨大な桃を気合で家に持ち帰り、躊躇なく包丁を入れている。
見落としがちだが、ここには独り占めせずにお爺さんにも食べさせようという美しい夫婦愛が見て取れる。
なおよく話題に上がる、『桃を切る際に桃太郎が無傷なのはおかしい』という指摘についてだが、これについては俺の見解と相違している。
そもそも考えてみてもほしい。赤子が入るほどの巨大な桃を、老婆がたかが刃渡り十数㎝の家庭用の包丁などで一刀両断できるだろうか?
そんな腕前を持っているのなら、ババアが鬼を退治すべきだ。
普通に考えりゃ切り分けるだろ。
つまりこれは、卵が孵化するように、内側からの力によって割れたと考えるのが妥当と言える。
話を元に戻そう。
次に『不審な赤子を育てる並外れた慈愛精神』だが、前述した通り老夫婦の家計はかなり厳しい。赤子を一人養うだけでも大変な負担だろう。
その上、桃から出てきた人間を受け入れること自体が常軌を逸している。
普通の感覚であれば、お婆さんはリアルに腰を抜かすだろうし、お爺さんはクワでも持って物の怪の類いかと警戒することだろう。
しかし、何故老夫婦はすんなりと桃太郎を育てることにしたのか。
ここでは老夫婦の家族構成が重要となる。
この時代であれば、子供をこさえることは当たり前であり、息子夫婦と同居が一般的である。
しかし、老夫婦は二人暮しだ。娘が嫁いだということも考えられるが、時代背景から考えて戦で息子が戦死したとすれば色々と合点がいく。そう、彼らは寂しかったのだ。
かくして新しい家族を迎えた老夫婦の第二の人生がスタートした。
貧しくも美しい家族愛がそこには確かにあったはずだ。
……しかし、平和な日々はそう長く続かなかった。
そう、桃太郎の『3、突如鬼退治に行こうとする不可解な発想』だ。
この奇行とも取れる桃太郎の発言を老夫婦は何故か快諾。正気の沙汰とは思えない。
しかも、お婆さんの作った旗には「日本一」とまで書いてあり、能天気の極みと言わざるを得ない。とんだ親馬鹿である。
そもそも、桃太郎はまだ成人すらしていないただの小僧だ。それが唐突に鬼退治だなんて、誇大妄想の気があるとしか考えられない。
だいたい爺も爺だ。何を装備まで身に付けさせて気持ちよく送り出しているのか。
少年が単身で鬼の討伐など、自殺行為以外の何ものでもない。そもそも貧しい生活の何処にそんな武器が隠してあったというのだ。
彼の行いは現代であれば、自殺幇助の罪に問われてもなんらおかしくない。
勇気と無謀は違うのだ。
しかし、ここで一つの可能性に思い当たった。
老夫婦は話しの冒頭からすでに高齢であったことが窺える。桃太郎が如何に成長が早いとはいえ、そこから何年を費やしたのだろうか。
当時の平均寿命を考えれば、桃太郎の鬼討伐発言時のお爺さんとお婆さんは、超高齢者と言える。
……そう、認知症の可能性を否定できないのだ。
そう考えれば、鬼に対しての異常なまでの意識の低さも納得がいく。
また、桃太郎にしてもそんな育ての親を見て不憫に思ったのかも知れない。
もっといい暮らしをさせてやりたいと思ったのかも知れない。或いは、徐々に体が不自由になっていく老夫婦をみて、生活に限界を感じていたのかも知れない。
そう、彼は鬼の財宝を目当てに出稼ぎに行ったのだ。
学歴社会などとは程遠い時代の、農民の息子だ。
彼の置かれた状況で、親に楽をさせてやるほどの財産を手にすることなど、それ以外に思いつかなかったのだろう。
命の危険があろうと、一人だろうと、行くしかなかった。そう考えると泣ける話だ。
さて、桃太郎の鬼ヶ島討伐ツアーが始まったわけだが、彼のパーティには人間が存在しない。
そんな仲間で大丈夫か? と、問いたくなる構成だ。
これにもおそらく理由がある。
この時点で鬼の財宝がどの程度あるか分からない桃太郎は、人間を仲間にした場合の、取り分の山分けを恐れたのだろう。
その点、動物であれば財宝を分け与える必要はない。
都合がよかったのだ。
しかしだ、『4、犬、猿、雉の、不当な報酬形態』はあまりにも酷い。
命を賭けて鬼と戦うのにキビ団子一つというのは、割に合わない已然の問題だ。
ザワザワする地下王国でももう少しマシな最低賃金を払っているだろう。
しかし、それでは何故家来どもそのような破格の条件でお供をすることになったのか。
これに関しては幾ら考えても状況証拠と思えるものがなくあくまで予想の粋を出ないのだが、何かしら依存性の高い非合法な薬を用いたのではないだろうか。
有体にいえば、キビ団子に一服盛った、ということだ。
当時であれば、場所によっては大麻やケシの実が自生している可能性もある。お爺さんの芝刈りの手伝いの最中見つけたのかも知れない。
何より、犬、猿、雉のキビ団子の対する執着心は異常だ。たかが団子に命を掛けるのだからまともな判断力が麻痺しているのは明白である。錯乱状態にあると言ってもいい。
つまりは、桃太郎は最初はキビ団子という餌で懐柔し、その後徐々に薬漬けにしていったのだ。ヤクザも真っ青の手口である。
さて話も大詰めだ。
ついに鬼ヶ島に上陸した桃太郎一味は、『5、敵の本拠地に正面から突入する無謀な作戦』に打って出る。
家来の動物達と共に、一発キマッてるような判断力の低さである。
しかし、『6、桃太郎一味の異常な戦力』により鬼達を一蹴。最終的には鬼の大将が土下座をし、財宝を差し出すこととなる。
この上記二点の謎を解明するには、『7、いったい鬼が何をしたというのか』がヒントとなる。
出版社によって異なるが、多くの作品で鬼が何の悪事を働いたかの記載がないものも多い。
鬼に対しては実際に登場するまで、桃太郎の「鬼ヶ島に住む鬼を退治してきます」の一言しか触れられていないのだ。
そのことから、鬼=悪者の解釈は早計過ぎる。事実、鬼が悪ではない可能性を示唆している内容が作中にたくさん出ているのだ。
まず、「鬼ヶ島に住む鬼」とあるが、これは固有の領土を有しており、人間との住み分けが行えていた可能性が高い。
力があるように言われている鬼が、何故島などという不便な場所に住んでいたのか。何かしらの理由があるとしか考えられない。
もしかしたら鬼は非常に臆病で大人しい種族だったのかも知れない。
それを証拠に、鬼の本拠地には分厚い扉にかんぬきがかけられており、雉が空から侵入してそれを外している。
もし鬼が傍若無人で屈強な怪物であれば、そのような設備は必要ないのではないだろうか。
つまり、見た目が怖いだけで誤解され、島へと追いやられてしまった哀れな種族という可能性を否定できないのだ。
むしろ、人間とは相容れないと、自らが望んで島へと移り住んだ慎ましい種族なのかも知れない。
たまに人里へ商売をしようと向かえば、恐れられ、勘違いされ、求めてもいないのに金品を差し出してくる。
哀れという他ない。島へ引きこもりたくもなる気持ちも分かるだろう。
さて、以上の点を踏まえれば、桃太郎達の異常な戦力の謎も解ける。
ようは、鬼が弱かった。ただそれだけだ。
そうなれば当然、突如凶器を持って現れた侵略者に、パニックを起こし逃げ惑う鬼達の姿は想像に難くない。
そして、それを追いかけて切り伏せる桃太郎。
もはやどちらが鬼だか分からない状況である。
見方によれば、篭城していた鬼の本拠地に無理やり突入した桃太郎一味は、無差別に辻きりを繰り返し、金品を強奪して行きました、と言っても大筋合っていることになる。
さて、最後に戦利品の財宝だ。
これについても、鬼が悪者でない証拠が幾つか思い当たる。
桃太郎は戦利品を荷車に乗せて持ち帰るが、これってちょっと量が少なすぎはしないだろうか。
もし鬼が周辺の村里を荒し回っている悪党であり、それだけの勢力であれば、桃太郎が一人で持ち運べる程度の財宝なはずがない。
現在と違い、紙幣も銀行もなく、資産の保有に場所を取る時代である。
強奪を繰り返した鬼が溜め込んだ宝物であれば、最低でも蔵の一つ分ぐらいはなければ辻褄がまったく合わない。
では量が多くて一人では運び切れなかったのか?
否! そんなものは鬼に手伝わせればいいのだ。
宝物を運ぶ荷車を奪っている時点で、桃太郎に遠慮もへったくれもないことは周知の事実であるわけだし。
想像してみてほしい、船まで宝を躍起になって運ぶ桃太郎を。
或いは、自分で奪った宝を鬼に運ばせる彼の姿を。
守銭奴以外の何者でもないだろう。
つまりこれは、単純に鬼達が一生懸命貯えた私財であったと推測できる。
鬼が桃太郎に命乞いをするうえで、差し出せる精一杯の金品であったわけだ。
以下、鬼と桃太郎の会話
鬼「どうか、どうか命だけはご勘弁下さい。我々の貯えを差し出しますので、これでお引取り願えないでしょうか」
桃「ふーん、貯え、ね。まぁいいや、取り敢えず持って来いよ」
鬼「は、はい。こちらでございます」
桃「……は? なんだこれ?」
鬼「いえ、我々の全財産でございますが……」
桃「流石に少な過ぎないか?」
鬼「いえ、これが本当に精一杯でして……。ほ、本当なんです。どうかこれで勘弁して下さい!」
キジ「こんなハシタ金で桃さんが満足すると思ってんのかよ!!」
猿「……この人怒らすと怖ぇぞ。早いとこ出しといた方が身のためだ」
犬「桃さーん、こっちにもありましたよー」
鬼「!?」
犬「そっちと同じぐらいですかね」
鬼「あ、ああ!! そ、それは駄目です!!」
桃「……あれ、気のせいかな?さっきこれが精一杯って言ってたよね?」
鬼「い、いや、これは冬を越すために最低限必要なものでして……。ど、どうかご勘弁下さい!!まだ赤子が生まれたばかりの者もいるんです!!」
桃「……俺、嘘って嫌いなんだよね」
鬼「せ、せめて三分の一、いや、四分の一でも構いませんから残して下さい!どうか……」
桃「犬、やれ」
犬「へい!」
鬼「ぐあぁぁぁ!!!!!」
桃「ちっ、どっちにしろしけてやがんな。あ、そこのお前、荷車に宝積んどけよ」
鬼子供「は、はいぃ!!」
桃「あ、ついでに今の鬼も片付けといてくれ。これから飯食うからな。不快だ」
キジ「も、桃さん!ははははやくキビ、キビ団子をぉぉ!!」
鬼子供「……ちくしょうちくしょうちくしょう」
猿「……悪いな、これも仕事なんだ」
こんなところだろうか。
現在であれば、紛れも無く強盗致傷の類であり、現在であれば法の裁きのもと死刑もしくは終身刑は避けられない。
奇跡的に鬼側に死者が出ていなくても、数年間の有期懲役は確定だろう。
しかも、その後桃太郎は、持ち帰った宝物で生計を立て、幸せに暮らしたとの描写がある。
事実を捻じ曲げ武勇伝のように吹聴し、地元では“鬼殺しの太郎”なんてあだ名で呼ばれてることだろう。
このような横暴が通るのは、鬼がよっぽどな迫害を受けていた証拠とも取れる。
以上のことから、鬼は被害者であるという説を俺は提唱しようと思う。
これにより、物語で矛盾や疑問が生じなくなる。
こんな話を子供の頃から慣れ親しませるとは、いったい日本はどうなっているのだろう。
仮に俺の説明を抜きにしても、桃太郎をざっくり纏めると以下のような内容だ。
人間は他人任せで傍観し、桃太郎は暴力による搾取を行い、鬼は一方的に蹂躙された。
それをさも正しいことだと、当たり前のように子供へと教える社会。
この話のどこから何を学べというのか、僕には分かりません。
皮肉なことに、人間の歴史そのものではないでしょうか。
まぁ、これだけ書き連ねておいてなんだけど、桃太郎がどんな内容だとかはどうでもいいんです。
分かりやすい勧善懲悪ものだろうが、実際に俺が言ったような裏があろうが。
ただ、俺としては、最後に一文を追加してほしいと思う。
“これが、桃太郎率いる人類と、復讐を誓った鬼一族との長い長い戦争の幕開けであった。” と。