06
レジで会計を済ませ、駿が居るCDコーナーへと向かう。
新曲コーナーの試聴スペースで、ヘッドフォンを左耳に当てる駿の後ろ姿を見付けて何度か呼び掛けるが、音楽に集中しているようでこちらに気付かない。
「もう……あ、よーし!」
何かを思い付きニヤリと怪しげな笑みを浮かべた美亜は、駿に気付かれないよう背後にそっと近付く。そして、“せーの”で勢い良く腰に抱き着いた。
「うおっ!?」
突然の衝撃に驚いた駿は、耳からヘッドフォンを離して振り返る。
「あははっ! ビックリした?」
腰に抱き着いたまま、悪戯っ子のような笑顔を向ける美亜。駿から見たら上目使いで見られているわけで……。
「バッ……カ、抱き着くんじゃねぇよっ! 普通に声掛けろよっ!」
駿は顔を真っ赤にしながら、ヘッドフォンを元の位置に戻す。
「だって、何回も声掛けたけど気付かないんだもん。だから、ビックリさせようと思って。あ、そんな事より聞いてっ! 今まで見た事の無いゲーム、見つけたんだ。セール品だよ!」
パッと離れ、嬉しそうに買ったソフトを見せる美亜。
「そんな事よりって……んな安物買って大丈夫なのかよ、そのソフト。何か怪しいモンとかじゃねえの?」
疑わしい目つきで、駿はソフトを見遣る。
「分かんない。ま、どーせ千円もしなかったし、つまらなかったら売るから」
“それより早く帰ろう”と、美亜はさっさと出口へと向かった。
その後ろを歩きながら、駿は先程抱き着かれた腰に手を当てる。
「ハァ……本当、あいつタチ悪いな。人の気も知らねぇで……」
そう盛大な溜め息と共に呟くと、美亜を追い掛け店を後にした。