6、「賢者」の実力
なんとか合流を果たせた。
「ちょっと、何してたの!?
遅いわよ!!」
早速アンリに怒られた・・・。
でも、それも精一杯の強がりのようだった。
手は震えているし、唇も真っ青だ。
その事に皆気付いているが、誰も言おうとしない。
当たり前だ、誰一人として恐怖を感じずにはいられないのだから。
あの自信家のアルフォンスでさえ、緊張のあまり声を出せずにいた。
「ほれ、もうすぐ前線じゃぞ。
気を引き締めねばならんぞ」
「そうですね。
でも、落ち着いていきましょう。
私達は選ばれた精鋭です。
普段どおりにすれば、簡単に切り抜けられますよ」
「ああ、俺が付いてるんだ!!
大船に乗ったつもりでいろ!!」
エルベに言われて、ルークは自分が戦地に向かっていることに改めて気付かされた。
どうやら途中から、ただ前へ進むと言うことしか考えていなかったようだった。
いや、考えないようにしていたのかもしれない。
(エルベとナタリア、ゲオルグがいなかったら、僕達はここで全滅していただろうな・・・)
ルークの偽りなき気持ちだった。
その時、すっと横に騎馬に乗った騎士の部隊が現れた。
「他の囮部隊は、既に魔族領に向けて進軍を開始しています!!!
皆様の進むべき道は我々が拓きます!!
皆様は全力で魔族領に向かってください!!!」
そう言うと騎士達は、魔族軍に突撃していった。
「「「「「炎よ、悪しき者を焼き尽くせ!!
ファイアーボルト!!!」」」」」
騎士達が一斉に呪文を唱え、魔法を放った。
火の塊が自分達の頭上を通り、魔族軍に着弾する。
大きな爆発音と共に、かつて人の形をしていたものが、あたりに散乱した。
「「「「「雷よ、我に仇なす者を打ち据えよ!!
サンダーボルト!!!」」」」」
「光よ、魔を払え!!
リフレクト!!!」
魔族達が何かを唱えていることに気付いた次の瞬間に、いくつもの雷がルーク達の周りに落ちてきた。
しかしそれは、とっさの機転で魔法に対する防壁を張ったナタリアの活躍である程度は防ぐことができた。
だが、先頭を走っていた騎士達の何人かは落雷に直撃し、命を落とした。
見るも無残な黒焦げの姿に成り果てていた・・・。
その遺体を一瞥することもなく、エルベは弓を引く。
1射、2射、エルベが射るごとに、魔族は絶命していく。
それに負けじと、ロイとエリィの兄妹も魔法を唱える。
「炎よ、悪しき者共に永遠の苦しみを与えよ!!
ファイアーストーム!!!」
「氷よ、我が前に立ちふさがりし者共の時を止めよ!!
アイスストーム!!!」
炎と氷の、まるで巨大な竜巻が目の前で巻き起こった。
ファイアーボルトやサンダーボルトとのような下級魔法と違い、中級魔法に属するストーム系の魔法は、広範囲の敵を巻き込み炸裂した。
それも天才と呼ばれる二人が放ったものだ、その威力たるや凄まじく、前方には黒焦げの死体と、氷づけにされた死体が大量に出来上がっていた。
「流石は我らの『希望の剣』です!!!
みんな、これ以上『希望の剣』の皆さんの手を煩わさせるな!!!
死ぬ気で進め!!!!!」
「「「「「おう」」」」」
騎士達は威勢よく答えた。
(僕達は「希望の剣」なんて呼ばれてたんだ・・・。)
なんだかちょっと恥ずかしいな、なんて事をルークはぼんやりと考えていた。
すると突然背中を叩かれた。
ガイウスだ。
「ぼさっとするな。
もうすぐ近接武器の射程範囲だ。
その調子だと、死ぬぞ」
そう言うと馬に鞭をいれ、前に出た。
アンリとゲオルグもその後に続いていた。
(僕はまだ何も役に立っていない・・・!!!
混戦になれば、広範囲の呪文は役に立たない!!!)
前方にはまだまだ多くの敵兵が残っていた。
おそらく護衛の騎士達だけでは、対応しきれない。
そう思ったからこそ、3人は前に出て行ったのだろう。
(このままじゃ、無事に辿り着くなんて無理だ!!!
ロイとエリィだって頑張っているのに・・・!!!
ついさっき守ろうと決意したのになんてざまだ!!!)
ルークは自分が今できる最善のことをしようと、この場に至って決意した。
そして、腰に下げてあった剣を抜くと、敵に向け呪文詠唱を開始した・・・。
「光よ、罪深き者共に裁きの刃を!!
ジャッジメント!!!」
詠唱が終わるや否や、戦場に異変が起こった。
魔族軍の頭上に巨大な光の剣が現れた。
それを見て、必死に逃げる者、負けじと呪文を詠唱する者、術者を殺そうと躍起になって向かってくる者、行動は様々だったが、それらの区別なく巨大な光の剣はゆっくりと地面に向かって落ちていき、全てを飲み込み、何事もなかったかのように消え去った・・・。
落ちた後には何も残りはしなかった・・・。
・・・「特級魔法」・・・
上級魔法のさらに上の魔法を指し、扱い方の難しさと、その威力とから禁呪と呼ばれ、使う者が絶えて久しかった魔法である。
(あ、やばい目眩が・・・・・・)
大量の魔力を消費した事により、全身から力が抜け馬上から滑り落ちそうになるが、ゲオルグに支えられた。
「ったく、無茶しやがって・・・」
そんな悪態を聞きながらルークは気を失った・・・。
その後、混乱した隙を突いていくつかの部隊は、魔族軍を突破し魔族領への侵入に成功する。
多大な被害を出したのの、力量で人間族に勝る魔族はすぐに反転攻勢にでて、わずか数時間のうちに人間族は、撤退を余儀なくされるまで追い込まれ敗北するという結果に終わった。
この戦いで勇猛果敢な騎士や、将来有望な騎士達の多くが命を落とす事になってしまった。
進入を果たした者達のほとんどは、その後の追撃で殺された。
しかし、ゲオルグ達「希望の剣」は、そんな絶望的な状況の中、全員無事に魔族領の奥深くまで進むことに成功していた。
奇跡的な出来事であった・・・。