5、作戦開始
「全く、年寄りをせかすものではない」
そんなことを言いながら、エルベはいち早く馬にまたがり鞭をうった。
「ナタリア!!ガイウス!!遅れないで!!!」
次に馬を走らせたのは、ナタリア、ガイウス、アンリだった。
慣れた手つきですばやく馬にまたがり、遅れじと後に続く。
「ふふふ、さあ、魔族の連中を根絶やしにしてやる!!!」
「アルフォンスさん!!
僕達の仕事は無事に魔族領にたどり着くことです!!
戦闘は控えてください!!!」
血気にはやるアルフォンスと、それに続くアッシュ。
アッシュは気持ちを切り替えたのか、冷静な判断をしていた。
「お兄様、怖いです・・。」
「心配するな、俺が必ず守る!!!」
魔物を倒すことには慣れている二人も、外見上それほど大きく変わらない魔族を倒すことには抵抗があるのか、二人とも震えている。
それでも勇気を振り絞り、壁のようにも見える魔族軍に向かって行った。
(僕も魔族と戦った経験はそれほど多くないけど、この二人は年上として守らないと!)
そう決意しながらルークも馬にまたがった。
その時、すぐ傍にいた子供に声をかけられた。
近くの村に住む子供だろうか、大きな荷物を背負った父親に手を引かれていた。
「あ、あの、頑張ってください!!!応援しています!!!」
ルークは馬上から見下ろす形で、少年に声をかけた。
「君の名前は?」
「ぼ、僕はアーサーです!!ルーク様!!!」
「僕のことを、知ってるの!?」
「もちろんです!!
貴族でもないのに、賢者になられたすごい方です!!!
僕の目標です!!!」
「ほんとに・・・嬉しいな。
必ず勝つから!!!
絶対勝つから!!!!!」
そう少年に声をかけながら、先に行ったメンバーの後を追った。
アーサーはその後姿に、手を振り続けていた。
(今の僕は、何でもできる気がする!!!)
そう思えるほどに、今のルークは気力に満ち満ちていた。
もう前線では、魔族と戦闘が始まっていた。
(もしかしたら僕達全員が戦闘に参加したら、不利な状況を覆せるんじゃ・・・)
そんなことを考えるくらいに、調子に乗っていた。
そんなルークをたしなめる男がいた。
ゲオルグである。
いつに間にかルークに併走しており、
「あんまり背負い込むな!!
お前は自分の身を守ることに専念しろ!!
お前も俺から見ると、まだまだ子供なんだよ!!
その子供が、誰かを守ろうなんて100年早い!!!
そんな事は自分の身を守れてから考えろ!!!」
魔族との戦闘も豊富なゲオルグは、魔族の恐ろしさをよく知っていたし、何よりルークがした勘違いを自分がまだ子供だった時にしていたのだ。
その時、親友ともいえる仲間を失っていた。
自分がどれほど力を持っていても、相手をなめたら痛い目を見る。
ゲオルグはその時に痛いほど知った。
「く、分かりましたよゲオルグさん!!!
なら大人の貴方は、まだ子供の僕達を守ってくれるんですね!!!」
ルークは言い返した。
魔族相手では、剣帝といえども囲まれれば敗れるだろう。
そんな当たり前の事を、興奮の中忘れていた自分を恥た。
そしてゲオルグも、自分の身を守ることに専念するだろうと予想していたのだが、
「当たり前だろうが!!!
俺を誰だと思ってやがる!!!
お前らを守りながら戦うなんて事、朝飯前なんだよ!!!
だからお前らは、安心して後方から魔法で援護してればいい!!!」
不思議と馬鹿にされてるようには感じなかった。
ゲオルグから自分に対する優しさを感じたからだ。
「俺だって、妻と娘が俺の帰りを待ってるんだ!!!
まだまだ死ぬつもりはねぇんだよ!!!
だから最高の援護期待してるぜ、ルーク!!!」
「ゲオルグさん、それ死亡フラグですよ・・・。」
「うるせえ!!
あと、ゲオルグさんなんて呼び方やめろ!!
ゲオルグでいい!!
行くぜ、ルーク!!!!!」
「了解、ゲオルグ!!!」
二人は他のメンバーとの合流を果たすべく、馬を全力で走らせた・・・。