お祭りワッショイ
「そのときにじゃな、ワシがこうズバッーと袈裟斬りにしてやったんじゃい。」
「ガハハハ、ワシなんてくる端から順に森向かって打ち返してやったわ。日頃の素振りの成果かのぅ。」
「いや、ワシがな……。」
「いやいや、ワシのほうがの……。」
「お疲れ様。かっこ良かったよ。」
「ワシにかかればあれ位どうということないわい。もっと強くなってやるからの。」
「うん。頑張ってね。」
「おう、側で見ておれ。」
「……もう。」
「いやー、やはり武器は斧に限るのぅ。この斬れ味!作ったワシがビックリじゃわい。」
「何をいっとるんじゃ、武器はハンマーに決まっとろう。敵を叩き潰す醍醐味、何より刃物と違い性能が鈍ることが無いからのう。」
「はんっ、そんな鉄の塊武器とは言わんわい。家を壊すのにでも使っておれ。」
「なんじゃとー。大した斧も作れん癖に、それが戦斧じゃと?…薪割り用じゃと思っとったわ!」
「なんじゃと!いい度胸じゃ、ただの鉄の塊しか作れん分際で。表へ出ろぃ。」
「はいはい、クソワロww。ここは外じゃい。…ハンマーの恐ろしさを教えてやるわぃ!」
「コラコラ少年達。まだその火酒はダメよ。飲むならこっちの果汁水にしときなさい。」
「やじゃー、飲ませるのじゃー!」
「飲ませるのじゃー、…ババー」
「……だれかな?今聞き慣れない単語が聞こえたけど………ああん?」
「「やばいのじゃー、逃げるのじゃー!」」
「はいはーい、お肉追加だよ。」
「ふおおぉ、肉じゃー!」
「まだまだ、あるからねー。」
ゴブリン襲撃の次の夜。村の中では各々が片手にグラスを持ち、村唯一の中央広場にて、所狭しと並べられた料理を啄ばみながらゴブリン襲撃の折の話をしたり、お互いの作品を自慢しあったり、喧嘩したりと盛大な盛り上がりを見せている。
主婦の方々も大忙しだ。
あと2番目、羨まし過ぎんぞこの野郎。…もげry。
そして、なんと今回の襲撃での死者はゼロ人。これは大変珍しいことらしく、大暴れしたザースと迅速な治療を施したセリーは少し離れたところで大勢に囲まれ騒いでいる。
セリーだけは昼頃まで魔法治療や薬剤治療の為走り回っていた為か少し眠そうではあるが。
あの後、ザースが来てからは早かった。
躊躇うゴブリンロードに般若の形相を浮かべたザースが突っ込み、反射的に振り下ろされた棍棒をその持ち手ごとぶった斬り、咆哮をあげるゴブリンロードを煩いとばかりにその首をちょん切った。
その間およそ15秒。
あんなに頑張った俺たちは何だったのかとセリーに手当されながらターリさんと苦笑いしたものだ。
しかもこのゴリラ、ここにくる前に南門でホブゴブリン2匹叩き切ってるらしい。
これでBクラスとは、この世界のトップランカー達は一体どれほどの強さなのか。
それはさておき、その後皆でゴブリンの死体を掘った大きな穴に放り込み、焼き払い、埋めると日が登っておりヘトヘトになったので家に帰って泥のように眠った。
そして、昼過ぎぐらいに叩き起こされて総出で狩りをして今に至るというわけだ。
「おぉ、ジオ立派に西門を守り通したらしいの。」
「なに、ターリさんが大方やってくれたわい。」
「それでも、その歳でようやった。流石ギフト持ちじゃ。あの状況で西門を突破されとったら村中グチャグチャになっとった所じゃわい。そうなったら死者も多くでたであろうしの。」
俺も果汁水を片手に肉を食いあさっていると、色々な人から声をかけられる。
どうも今回のことをターリさんとザースが言いふらしているらしい。
ちょっと勘弁して欲しい。
実際に俺がゴブリン達を蹴散らしたならまだしも俺は今回たいした活躍もしていない。
精々、同年代のやつらよりちょっと活躍したかも?っと自分で思うくらいだ。
ただ、重要な位置にたまたま居ただけだ。
ターリさんがいなければ俺はホブゴブリンに殺されていただろう。
何か敏捷性の高い相手への対策を考えなければならないなぁ。
うーん。………ダメだ。出てこん。
「ジオ、お前何匹のゴブリンを葬ったんじゃ?」
自分でも足りないと思っている脳をフル回転させていると同年代の男2人が声をかけて来た。
「うぬ?4匹じゃが?」
「はん、たった4匹かい。強いと聞いとったがたかが知れとるの。」
「そんなこと言うと可哀相じゃぞ。幾ら何でもお主みたいに10匹も狩れんわい。」
「ガハハ、そうじゃのう。ちと、可哀相か。まったく期待外れじゃのう。」
「こんなに言われてもかかってこんしのう。ホントにドワーフじゃろうか。」
「ちょっ、ワシはホブゴブリンを……。」
そう揶揄って笑いながら去って行く2人にカチンときてしまい。ゴブリンと言われてホブゴブリンを外してしまったことを言おうとしたが、詰まってしまった。
そうだ。別に俺がホブゴブリンをやった訳では無い。ターリさんが足止めしたのにとどめを刺しただけだ。
最後のだってターリさんが既に致命傷を与えてたしな。
ふぅ、と少し落ちこみ。残り少なくなった肉に手を伸ばすとターリさんがこちらに寄ってきた。
「おう、ジオ食っとるか?」
「おお、ターリさん。怪我はもう大丈夫なのかの?」
「大丈夫じゃ、セリーちゃんの愛が効いたわい。」
「……おーい、ロールちゃん、ちょっとお母さんに伝言じゃ。」
「わっ、馬鹿、やめろぃ。せっかく生き残ったのに殺す気かい。」
気持ちわりーこと言うからだよ。
俺はロールちゃんにお肉の追加の伝言を頼み果汁水をつぎなおす。
「ふぅ、まぁ、セリーちゃんの愛は置いといて、ジオ今回はようやったの。それだけ言いにきたんじゃ。」
ターリさんが真面目な顔でそう伝えてきた。
「ふむ、じゃがワシ一人ではホブゴブリンに殺されとったぞ。」
「うぬ?あぁ、若い者になにか言われたのかの?しかし、ワシが言いたいのはよう逃げんかったということじゃ。お主があの場面で逃げるとワシもゴブリンとホブゴブリンに殺されて村中酷い有様になったじゃろう。あの状況で逃げずにまともに戦えるだけで、その歳ではたいしたものじゃよ。戦士の血かのう。…おっと、実はまだ足が痛くてのう。少し横になってくるわい。」
……耳が痛い。
いや、しかし実際嬉しいものだ。あの場面での俺の小さな決断と覚悟。
勇猛を尊ぶドワーフとして当然のことだ。
しかし、ターリさんはそれをちゃんと評価してくれる。
ありがたいことだ。
拝んどこう。なーむ
やめとこう。なんか死んだみたいだ。
でも、ターリさん。セリーの愛は足らなかったみたいだな。
「うむ。本当にようやった。ワシも鼻高々じゃ。」
いつの間にか後ろにきていたザースが俺の頭を撫でる。
「お主は始め殺生を嫌っとたからのう。人型のゴブリンを斬れるか心配じゃったが、村の為ようやった。」
そうなんだよな。俺人型のゴブリン斬っちゃたんだよな。
戦闘中は必死だったからあんまり考えてなかったんだが、どうだろ?あまりショックは無いな。
これは良いことなのか悪いことなのか。
どちらにせよ俺もこの世界に染まってきたということだろう。
「心構えが出来た今、お主は立派な戦士じゃ。胸を張ればいい、お主も守った村じゃ。」
うん。悪くない。
誇らしい気分だ。ザースもたまには良いこと言いやがる。普段自分の作った酒を飲んだくれてセリーにドヤされてるのは誰だと思うくらい。
「ホブゴブリンだってそうじゃ。確かにジオはターリがおらんかったら死んどったじゃろう。しかし、それはターリも一緒じゃ。お主が感謝しとるようにターリもお主に感謝しとるよ。さっき、本当にジオがおってくれて助かったと言いにきたぞい。」
くそったれ。ホントに良いこと言ってくれる。少しホロっとしたぞ。
あくまで、その左に抱えた酒樽がなければと仮定した話だがな。
そうか、でも俺助けられただけじゃ無かったんだな。
ちゃんとホブゴブリン倒したって言っていいんだ。
うん。すっきりした。
そうと決まればやることは一つ。
「おい、お主。さっきは何か言ってくれたのう!…やってやるわい。ホブゴブリン倒したワシがやってやるわい!」
そう先程の2人に叫びかけだした。