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Mr.ドワーフ!  作者: はには
ドワーフの村にて
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ドワーフとゴブリン 後編

「にしても、このゴブリンの死体はどうするのかのう?……まさか食うのかい?」


最初の襲撃のあと適度に回ってくるゴブリンを死体へと量産しながらターリさんに聞いてみる。


「うーむ。食わんじゃろうな。ゴブリンは臭くて硬いからのう。サーズゴアは特に食肉に困っとるわけでもないからのう。おそらくは燃やして埋めるのじゃろう。」


……食ったことはあるんだな。

いや、俺もこの世界に来てから余りそういうことには頓着をしなくはなったのだが流石にゴブリンは遠慮しときたい。

食わなきゃ死ぬ。となれば食えるんだろうが、ちょっとねぇ。人としてね。


俺ドワーフだけども。


「それにしても、遅いのう。もうそろそろ終わってもいいころだとは思うんじゃが。」


タージさんがつぶやいていると南門から伝令役の若いドワーフが走ってくる。


「タージさん。ゴブリン共の援軍じゃ。100ほど来とる。ザースさんが暴れとるが流石に他の者は疲れてきてのう。ここから3人ばかり借りて行くぞい。」


「うぬ。仕方ないのう。あの辺でサボっとる奴らを適当に連れていけい。こっちは大丈夫じゃ。なんなら少しばかり誘導してくれてもかまわん。」


「すまんのう。だが大丈夫じゃ。皆少し休めば何の問題もなかろう。おっさん共が張り切っておるでのう。死者もおらん。」


そう言って伝令は門のところで休んでいるドワーフ達を連れていった。


にしても、ウチの村の連中は本当に凄いな。ゴブリンといえど100相手に30人ちょいで死者無しに叩き潰してしまうとは。

あと、ザースさんマジでゴリラ。キング◯ングの称号を授けたい。


ドワーフとは、げに恐ろしきものなり。


だが、流石に一度凌いだ数がもう一度襲ってくるのはこたえる様だ。終わったと思った戦いがもう一度やってくると人の心は中々引き締め治せないし、どっと疲れる。伝令も疲れた顔をしていた。

ゴブリンも頭の悪そうなわりに考えてるもんだ。


「ふむ。上位種がおるのかもしれんのう。」


タージさんがポツリともらす。


「ん?どういうことじゃ?」


「いやの、ゴブリンにしては随分と戦略だっておる。どうも単に群の数が増えたから近くの村を襲ったというわけでも無いのかもしれん。」


「なるほどのう。それで上位種がワザワザこの村を襲ったと。じゃが、その理由は?」


確かに、これはゴブリンの戦いとしては随分戦略だってはいるのだろう。が、ワザワザ危険なドワーフの村を襲う理由がわからない。餌なら森で狩れば困りはしないだろうに。ゴブリンが人のものを集める習性があるのは知っているが、村を襲う危険性まで負うことはあまりない。


「うーむ。憶測じゃがワシらドワーフの作るものが欲しいのかも知れん。ゴブリンは人のものを集める習性もあるしのう。特にワシの作る細工品などヨダレもんじゃろう。ガハハッ。」


なんでぃ、自分の作品自慢したかっただけかい。……しかし、一理あるかもしれない。ゴブリンがこのドワーフの村をあえて襲っているなら上位種と呼ばれる存在がいるのかもしれないし、いるのならこの戦略的な攻撃も頷ける。


でも、まぁ、俺のやることっていったら回ってくるゴブリンを叩っ斬るだけなんだけどもね。

俺雑兵だし?あまり考え過ぎて自分の意見を押し出すと、指揮系統も混乱するので良く無いだろう。


と相変わらず適度に回ってくるゴブリンを叩き切っていると、またも伝令が走ってくる。


「また、ゴブリンの増援じゃ。流石にしんどい。怪我人もでとる。人を寄越してくれい。」


またかよ。いったいどれ位のゴブリンがいるのだか。


「またか、今度はいったい何匹じゃ?あと、南門には上位種はおるか?」


ターリさんが伝令に聞き返す。


「今度は30匹ばかしじゃ。恐らくこれで終りじゃろう。上位種?わからんが乱戦状態で確認はとれん。」


うーむ。中々厳しい戦いとなっているようだ。

「仕方ない。残りを連れていけい。西門はワシとジオでなんとかしよう。」


「すまんの。こちらは戦える女も出てきとる始末じゃ。出来るだけ早ように片付ける。あとコイツは伝令役じゃ、なにかあればコイツを伝令として飛ばしてくれい。」


あの子は確かグリアさんとこの美魔少女が生んだ子だ。4歳位だったはず、まだ恐いだろうに決意を固め意気込んでいる。


「わかった頼むぞい。さっさと始末して宴じゃ。」


ターリさんが悠長に答え。

伝令が美魔少女の息子をおいて残りの2人を連れてかけて行ったころ。

こちらに向かい突進してくる影が13。

先頭3匹。その後ろに10匹という形。


先頭の3匹は俺と同じぐらいの身長である。


「うぬ。あれはホブゴブリンじゃ!やはり上位種がおったか。それも3匹も。ジオ、あの3匹を少し抑えておれ、村に侵入されても厄介じゃワシは後ろの雑魚を先に叩き潰す。坊主は援軍を呼んでくれ。上位種3匹西門に出現と言えばわかるはずじゃ。急げ。」


美魔少女の息子が走っていくのを見届けて俺はターリさんに声をかけた。


「了解じゃ、早くしてくれよい。」


「ガハハッ。瞬殺じゃわい。」


ターリさんの軽口を聞きながら俺は先ほどゴブリンの頭に叩きつけた手斧を真ん中のホブゴブリンに向かって投げつける。


ホブゴブリンは驚異的なスピードで飛んでくる斧を慌てて飛び躱し、手斧は後ろを走っていたゴブリンに突き刺さる。俺を驚異と思ったのかホブゴブリン3匹で襲いかかってきた。


やはりゴブリンといえど上位種。簡単に死んではくれないらしい。

てか、デケーな。俺と同じぐらいじゃねぇか。

俺は戦斧を構えホブゴブリンと相対する。

ホブゴブリンの武器はナイフが2匹に棍棒。

先頭で飛び込んでくるナイフを持ったホブゴブリンAに戦斧を振り下ろすが横に飛ぶように躱される。

その後ろのボブゴブリンBが棍棒を振り下ろしてきたので『怪力』フルパワーでぶん殴り粉砕する。さらにその後ろで呆気にとられるホブゴブリンCに戦斧で切りかかろうとするがホブゴブリンAが横から攻撃してきたのでガートに切り替える。

その隙にホブゴブリンBは先ほど始末して落ちていたゴブリンの棍棒を拾う。


「うぬぅぅ。」


これは、ちょっとマズイ。どうやらホブゴブリン達は俺より少し敏捷性が高いようだ。


というのも俺は『怪力』により真っ直ぐ突っ込んでくる魔物や力は強いが動きは遅いという魔物には滅法強いのだが、自分より敏捷性の高い魔物には弱いのだ。

まして、俺はいくら鍛えてきたと言っても7歳と少しではまだ完全に身体ができているわけではない。

敏捷性や防御力はターリさんなどより少し劣る。


ターリさんはモグラ叩きの要領でゴブリンを潰しているが応援にくるのはまだ時間がかかるだろう。

南門の方も手いっぱいで援軍には時間が掛かりそうだ。


一方ホブゴブリン達も俺が一撃で相手を殺せる破壊力を持っているのを目にして攻めあぐねているようだ。


いいんだよ。そのままじっとしてなさい。

かかって来ちゃダメーよ?

いい子だからね?ね?


しかし、俺の願いも届かずホブゴブリン達は痺れを切らし突っ込んでくる。


こうなれば防戦一方だ。


精神的にも1番怖いナイフを優先して躱す、躱す、躱す。

時折隙を見て戦斧を降り下ろすが、ボブゴブリン達はそれを大きめの距離をとって躱す。


そしてまた躱す、躱す、躱す。


「ぐぬぅ!」


殴られる。


が、負けじと戦斧を振り回しまた躱す。


暫くそれを繰り返した。

完全にジリ貧だ。すでに色んな所が痛い。

どうしてもナイフを優先的に躱すと棍棒が当たってしまう。ドワーフが頑丈とは言えこれは辛い。


ホブゴブリンBも俺がナイフを優先的に躱すのをみて拾ったナイフに持ち替えニヤッと笑う。


うん、これは真剣にマズイ、そろそろ俺も息が上がってまともに躱せるかも怪しい。


多少刺される覚悟で斬り殺すか?

ドワーフは頑丈ゆえ数回刺された程度なら殺されることもないだろう。てか、あとあと効いてくるだけで当たりどころが悪くなければダメージは棍棒の方が少しデカイし。


いや、でもなぁナイフだぜ。

元現代人の俺のソウルがユー逃げちゃいなよ!とビンビンとコールしてくる。


が、流石に逃げるわけにはいかない。

俺だって今はドワーフの一員。勇猛果敢なドワーフが村を襲われて逃げるなど……。


逃げちゃおっかな?


だよねー。命あってこそだしね。無理なことは華麗にスルーって決めたじゃない。


俺が尻後んだのがわかったのかホブゴブリン達は一斉に踊りかかってきた。


ヤバイこれは当たる。


そう思ったとき横から飛び込んできたターリさんがホブゴブリンAの右腕を吹きとばす。


慌ててB.Cは距離をとる。


「ガハハッ、待たせたのう。」


飛び込んできたターリさんは所々に傷がある。恐らく俺のために急いで片付けるのを優先する為あえて斬られることを選んだのだろう。


そうだよ。いくら華麗にスルーと決めたからといって逃げていい時と悪い時がある。


危なかった。人として……ドワーフとして皆に顔向け出来なくなる所だった。


「いやいや、ちょうどこれからが本番じゃ。」


ターリさんに強がりを返しホブゴブリン達に向き合う。


「うむ、それでこそドワーフの戦士じゃ。さて、行くぞい。」


ターリさんはそう言ってニコリと笑ってくれた。


「うむ、じゃがどうする?このままではラチがあかん。」


ホブゴブリン達はターリさんと俺より敏捷性が高い。いくらホブゴブリンAの片腕を吹き飛ばしたといえど、このままではまたジリ貧だ。


「うむ、その辺はワシが何とかする。お主は攻撃力が高いでのう。ワシの後ろに控えて一撃を入れよ。」


「じゃ、じゃがそれでは……。」


俺が抗議しようとした時ホブゴブリン達が突っ込んでくる。ホブゴブリン達もこれ以上時間をかけられないのだろう。


それぞれが決死の覚悟で飛び込んでくる。

こちらも満身創痍。気は抜けない。


「では、行くぞい。」


先頭を突っ込んでくるホブゴブリンBをターリさんがカチ上げ、俺はバランスを崩したホブゴブリンBを一刀下に斬り殺す。


しかし、Bの後ろから突っ込んで来たホブゴブリンCにターリさんが足を刺されて崩れ落ちる。


「うぬぁ!」


が、ターリさんはホブゴブリンCの手を掴み足止めをする。

俺はすかさずホブゴブリンCに戦斧を叩き込み仕留める。


ホブゴブリンCを仕留めた俺に遅れてきたホブゴブリンAがナイフごと体当たりをかます。


俺はナイフを脇腹にさされ


「ぬぅぅぅ!」


と叫ぶが、『怪力』を使いホブゴブリンAの頭を肘で叩き潰す。


「「ふぬぅ。」」


ターリさんと俺はホブゴブリンが息絶えたのを見届けそのまま地面に倒れ伏した。


「ふぬ。ジオよ、よくやった。」


ターリさんが声をかけてくれる。


「なんの、ターリさんが居ればこそじゃ。」


進んで壁となってくれたターリさんに感謝を込めてそう述べる。


「適材適所じゃよ。……うーむ、しかし動けん。後はセリーちゃんが来るのを待つだけじゃ。」


「うぬ。ワシも動けん。他のゴブリンが来んとええんじゃがのう。あとターリさんや、流石にワシの前でワシの母をちゃん付けはやめておくれ。」


「向こうも終わる頃じゃろう。音も聞こえんようになったしの。……わははっセリーちゃんは何時迄も可愛いからのう。」


「うぬー、奥さんにチクってやるのじゃ。」


「そ、それはやめとくれい。……後生じゃ。」


安心からかターリさんと軽口を叩きあっているとホブゴブリン達が現れた方角から


「グワぁぁあぁ!!」


という悍ましい獣の叫びと共に大きな棍棒を2つ携えた。怪物が飛び出してくる。

デカイっ。ホブゴブリンが子供に見えるサイズだ。170センチはあるだろう。


ターリさんが少し青ざめしかし、直ぐ覚悟を決めたように渾身の力で起きあがると叫ぶ。


「ぐぬぅ。ゴブリンロードまでおったのか。ジオ!ワシは足がヤられてまともに走れん。ワシが食い止めとる内に南門まで走れ。」


が、俺も脇腹を刺されて走れない。それにここは引けない所だろう。先に学習したばかりだ。


「無理じゃ、ワシも腹をヤられて走れん。このまま南門に向かってもターリさんを殺した彼奴がワシにすぐ追いつくじゃろう。……どうじゃ?2人であの化け物の足1つぐらい斬って捨てておこうではないか。」


ターリさんは少し驚いた顔をした後言った。


「うぬうぬ。立派に育ったものよ。……では、2人であとから来る者の為にあの足ちょん切っとこうかの。」


嬉しそうに笑い合い。ターリさんと俺は武器をとる。


あーぁ、早ぇーよ。

僅か7年でこの人生…ドワーフ生を終えるとは、せめて彼女欲しかった。

俺、今生でも彼女できてねぇよ。


死を間近にどうでも良くないことを考えているとゴブリンロードが大きく吠えながら突進してきた。


……が、その突進が止まる。


ターリさんは後ろを振り返り…また笑う。


「ターリ遅くなったのう。悪かった。ジオ。良くやった。大金星じゃ!……あとは父さんに任しておけい。」


「ターリさんもジオもこっちに来て。よく頑張ったわ。」


俺も後ろを振り返るとそこには我が村最強夫婦。


優しそうな笑みを浮かべたセリー。


そして、ゴブリンロードより恐ろしい顔を浮かべる。スーパーマッスルゴ◯ラーマンことザースが大斧を肩に担ぎ仁王立ちしていた。


「ワシのかわいい息子をイジメたのは主かぁ!ぶっ殺してやるわい!」


おぉう。よかったー。

助かったよ俺。







書いてて作者の中でザースさんが主人公っぽくなっちゃいました(笑)

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