ギフト
ハッっと顔を上げた。
「大丈夫?随分長いことそうしてたけど終わったの?」
シスターマルフィリアが声をかけてきた。
どうも俺は一時間半ほど俯いたままであったらしい。
「終わったのじゃ。」
まだ少し頭がボーッとする。
「そう。ちょっと疲れてるみたいね。無理ないわ。それで神聖魔法は授与されたの?」
シスターマルフィリアの横で心配そうにしていたセリーも声をかけてくる。
「………ううん。ダメじゃったようじゃ。お主にその才はないと言われたのじゃ。」
バーコードと長話していたのは話さないほうがいいだろう。というか言う必要もないだろう。
ギフトはどうしよう?隠した方がいいのだろうか?
「「えっ?!」」
セリーとシスターマルフィリアが驚いている。
ん?何か変な事でもいったのだろうか?
「ひょっとして、貴方ゼルブリアス様とお話したの?じゃぁ、もしかしてギフトを授かったの?」
ゼルブリアス?ってあのバーコードのことか?
初めて知った。てっきりツルリーヌとかの名前だと。
「う、うむ。『怪力』というギフトがあったのじゃ。」
しかし、授かった?なにか会話がずれている気がする。
流れ的にはギフト持ちだけが判定の際、神と喋れるみたいだ。
そういうことは先に言っておけよあのバーコード!
隠しようもないじゃないか。ちょっとテンパって正直に喋っちゃったよ。
「か、怪力!!?………それって上級ギフトじゃない!!確か200年ほど前に確認されていたギフトだわ!」
「上級!?シ、シスター、その『怪力』とはどういうギフトなんですか?ある程度想像はできますが……」
「『怪力』は『強力』と『超力』の上にある上級ギフトよ。特徴は想像どうり、強力なパワー。過去の持ち主はフェアリー族だったらしいのだけどその手で軽々大岩を持ち上げたと言われているわ。」
フェアリー族ってのもいるんだな。恐らく相当小ちゃな種族なのだろう。
「そ、それは凄いですね。ということは凄い力を持つということなのかしら?」
「いえ、詳しくは分かってないの。というより上級ギフトはその貴重さから持っている人はその効果を全ては公にせず秘匿するわ。今の法王様も『神眼』という上級ギフト持ちなのだけど正確な効果は知らされていないわ。」
おぉ、いたよ上級ギフト持ち。しかも『神眼』って中2心溢れるもん持ってんじゃねぇか。
「あの、できればあまり騒ぎにして欲しくはないのじゃ。ワシはまだ何も出来ないしちょっと怖いのじゃ。」
「えぇ、その辺りは大丈夫よ。教会ではギフトのせいで騒ぎになるのを防ぐためギフト判定には他の人を入れないのよ。勿論外に漏らすことも無いわ。教会には報告するけどね。」
「凄いわジオ!上級ギフトなんて!しかもドワーフにピッタリのギフトよ!……あぁ、神よ感謝します。…………大丈夫。お父さんとお母さんがしっかり守ってあげるから。ジオは心配しなくてもいいのよ。」
セリーがしっかりと俺を抱きしめる。
ふっ、チョロいもんだぜ。
ちょっと怖がる子どもを演じればこの通り。
しかし、教会には報告されるのか。大丈夫だよね?連れて行かれたりしないよね?
あと母さんや。あのバーコードに感謝するのはやめてくれたまえ。
ともあれ、こうして俺のギフトは判明した。
晩にはザースにも知らされ狂喜乱舞。ウチでは普段は飲まない高級な酒と肉が出されちょっとした祝宴となった。
俺は水だけどな!
2年たった。
まずわかったことはこの『怪力』は凄いパワーだ。
どうやらギフトというものは使おうと思って使うものらしい。
考えてみれば巨人になるギフトとかがあれば常時発動とか罰ゲームだもんな。
いや、あるか知らんけど。
ともかく試してみた。俺は本棚から本を取り出すときに椅子を台として使うのだが『怪力』を使って持ち上げようとすると普通に力を込めただけで重さなど感じず凄い勢いで椅子を持ち上げてしまい手からすっぽ抜けた。
そのまま、椅子の背もたれがザックリと天上に突き刺さったほどだ。
ヤバイと感じた。制御出来ないとイザというときに使えない。
この日から徹底的に俺のギフト操作の練習が始まった。
発動状態でものを動かしてみたり
小石を摘まんでみたり
食事をしてみたり
腕立てをしてみたりだ。
結果、始めのころこそものはぶっ飛んだり
小石は炸裂したり食事はナイフが皿を割りテーブルに貫通したり、
腕立ては身体が中に浮いたりしたが、
今ではものは普通に動かせるし、石は爆弾にならないし食事ははテーブルマナーまで理解し、腕立てはスコスコできる。
大きな2年の進歩だと言えるだろう。
あとはまぁ、色々調べてみた。
まず、攻撃力は異常に上がる。
岩を殴れば破壊する。
木を蹴ればへし折れる。
石をなげればメジャーリーガーびっくりのスピードだ。
こう言うとお前の腕や足大丈夫?と言われそうだか、平気だ。
ピリピリはするし少し赤くなったが壊れたりしない。
が、発動していれば防御力が上がるわけでもない。
試しにザースに発動状態で殴ってもらったのだか、とてつもなく痛かった。それはもう。
涙が出た。
しかし、これで「親父にも○られたことないのに」状態は回避したと言えよう。
そして、機動力が上がったのか?と言われればそれも残念なことに。
俺も最初は地面を蹴れば速く走れるんじゃね?と考えたのだが、………ただ地団駄を踏んだだけだった。
いや、それはと俺も思うがどうやらギフトとはこんなもんらしい。
無双なんてとてもとても。
まぁ、上級ギフトは俺の成長と共に強くなるらしいし、やれることも増えてくるかもしれない。
合間にちょっとセリーの手伝いや、遊びも必要でしょ?という両親を安心させるための子供同士のチャンバラやオママゴトなどもしていた。
チャンバラの刀が斧だったり、オママゴトが昼ドラだったり、悪女は総じて巨峰だったりしたのだが。
…………こうしてアンチは育つのか。
うん。小さなころから教育は必要ということで。
ともあれこうして俺は『怪力』の制御と同年代の友達を手にいれた。
そうだな。
認めよう。俺はぼっちだった。ザースやセリーが心配するわけだ。
忙しさにかまけて友達を作っていなかった。
生前の爺ちゃんも言ってた。
人脈を築けないものに成功はあり得ないと。
がんばろう。
などと考えていたある日、夕食の席でザースが真剣な様子で聞いてきた。
「のう、ジオ。お前もソロソロ5歳じゃ。将来どうしたいかとかあるとかのう?」
いやいや、早過ぎません?
ソロソロってまだ5歳よ?
などと思うがどうやらそうでも無いらしい。ドワーフは10歳で一応成人する。
身体もそれまでに大人として成長するし、実際10歳から働き始める者がほとんどた。
「ジオは酒作りにも興味がないようじゃし、かと言って鍛治や細工に興味があるわけでもなかろう?」
うん。確かに無い。
いや、立派な刀とか斧とか剣とか素晴らしいと思うし酒にだって飲むことには大いに興味がある。
その辺は俺もドワーフだということなのだろう。
だが、作るほうには全くない。
いや、これでもドワーフの村の生まれだ。多少は詳しくはなった。
この世界での魔道具の作られかたやら魔剣の作られかたやら。
だからと言って作りたいか?と言われればそうでも無いらしい。
まぁ、趣味でならやってもいいというくらいだ。
これはもの作りに強い興味を示すドワーフには珍しい。
俺が興味あるのなんてせいぜいが子作りぐらいなもんだ。
「うむ。それはドワーフの男にとっては非常に辛い問題じゃ。昔からのう。そういうドワーフは旅をするのじゃ。己が作りたいものを見つける旅を。ワシもそうじゃった。作りたい物もなく旅をした。そこでセリーと出会い、ある酒を飲み、それを超える酒を作りたいと思ったのじゃ。じゃから、ジオも旅の準備をするために鍛えてみんか?10歳までに作りたいものができたらかまわん。どちらにせよそのギフトを伸ばすことにはなろうて。」
どうやらドワーフとは生涯をかけて何かを作るものらしい。
それは世に聞く名剣であったり、銘酒であったり、建物であったりそれぞれだが、確かにそういうものを作りたくなるらしい。
そして、それがわからない奴は旅に出てそれを探すと。
うーむ。前世の記憶のある俺が作りたいものが有るのかは良くわからない。
しかし、こうして転生をした以上。元々旅には出るつもりでいた。
ドワーフの村で一生を過ごすつもりはない。
それなら迷うことはないだろう。
「うむ。そうじゃのう。よろしくお願いしますのじゃ。」
俺はこうしてザースに鍛えてもらうことにした。