ドワーフと魔法 前編
また一年が過ぎた。
この辺にはちゃんと四季が有るらしい。
去年の冬は風邪を引いて大変だった。
どうも、この世界は文明的に進んでいる訳でもないらしい。
ウチの家のランプは明かりが勝手に灯るので、進んでいるのかと思ったがあれは魔道具らしい。
ドワーフの村だけあってそういうものは格安で手にはいるみたいだ。
ビバッ!ドワーフ。
まぁ、それは置いといて。そういう訳で小さなころに風邪を引いてころっと逝くことも珍しくないわけで、ザースとセリーは慌てふためいていた。
ザースは凄い酒の匂いのする卵酒を飲まそうとして、セリーに追い返され。
セリーは付きっきりで俺の看病をして何やら薬草を煎じたようなスゲー臭くて苦い薬を飲ませてきた。
結果治ったんだけども、危なかった。
こんなに直ぐにあのバーコードのところに戻るつもりはない。まだ、全然この世界を満喫していないというのに。
最近では俺は色々調べものに忙しい。
というのも、前世の人であったならヨチヨチ歩いたり、直ぐコケてしまうがちょっと走れたりくらいの年齢なのだが、ドワーフの2歳はもう普通に歩ける。
この辺は種族差だろう。
あと、あのザースの喋り方だが、どうもドワーフ族の男は皆あんな風になるらしい。
俺も普通に喋ってみたのだがどうも強烈な違和感がある。
男が女ことばを喋ってるみたいな?
なので俺も喋り口調はじゃがじゃが言っている。
勿論一人称もワシだ。
女はそうでもないんだけどな。
この辺も種族的な問題であろう。
ということは、猫の獣人などは〜ニャとか語尾につけたりするのだろうか?
うーむ、素晴らしい!
存在するのかは知らないがまぁドワーフがいるんだし居るのだろう。
という話も置いといて家の中を歩き回り、本などから色々調べているというわけだ。
ん?文字?
その辺は俺が2歳になるまでに読み聞かせられる絵本などで大体理解した。
わからない単語もあるがその辺は母親に聞いたりして解決だ。
といってもウチにある本なんて対したものはない。酒の世界百選とか魔物図鑑とその活用部位とかちょっとした物語だとかそんなもんだ。
物語は絵本がわりとして読み聞かされたのでもう覚えてしまっている。ある冒険者がドラゴンを倒す物語だ。
しかし、魔物かぁ。やはりファンタジーだけはある。その辺のお約束は裏切らないらしい。
大きくなれば冒険者になるのも有りかもしれない。
でもなー、ドワーフだぜ。ちっちゃいんだぜ?冒険に向いてるようには思えないんだよな。
かといって、せっかくファンタジーな世界に生まれたのだ。この世界を見て回りたいという気持ちはある。
くそぅ。あのバーコードめ背の高いイケメンな種族にしてくれと言ったのに。
髪だけでなく心も貧しい野郎だ!
とはいえザースもセリーもいい人だしあまり文句も無いのだが。
でもなー、背が欲しかったなー。
そんな俺が最近読んでる本は日記だ。
ひょんなことからザースが昔書いていた日記を見つけてしまった。
以外と乙女なとこがある。
日記によるとザースとセリーは昔冒険者であったらしい。Bランクだそうな。
Bランクと言われてもどれくらい凄いのかはわからない。
しかし、色々な魔物と戦っているところから結構強かったのではないだろうか?
ザースとセリーは同じパーティーで狼の獣人の剣士とエルフの魔法使い。あとはギフト持ちの猿の獣人の盗賊と一緒に冒険していたようだ。
ふむ、魔法ね。やはり魔法はあるらしい。まぁ、バーコードも言ってはいたが。
しかし、俺はまだ見たことないんだよな。
セリーに聞いてみようか?
ともあれ、エルフの魔法使いは様々な魔法を使ったらしい。火の矢とか土の壁とか、
ふんふん、夢が広がるね。
あと、ギフトね。
バーコードの話だと俺ももってるはずなんだけどな。
どうすれば分かるんだろう?なんか魔道具とかでビビッとするのかね?
他には他にはっと。
………うん、誰それが山脈だったの、誰それはまさに霊峰だったのと。
あぁ、隠す訳だ。
このページをセリーに見せてやろうか?
いやいや、こんな事で家庭を壊すことはない。まぁ、ドワーフの男はそういうのが大好きらしいしな。そっと閉まっといてやろう。
もう、しょうがない子ねぇ。
「あらあら?ジオ何をみてるの?」
そう思っていたら後ろからセリーが日記を覗きこんできた。
「あらー、ザースったら。これは後から夫婦会議ね。」
氷の冷気を纏わせた笑顔のセリーが顕現した。
終わった。い、いや、ザースごめん。
ワザとじゃないんだ。
「ふむ?魔法とはなんじゃ?ワシも使えるかのぅ?」
このままだととても怖いので話をそらすついでに聞きたいことでもきいておこう。
「あら?ジオは魔法使いたいの?………うーん、でもねぇ、まぁいいわ、ちょっと教えてあげる。でも絶対お母さんのいないところで使っちゃダメよ?約束できる?」
おぉ、使えるのか。
あ、ありがてぇ。
「わかったのじゃ、よろしくのう。」
「わかったわ、じゃぁ、人差し指を立ててみて?……そうよ。あとは目を瞑ってグリアさんの所で見た火を思いうかべて。………それが出来たら身体を流れてる魔力を指に流す感じが意識したら……………」
ボッ!
セリーの指に小さな火が灯る。
「こんな感じよ。最初魔力を感じるところに戸惑うかも知れないけど大丈夫だからやってみて」
え?だいぶ説明がザックリしてるんですが?
こう詠唱とかしてやるもんじゃ無いの?
ま、まぁやってみよう。
グリアさんって、向かいの40歳美魔少女の旦那さんか。
まずはイメージしてっと……あとは身体の魔力を感じるっと。
ん?これかな?
薄っすらと流れているのを感じる。
それを指に流すようにしてっと。
ボッ!
俺の指にもセリーと同じく火が灯る。
「おぉ!出来たのじゃ!スゴイのじゃ!」
「そう。良かったわね。でも、約束よ。危ないからお母さんがいる時じゃないと使っちゃダメだからね。」
で、できたよ。一発で!
才能あるんじゃない?これは俺の時代が来たな。
ジオルフィス時代の到来だ。
そんなことを思いながらさらに聞く。
「わかったのじゃ!それで他の火の矢とかを出す魔法もこんな感じなのかのぅ?」
「あら?……なるほど、ザースの日記でエルフの魔法使いの話が書いてあったのね?………えっとね、ジオ、落ち込んじゃダメよ?ドワーフはそういう魔法は使えないわ。精々がさっきやった火を灯したり、水を少し出したり小さな明かりを灯したりが限度なの。」
……………えっ?
嘘でしょ?じゃぁ、俺の最強魔法使いハーレムうはうは物語はどうなんの?
ずーん。
「あぁ、落ち込まないでジオ。変わりにドワーフは身体がとても頑丈なのよ。強くて逞しいの。たまーに攻撃魔法を使えるドワーフもいるしね。」
お、おぉ、なるほどね。わかりました。
これはアレですね。皆は出来ないけど何故かオレだけ出来ちゃうんだぜパターンの最強ものですね?
当初俺がバーコードに頼んだ魔法剣士ではなく魔法戦士だがその辺は愛嬌だろう。
なんだよ、あのバーコード……いやいや、もう失礼だろう。あの神様なんだかんだちゃんと仕事してんじゃねぇか。
よかったー、ビックリさせるなよー。
「でも、ジオはそんなに魔力も感じないし、たぶんそれが限度だと思うの。」
…………ま、マジですか?
あのバーコードめ!!何してんだハゲ!
一応神様だろうが!差別すんじゃねぇよ!
てか、なにこれ?上げて落とすを続けざまに2回やられたんですが…………、
「熱っ!!」
落ち込んでいると指に灯したままの火が手首に添えていた左手を軽く焼く。
「あぁ!大丈夫ジオ!?ちょっと待っててね。『神なる力を持ちて、かの者の再生を望まん。ヒール!』……っとこれで大丈夫よ。」
俺の手がじわじわと治っていく。
「おっ!おぉ、ありがとう!じゃがなんじゃ?母さんは魔法が使えるドワーフじゃったのか?!」
「あっ、ううん。違うのこれは魔力の少ないドワーフが唯一使える可能性のある魔法なの。」
コレだ!回復魔法はこの魔物の跋扈する世界では色々便利だろう。
ついでにもう一つの疑問も聞いてみよう。
「そ、それはどうやるのじゃ?ワシでも出来るのかのう?あとギフトという奴も知りたいのじゃ。」
「あら?ジオはギフトも知ってるの?冒険に憧れてるのかしら?…………うーん、ジオには少し早いと思うんだけれど……まぁ、いいわ明日お母さんと一緒にちょっとお出かけしましょうね。使えるかどうか見てもらいましょ。さっ、ご飯の準備くるわよ。手伝ってくれる?」
そういってセリーは立ち上がる。
「わかったのじゃ!」
俺は意気揚々と手伝いのためにセリーについていく。
ドワーフは本当に頑丈で2歳にしてモリモリ肉が食える。
しかもこの村は裕福なので塩も胡椒もしっかりとある。
なに?細工屋のロールは1歳でまだ離乳食だって?
ふっ、まだまだお子ちゃまだな。
肉は大人達が近くの森で狩ってくるので食卓にはいつも肉がならんでいる。
この晩、ザースは自分の肉がくず肉であったのと酒を飲まして貰えなかったのは愛嬌だろう。
どうやら夜には寝室で仲直りできたみたいだしな。