ドワーフの旅立ち 前編
成人式から2年が経過した。
俺は日々ザースに流斧を習い、セリーの家事を手伝い。狩りをしてその日の肉を供給して革や牙などを売り旅の資金を蓄えていた。
つまり、家事をするNEETしてた。
良いんだろうか?異世界でNEETって。
友人達は既にバリバリ働いている。まだ、見習いの域は出ないのだろうが親の仕事を手伝ったり、街に出たりそれはもう立派な社会人である。
中には結婚した奴だっている。
職もあり、嫁もいて、生まれてくるはずの子供や未来の為に働く。
…発狂しそうになったぜ。
NEETとはこんなに辛い修行の果てになるものだったとは。
しかし、そんな俺もソロソロ出発の時が近づいてきた。
流斧の基礎の終わりがやっと見えてきたのだ。
基礎と言っても流斧は基礎が全てだ。後はこの基礎をどのレベルでやれるかが熟練者と初心者の違いになる。
最近ではグリーンボアぐらいなら簡単に受け流せるが、実際はどの程度なのかよくわからない。
そうそう。狩りと言えば俺はついにドットベアという能動的に人を襲う魔物の討伐に成功した。
ドットベアはその斑点が特徴の熊で体長は2メートルちょっと、体重は200キロを超える魔物。
その毛皮は都会のPOPな若者に大人気。貴族の坊ちゃんのファーなんかにも使われるらしい。
といっても、強さは大したことはない。せいぜいがDランクって上位ってところだ。
ただ珍しいものらしく、その毛皮は行商人が喜んで買い取ってくれた。
肉も非常に美味しいらしく、行商人に買い取りを求められたが、その肉は食卓にならび、残りは燻製にしてある。
俺の旅の食糧にするつもりだ。
さて、そんな生活を続けてきた俺がもうそろそろ出発するよって矢先、
ザースとセリーが旅に出た。
いや、旅行とかじゃないよ。ガチガチに装備に身を固めて、10日ぐらいで帰ると言い残して旅に出た。
俺は気を付けてと言って、保存食を持たせて送りだした。
…あれ?逆じゃない?
というわけで、俺は今絶賛暇してます。
朝から流斧の練習をして、昼から狩りをして、夜に家事をする。
2日に一回は村に出て毛皮などを売る。
早く旅に出たい。
けれど、流石にザース達の居ない間にというのはダメだろうしなぁ。
ウジウジとそうこうしてる間、約10日後にザース達は帰ってきた。
傷こそ無いもののザースの鎧はボロボロだ。
「ジオ、ワシらが留守の間変わりはなかったかの?」
「ちゃんと、家事とかも出来た?風邪とか引いてない?」
ザースは笑顔でセリーはすごく心配そうにしていた。
「大丈夫じゃ。何も心配するようなことは無かったのじゃ。ところで何処に行っておったんじゃ??」
ザース達は少し困ったような顔をして
「いやの、気にするでない。ちょっと野暮用じゃ。…どれ、ちょっと疲れた。飯にでもしようかの。」
「そうね。準備するわ。」
「いやいや、母さんも疲れとろうに、ワシがやるからゆっくりしておればよい。」
「そう?じゃあ、お願いするわ。ありがとう。」
セリーを押しのけて台所に立って飯の支度をする。
といっても難しいものではない。
肉を焼き、スープを作り、パンの用意。
たったこれだけだ。
肉はそのまま焼くのには味気ないのでハンバーグにしてみた。昔調理実習でやったきりだが上手くいくだろうか。
スープには野菜を大量に入れて旅で不足したであろう成分の補充を図る。
パンは…まぁ、普通のパンですよ。そもそも作りかた知らないし。
「ふむ、美味いものじゃ。この肉は昔皇都で食べたものに似ておるの。自分で考えたのかの?」
「そうね。とっても美味しい。これなら一人でも大丈夫ね。お母さん安心したわ。」
「うぬ。こうしたら美味しいだろうと思っての。」
「ふむ。才能があるのう。料理人となり、まだ見ぬ新しい料理を作るというのはどうかの?」
どうやら上手くいったようだ。でもザースごめん。それ創作料理じゃないの。前世の家庭料理の一つなの。とは当然言えず、うーん、やっぱり違う道を探してみるよ的なことを言っておいた。
料理を食べ終わり。皆で酒を飲み始めたころ。ザースが突然切り出した。
「ジオ。流斧の基本は教え終わった。あとは試しに一度ワシと打ち合うぐらいじゃ。して、何時旅に出るのかは決めたかのう?」
その目は結構眼光が鋭い。
「ザース、そんな言い方だとまるで追い出すみたいじゃない。何時までいてもいいのよ、ジオはちゃんと狩りもしてるし迷惑なんて全然ないわ。」
「ふむ。ワシとしても何時までおって貰ってもよい。しかし、それはジオの為にならん。ジオはジオの作るものを探す旅がある。ワシは、それを見つけられんままのドワーフとジオを呼ばせるのは忍びないのじゃ。」
確かにそうだ。ドワーフは一生をかけてモノを作る。作るものこそ人それぞれだが、確かに何かを作るのだ。
しかし、だからこそ逆にいえば作りたいモノがないドワーフは何時までも半人前だし、不幸だという扱いを受ける。
もちろん、優しいこの村の人たちはそんな目では見ないだろうが。
ザースとセリーにそのような子を育てたというレッテルを張らす訳にはいかない。
「うむ。ワシもこの暫くの間考えておっての。今日、明日にでも立とうと思うのじゃ。」
決意を込めてそう述べる俺にザースは嬉しそうにセリーは寂しそうに微笑んでくれた。
「うぬ。その息やよい。じゃが、出発はあと5日ばかり待つがよい。家族そろって過ごす時間も欲しい。」
「そうね。ジオの為だもんね。明日から料理張り切っちゃお。」
2人の暖かい言葉にホロっとしそうになるが、恥じらいのためグッと堪えた。
3日後。
全ての流斧の訓練が終わり。俺はザースと庭で向き合っていた。
「ふむ。ジオよ。全てのことは教え終わった。あとはワシと真剣勝負をしてその実力を確かめさせて貰おう。」
「わかったのじゃ。何時でも用意は万全じゃ。」
「ほう。じゃが、先に言っておく。お主じゃまだワシには勝てん。手を抜く気もない。殺す気でこんと本当に殺すぞい。」
ザースは並々ならぬ殺気をビンビンと放っている。殺気だけでドットベアなど殺してしまいそうだ。
セリーは軒下に座り何時でも回復魔法をかけれるように待機している。
「ふむ。ワシも何時までも負けてばかりでは無い。その鼻へし折ってやるわい。」
「ワハハ、ワシの鼻は鋼鉄じゃい。お主には折れん、では、行くぞ、」
ザースは自慢の戦斧を構え、疾風のように飛び出してくる。
迎え打つようにザースに戦斧を振り降ろすがザースはそれを受け流し、ターンを踏むように俺の後ろに回り込む。
昔やられたことのあるパターンだ。
しかし、あの時とは違いザースは凄いスピードでかつ、刃を俺の首めがけて垂直に振ってきた。
すぐさま前に転がるようにそれを躱す。
本当に殺す気だ。
おいおい、ザースさんいくらなんでもそれは、首なんて撥ねられると回復魔法なんて効きませんよ?
俺がちゃんと躱すって信じてたんですよね?
だから、舌打ちとかやめてくれません?
なに、惜しかったみたいな顔してるんですか。
ザースは再び斬りかかってくる。俺は慌てて迎えうとうとするが目先で一瞬ザースが左右にブレた。
「ふ、ふぬぅぅ。」
カンで左に向かって戦斧を横薙ぎに振り払った。
ガチンと音を立てザースの戦斧と打ち合う。
ザースが驚いた顔をした瞬間に俺はザースの戦斧を上向いて受け流し、返す斧で頭向かって振り下ろした。
が、ザースは打ち上げられた反動を生かしそのまま後ろに手を付きバク転の要領でそれを躱す。すかさず、俺はそこに手斧をぶん投げるがザースは足で手斧の横っぱらを蹴り飛ばした。
なんだコイツ。本当に強すぎるだろ。
あんなアクロバティックな動き出来るかよ。
「ふむ、強なったのう。これならゴブリンロードごときに遅れなど取らんじゃろう。」
褒めてはくれるが、こっちはそんな事で喜んでる場合じゃない。
目の前のゴリラが強すぎて一杯一杯だ。
「余裕を無くすと、斧先が鈍るぞい。」
そういいながら斬りかかってくるザースの戦斧を打ち止めようとした時、ザースの戦斧は急に方向を変える。
切り替えられた戦斧は俺の脇腹に向かい振り切られた。
あぶねっ。コイツあんなことも出来るのか。本当に器用なやつだ。
案外ザースはこういう器用な戦い方の方が向いていたのかもしれない。
しかし、何時までもやられているワケにはいかない。これは俺を試す試験だ。防戦一方では期待外れもいいとこだろう。
しかし、恐らく戦いが長引いても俺は確実に負ける。
ならやれることは短期決戦のみ。
覚悟を決めた俺は、飛び退きながら残りの手斧をザースに向かって全て投げる。
ザースはまたかというように打ち払おうとするが、とっさに身を捻って躱した。
手斧はそのままザースの後ろの壁を豪快な音と共に破壊した。
そう。俺の怪力だって成長と共に進化してきてる。本気で投げた手斧は今や爆弾みたいなもんだ、人に当たればグチャグチャに弾け飛ばすぐらいはやってのける。
なぜ、先にやらなかったんだって?
別にザースを気遣ったわけじゃない。これをやると手斧の方も粉砕してしまうのだ。
それはもう、見事に爆散だ。
長年連れ添った、手斧に別れをつげ、急に身を捻ったためバランスを崩したザースをフルパワーで斬りつける。
ザースはそれを受け止めようとするが、俺の怪力を前に戦斧を弾き飛ばされてしまった。
ザースは俺に攻撃される前に飛び退き、最初に俺が投げた手斧を拾う。
「どうじゃ?その手斧ではワシと打ち合うことはできまい。ワシの勝ちじゃろう。」
「ふーむ、よくここまで強うなった。お主なら十分やって行けるじゃろう。合格じゃ。しかし、勝負はついておらん。ワシもセリーが見とる前で負けるわけにはいかんしのう。」
そういいながら手斧を構えるザース。
しかし、いくらなんでも手斧で俺に勝てはしないだろう。防御に回っても俺なら手斧ごと叩ききる自信があるし、それはザースもわかってるはずだ。
しかし、ザースから出ている殺気がそれを嘘だと思わせない。
ならば、と思い。
ザースに全力で斬りかかろうとした瞬間、ザースから俺に斬りかかってきた。
手斧を正面から受けへし折ろうと打ち合わせた時、ザースの手斧がスルっと俺の戦斧を受け流す。
えっ?
流斧とは本来受けきれない攻撃や次の攻撃に移りやすくする為に使う技術だ。
しかし、ザースが行った技は自分から攻撃をしかけ相手の防御を受け流し攻撃を加えるという技。
どれほど難しいのか検討もつかない。
「ふぬぅうう。」
必死でザースの攻撃をかわそうとするが、一歩遅く、ザースの攻撃は俺の上半身を右上から左下向いて斬り裂いた。
あと、一歩踏み込まれていて武器が何時もの戦斧なら俺は真っ二つになっていただろう。
血を吹き出しながら意識が遠のいていく。
遠くでセリーがこちらに向かって走ってくるのが分かった。
というか、ザースさん。本当に斬るんですね。これ下手したら死にますよ?
恨みごとを言おうと起きあがろうとするが意思とは反対にゆっくりと意識が遠のいた。最後の記憶は何か暖かいものが傷口に当てられているような感触だった。
一応ですが、別に死んでません。




