疾走、失踪
胸糞悪い。不愉快だ。いつもの仏頂面を更にしかめながら、外へ向かった。果たし状もどきは全力で握り潰して、もう開けない位に固めた。腹が立った。セーラー服の上から羽織った長袖のセーターのポケットの中の携帯電話を取り出すと、電池残量を確認する。腕時計に目をやると、もう休み時間は終わりに近づいていた。
校門を出てすぐの自販機付近のベンチに腰掛ける。お腹、少し痛い。そろそろ生理かも…と、とにかくイラついていたが、頭上に降ってきた声に私は顔を上げた。
「レイだー。おはよ」
先客。梨華である。
「今日は一段と機嫌悪そうだねぇ」
にこーっと笑う目の前の友人に、胸の奥のドロドロとしたものが溶けていくのを感じた。
「だったら話し掛けないでくれる? 今日も楽しそうだね、あんた」
「楽しいよー。あ、何か飲む? おごるけど」
「ありがとう。ホットレモン飲みたい」
「了解」
手際良く自販機に小銭を入れて私にホットレモンを手渡すと、自分は緑茶を買って私の隣に座った。
「緑茶って。相変わらず趣味が渋い」
「えぇー、お茶おいしいじゃん」
チャイムが鳴った。授業開始だった。
「あー、鳴っちゃったぁ」
「別にいいんじゃない。どうせ面倒なのばっかじゃん、入学後って」
「そうだねぇー。ねっレイ、クラスでどーお? うまくやってる?」
「やってるわけないでしょ……」
「話せる子はいないの?」
「今のところひとり」
「誰だれっ、かわいい?」
「篠原くん。かわいくない」
「うっそ男子? えっイケメン?」
「イケメン」
「マジでっ! ねぇどんな人? 優しい?」
篠原くんに食いついた梨華は、飲み物を飲み終えると唐突に立ち上がって私の目の前に立った。
「……なに、」
梨華は人懐っこいいつもの笑顔で、へへ、と笑った。
「学校抜け出してどっか行こーよ」
私は目を丸くした。「…は?」
「いーから行くよ! 篠原くんの話も聞きたいし」
私の手首を強引に掴むと、彼女は私をリードして走り始めた。
何も考えてない、空っぽの頭の中で漠然と考えた。
何もかも唐突だなぁと。