帰り道での遭遇
お昼も終わって午後となる。さすがに初っ端から5時間目は無いようで、すぐ下校となった。…だったら昼食持参じゃなくたっていいのに。
下駄箱で靴を履き替え外へ出ようとした――ら、スカートのポケットの中に押し込めていた携帯電話が控えめに鳴った。梨華からメールだった。
《今日は1日おつかれ~!
これから6組の子とかとカラオケ行くんだけど
レイも行かない??
同中の子もいるよ♪♪》
こいつは私の性格を分かった上でこういう事を言ってるのか。
溜め息が零れるが、いちいち腹を立てたらキリがないので冷静に応対しておくとしよう。
《遠慮しとく。楽しんできなよ》
それだけ送って、携帯電話を鞄の中に仕舞うと新入生の群れの中を進んだ。
女子って、いや男子もか。話しながら歩いてる奴らって、随分歩くのが遅いと思う。
私の場合は普通であるつもりだが、無意識に早足なんだろう。気付けば周りは誰もいない。このままさっさと帰ろう。今日は買い物がある。
すると、だ。
「…おいっ!!」
物凄い力だった気がする。肩を掴まれた。
正直に驚いた。首だけで振り返ると、微かに人影。何つー怪力だこの野郎…
「……っ、痛い」
思わず顔を歪める。そいつはぱっと手を離した。
「あ、ごめん…」
肩をさすりつつ、振り返る。鞄を持って霜村高校の制服を着た男子生徒が、息を切らしてそこに居た。髪は染めてないと思うけど、茶髪だ。ボタンは第二まで開いてるし、ネクタイも緩い。ブレザーもボタン閉めてないし、制服をきちんと着てない所を見ると真面目な奴ではないらしい。中々整った顔立ちだけれど、眼力が鋭い。そして何より、身長がでかい。150ちょっとの私と30cm近く差がありそうな、体格のいい野郎だ。
で、その怪力の男子生徒が。私に何の用か。
「何か」
「っ、はぁ、くそ…テメ、歩くのクソ速ぇんだよ……やっと追い越したってのに、その言い方ぁねぇだろ」
質問の答えになってない。てかこいつ、ずっと追いかけてたのか。そんでもってこんな息切れしてると。そいつが息を整えるまで、私は無言でそいつを凝視していた。こいつ誰だろ、見覚えはない。
「……お前、瀬村だろ? 瀬村礼」
「瀬村礼ですけど。私に何か」
男子生徒は自分の鞄の中から、今日の4時間目に配布された数枚のプリントを出して私の目の前に突き出した。確か入学後に色々書きこまなきゃいけない面倒なやつだ。
「これ、忘れてった。担任が俺に届けろって」
御苦労なこった。私はそれを受け取ると鞄の中に仕舞う。
「そう、ありがとう」
そう言った瞬間に、男子生徒の目が大きく見開いた。驚いてる顔だ。
踵を返して歩き始めると、足音がついてくる。意識せずに歩き続けるが、気になって振り返った。怪力が後ろを歩いていた。
「……ストーカーを見るような目ぇすんな」
「そんなこと思ってないし」
「方向同じだけだから」
必死な様子で弁解する怪力。よく喋るなぁ、こいつ。
「お前北守中出身だろ、俺はその隣の杵嶋中なんだよ」
「あんたの出身校なんて知るか」
「はぁ!?」
ずかずかと大股で追い越した怪力が何か言ったが、聞き流す。
「ねぇ、あんた」
私がぼそっと呟く。
「何だよ」
「担任に言われたって事は、あんた私と同じクラス?」
「…それどころか俺、お前の隣の席なんだけど」
「……覚えてない」
「お前、瀬村だろ。俺は篠原だから、お前の左隣が俺だよ」
「篠原? フルネームは?」
「篠原遥」
「……随分と綺麗な名前」
「あっそ」
篠原遥は随分と口が悪い。私も人の事は言えない口調だけど、こいつよりはまだマシな気がした。
「にしてもお前、初日からすげーな。あの態度」
「何の事」
「昼に女に向かって暴言吐いたろ。物凄ぇしかめっ面で」
「……先に喧嘩吹っ掛けてきたのは向こうだけだ」
「無意味に女敵にすんなよ。めんどくせぇぞ」
「だから私は何もしてないって……」
高校生活1日目。
女子を敵に回して親友と昼を過ごし、不良と一緒に帰った。